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転生令嬢は今日も推理する  作者: 深見きくり


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Episode16 婚約者の言い分



クラウス様が勤める騎士団の詰所は、王城のすぐ近くにあった。


「あの、クラウス様に、お目にかかりたいのですが」


受付にいた若い騎士が、目を丸くした。


「え、あの……失礼ですが、どちら様で……」


「ベルナード子爵家の、エラリーと申します。クラウス様には、姉が大変お世話になっておりまして」


「は、はあ……少々お待ちを」


慌てた様子で、奥へと駆けていく。

しばらくすると、当のクラウス様が、血相を変えて飛んできた。


「エラリー!?どうしたんだ、こんなところまで」


セレナお姉様と婚約してからは、もう長い付き合いだ。

私にとっては、義理の兄も同然の存在になっていた。


「クラウス様に、直接お伺いしたいことがあって参りました」


はっきりと、そう告げる。

周りにいた騎士たちが、何事かとこちらを窺っているのが分かった。

肩の上で、フィンが、小さく呟いた。


「うわ、注目されてる」


「昨日、一緒にいらした女性のことです」


その一言に、クラウス様の顔色が、目に見えて変わった。


「女性って……まさか」


「昨日、セレナお姉様が、街を歩くクラウス様を見かけたそうです」


淡々と、事実だけを告げる。

クラウス様は、しばらく言葉を失っていた。


「これは、一体どういうことですか」


はっきりと、そう問い詰める。


「セレナお姉様、すっかり誤解して、今はもう憔悴しきっています」


「な……!」


クラウス様の顔から、さっと血の気が引いた。


「そんな、まさか……!今すぐ、会って説明しないと……!」


矢継ぎ早に取り乱す様子は、もはや事情説明どころではなかった。


「わあ、必死だね」


フィンが、面白そうに呟く。

……この様子だとお姉様にベタ惚れなのは、間違いなさそうだけど。

でも、ベタ惚れと浮気心って、両立するのかもしれないし……詳しく追及せねば。


「クラウス様、少し場所を変えられませんか。込み入った話になりそうですし」


周りの騎士たちの視線を意識しながら、そう切り出す。


「あ、ああ、そうだな……すまない」


人気の少ない中庭へ移動すると、クラウス様は、深く息を吐いた。


「まず、誤解させて悪かった。浮気なんかじゃない」


「謝るなら、わたしにじゃなくて、お姉様にでは?」


「……その通りだな。すまない」


クラウス様は、バツが悪そうに頭を下げた。


「では、昨日の女性は?」


「リゼット嬢だ」


「リゼット様……?」


初めて聞く名前だった。


「彼女、少し前から、僕に付きまとうようになってしまってね」


「腕まで絡ませて、随分と親しげだったみたいですね」


「そ、それは……!振り払おうとしたんだが、あの場は人目もあったし、下手に騒ぎを大きくするのもと思って……」


しどろもどろに、言い訳を重ねる。


「その後、たまたま落とし物をしたふりをして、それとなく腕をほどいたんだ」


慌てて、そう付け加えた。

……たまたま落とし物のふり、って。

もっと、はっきり拒絶してくれたらいいのに。


「セレナお姉様は、それで、すっかり傷ついていらっしゃいます」


「…本当に、すまない…」


「だから、私に謝られても困ります」


クラウス様は、深く俯いて頭を掻いた。


「実は、以前彼女にアタックされていた人から、少し前に聞いたんだ。リゼット嬢が、何か薬のようなものを使っているらしい、と。それに、その婚約者の女性の元に、妙な贈り物が届いたという話も」


「薬に、贈り物、ですか」


「まだ噂の域を出ない話だったし、彼女、公爵家の一人娘で。あまり無下にもできなくて……」


クラウス様は、苦しげに眉を寄せた。


「それに、もし本当に何か薬のようなものを使っているなら、下手に刺激して、セレナにまで何か及んだら……そう思うと、うかつに動けなくて」


言葉を切って、拳を強く握りしめる。


「まさか、こんな形で誤解させて、彼女を泣かせてしまうなんて……僕は、本当に馬鹿だ」


絞り出すような声だった。


「事を大きくするのもどうかと思って、今まで自分だけで抱えていたが……セレナを傷つけるくらいなら、もう迷っている場合じゃないな」


クラウス様は、顔を上げた。

さっきまでの弱々しさは、もう消えていた。


「知り合いに、警邏隊の人間がいる。今度、相談してみるよ」


「相談って……でも、相手は公爵家ですよね?そんな簡単に、事を荒立てて大丈夫なんですか?」


公爵家となれば、迂闊に苦情を申し立てることもできない。

だからこそ、まずは事実関係をきちんと固めておく必要がある。


「それは……」


「それに、薬のことも、まだ噂の段階なんですよね?そんな曖昧なことで、警邏隊が本当に動いてくれるんですか?」


矢継ぎ早に問いを重ねる。

不安が、次々と口をついて出た。


「大丈夫、いきなり組織として動いてもらうわけじゃない。まずは、友人として、個人的に相談するだけだ」


クラウス様は、少し落ち着いた様子で言った。


「学生時代からの付き合いでね。信頼できる奴だから」


「今度じゃ駄目です。今すぐ相談してください」


「…今から、行ってみるよ」


「行きます、わたしも一緒に」


食い気味に、そう答えていた。


「え、いや、エラリーは……」


「お姉様のことです。人任せになんて、できません」


きっぱりと言い切ると、クラウス様は、少し気圧されたように苦笑した。


「……分かった。じゃあ、一緒に行こうか」


肩の上で、フィンが、わくわくした調子で呟いた。


「面白くなってきたじゃん」




公爵家の令嬢。


謎の薬。


……どうやら今回も、一筋縄ではいきそうにない。


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