Episode17 警邏隊の副隊長
警邏隊の詰所は、騎士団の詰所から、そう遠くない場所にあった。
歩きながら、クラウス様が、ぽつりと呟く。
「あいつ、今日は詰所にいるといいんだが」
「あいつ、というのは?」
「ああ、警邏隊の副隊長でね。学生時代からの付き合いなんだ」
「そうなんですね」
「誰にでも気さくに接するし、根もすごく真面目で、正義感も強いんだ」
クラウス様は、少し懐かしそうに目を細めた。
そう話しているうちに、警邏隊の詰所が見えてきた。
中に入り、受付で用件を伝えると、しばらくして、一人の男性が姿を見せた。
すらりとした長身に、鍛えられた体つき。
短く整えられた黒髪に、金色がかった緑の瞳。
制服をきっちりと着こなした、いかにも爽やかな好青年、という印象だった。
「クラウス、どうしたんだ、こんな時間に」
「ルシアン、急にすまない。実は……」
クラウス様が、ちらりとこちらを見る。
「彼女は、僕の婚約者の妹、エラリー嬢だ」
「初めまして。エラリーと申します」
「これはご丁寧に。ルシアンです」
白い歯を見せて笑いながら、そう名乗った。
……なんというか、日に焼けてて爽やか系スポーツマン、みたいな雰囲気だ。
前世で言うところの、清涼飲料水のCMに出てきそうな感じ。
肩の上で、フィンが、じっとルシアン様を見つめていた。
「それで、二人揃って、こんなところまで?」
「リゼット嬢のことで、話がある」
その一言で、ルシアン様の表情が、すっと引き締まった。
「……ああ、やっぱりか」
「やっぱり、というと?」
「実はクラウスから話を聞いた後、こちらでも少し調べてみたんだが、気になる話が集まっていてね」
ルシアン様は、近くの椅子に腰を下ろすよう促すと、懐から手帳を取り出した。
「彼女にアタックされて、婚約破棄にまで至った例が、これまでに二件あってね」
「二件、ですか」
クラウス様が目を見開いた。
「一件は、子爵家の三男坊。ガレスという男だ。もう一件は、豪商の息子で、アステールっていうんだけど」
手帳をめくりながら、淡々と続ける。
「あと、婚約破棄には至っていないけど、伯爵家次男のランドールという男も、彼女に言い寄られていたようだ。まあ、この男は方々で浮き名を流してる、ちょっとした遊び人でね。今も社交場に頻繁に顔を出してるから、話を聞くのは難しくないと思うよ」
ルシアン様は、一旦手帳を閉じてから、少し声のトーンを変えて続けた。
「それと、これは少し毛色が違うんだけど……とある伯爵家に、頻繁に出入りしてる、という噂もある」
「毛色が違う、……というと?」
「アッシュフォード家でね。リゼット嬢に何かされたという情報はないんだけど、あそこは息子が二人いるから、そのどちらかが付きまとわれているのかもしれない」
「その方たちも、被害に遭ってるんですか?」
「いや、まだ確証はないんだ。被害と言っても事件性があるとも思えないんだけど、その屋敷への出入りが、やけに頻繁らしくてね。何かしらの関わりがあるのは、間違いないと思う」
一通り話を聞き終えて、私は小さく息をついた。
「そのアタックされていた方々に、直接お話を伺いに行きたいのですが」
はっきりと、そう告げる。
「女性一人で、素性も知れない男に会いに行くのは、感心しないな」
ルシアン様は、困ったように笑いながら、そう言った。
「せっかくだから、ここは俺に任せてもらえないかな」
「いいえ、わたしも一緒に伺います」
きっぱりと言い切る。
「エラリー、それは……」
クラウス様も、心配そうに口を挟んだ。
「お姉様のためです。人任せになんて、できません」
肩の上で、フィンが、面白そうに囁いた。
「頑固だなあ」
フィンを無視してルシアンを見つめる。
「気持ちは分かるけど……」
「もし何かあれば、すぐに引きますから。とにかく、この目で確かめたいんです」
譲る気配のない様子に、ルシアン様は、小さくため息をついた。
「……分かった。それなら、俺も同行しよう」
「え、ありがとうございます」
「ただし」
ルシアン様は、少し真剣な顔で付け加えた。
「危険はないとは思うが、俺が危ないと判断したら、すぐに下がってもらうよ。それは、約束してくれ」
「はい、分かりました」
「本当は、僕も一緒に行きたいところなんだが……仕事があって、そうもいかない」
悔しそうな顔で、クラウス様がそう言った。
「本当にすまない。よろしく頼む」
申し訳なさそうに、そう頭を下げた。




