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落とされ人  作者: カーブミラー


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【097.予知】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 スエツグと出会って、ひと月。

 細胞の再生はうまくいき、皮膚も培養されたものが移植され、見た目にはほとんど見分けがつかなくなった。

 だが、その左腕は、まるで棒のようだ。

 その左腕からパックが外され、リハビリが開始された。

 筋力がかなり落ちている。

 スプーンさえ、持ち上げられない。

 彼は、“これも修行です”と黙々とリハビリに励んだ。


 休日は、彼も連れて、買い物に出る。

 彼は、市場やスーパーマーケットの食材の山を見て、驚きに目を見張り、オレの説明に耳を傾けた。

 もともと調理係をしてきた彼だから、そうしたことには興味津々なのだ。

 リハビリと称して、テオと一緒に調理をしだした。

 右腕だけでも手伝ってきたが、両手を使えることがうれしいに違いない。


 仕事中、スエツグから念をかけられた。

 心の中で(どうしたね?)と返事。

(向こうから、先生と話をしたい、と言ってきました)

(向こうから? わかった)

(相手は、大師父3人です)

(おや)

 大師父とは、〈マニ教〉を束ねる最高権力者だ。

(話の内容は聞いているかね?)

(いえ。ですが、先生を紹介したら、私には出ているように、と言われました)

(ふむ。重要な話かもしれないな。わかった。少し待っててくれるか?)

(はい)

「マリーン」

「はい、先生」

「少し仕事を休もう」

「もしかして、お疲れですか?」

「体調が優れないわけじゃないんだ。ちょっと考えごとをしたい」

「わかりました。私はどうしたら?」

「ひとりにしておくれ。君は、自分でできる仕事をしたまえ」

「はい」

 彼女は、私を部屋に残して、出ていった。

 ドアにカギをした。

 イスに座りなおし、マブタを閉じる。

 書庫に入る。

 スエツグが待っていた。

「お待たせ。つないでくれ」

「はい」

 目の前にふたりの男性とひとりの女性が現れた。

 肌も目も、色が違う。

 人種にこだわらないようだ。

 年齢もバラバラ。

 3人とも剃髪している。

 黄色い布を前で合わせ、くすんだ赤い帯で留めた服装。

 おたがいに一礼をした。

 〈マニ教〉教徒の挨拶だ。

 それからスエツグが3人の大師父を紹介してくれる。

「右からアライ大師父、テムジン大師父、オズニコフ大師父です」

「初めまして。パオロ・モーガンと申します」

「初めまして」と3人。

「では、私はこれで」とスエツグが去ろうとする。

 それを引き止めた。

「ありがとう」

「いえ」彼は微笑むと、書庫から出ていった。

「立ち話もなんですから座りましょうか」

 テーブルとイスをイメージすると、オレの右側にそれらが現れた。

 豪華なものではなく、シンプルなものだ。

 イメージだからといって、使えないわけではない。

 オレ自身が思索をする際には、自分のイスを出して、座っているのだから。

「本当は、お茶でもお出しした方が、と思うのですが」

「お気になさらずに」と真ん中の女性、テムジン大師父が笑みを浮かべた。

「では、どうぞ」

 3人が座るのを待って、オレも座る。

 オズニコフ大師父が、視線をオレの後ろに向けている。

「本棚が気になりますか?」

「ええ。ここまでの蔵書を見たことがありません。外の世界では、“図書館”なる館があると聞きました。そこには、無数とも思える蔵書があるとか」

 ということは、彼は〈落とされ人〉ではないのか。

「はい。その図書館にもよるのですが、小さな図書館は車での移動で貸し出しを行ない、大きな図書館ではあまりにも蔵書の数が膨大なため、得たい情報に手が届かない状態です」

「それでは意味がありませんね」

「ええ。そこですべての蔵書をデータ化して、コンピューターで検索閲覧するようにしました。それならば、コンピューターがあれば、その場で探してみることができます。それに蔵書を直接触らずに済むので、蔵書の痛みが少なく済みます」

「なるほど」

 テムジン大師父が手を伸ばし、オズニコフ大師父の腕を軽く叩いた。

「ああ、そうでしたな。話をするためにここに来たのでした」

「お話とは?」

「それは私から」とテムジン大師父。「まず、お尋ねしたいことがあります」

「なんでしょう?」

「我々の秘儀をどう思われますか? 信じられますか?」

「過去の文献からは科学的には証明できてはいません。また、脳科学の分野からも何が起こっているのか解明した人はいません。ですが、実際になんらかの作用が働いていることはさまざまな実験からわかっています。そして、実際にこうして行なわれているのです。信じないわけにはいきません」

「なるほど。では、我々の秘儀について、どのくらいご存知ですか?」

「行なわれている秘儀はふたつしか知りません。この以心伝心の術と物送りの術です。別の言葉ではテレパシーとテレポートと呼ばれています。どちらも超能力と一般には言われます。とするならば、ほかにもさまざまな秘儀があるはずですな」

「我々も超能力のことは聞きおよんでいます。ですが、実際にできるとは思えない術も語られました。未来予知や物に残された記憶を読み取ることなどです」

 前者はプレコグニション、後者はサイコメトリーのことだ。

「私も詳しいわけではありませんが、どちらも先天性の能力なのでしょう。データを見る限りはそのように思えます」

「なるほど。そうそう、礼を言うのを忘れていました。我が教徒のスエツグ・マツダを助けていただき、ありがとうございます」

 3人が頭を下げる。

「いえ。正しい人間なら誰でもしたことです。私は、正しい人間でありたい、とつねづね思っていますので」

「マツダにとっては、運がよかったと思います。ですが、これもひとつの運命なのでしょう。ほかの国々と同じように我々もあなたと接触をしたかったのですから」

「私の知識を欲しい、と?」

「いいえ。もちろん、有用な知識は欲しいのですが、おそらくここまでのものは、いらないかと思います」とオレの書棚を指した。

「では」

「さきほど、我々の秘儀には、未来予知はできない、というようなことを申しました」

「はい」

「ですが、過去にそうした未来予知を行なった術者がおりました」

「おや」

「あなたの言うとおり、その能力を先天的に持って生まれた者でした」

「なるほど」

「術者は、多くの予言を残しました。それらはほぼ間違いなく、起こったのです」

「それで?」

「その予言の中には、我々の道を示すものもありました」

「道?」

「はい。それらは、我々の教義のひとつとなっております。“人を導くこと”」

「いずれの宗教もそのことを教義にしていますが」

「ああ、我々は宗教団体ではありません。そう思われても仕方がありませんが」

「宗教団体ではない? ではなんです?」

「能力開発訓練所と言ったところですね」

「そんなところが、なぜ国を興したのです?」

「我々は」とそれまで口を閉ざしていたアライ大師父が口を開いた。「〈マニ教〉を興す前に国を興しました。落とされた場所の自然環境は厳しく、またまわりに落とされた人々との戦いもありました。我々は集まって生きねばなりませんでした。秘儀の開発も生き残るためのものだったのです」

「それが〈マニ教〉へと発展していった?」

「はい。最初は術者がいることさえ知らなかったのですが、次第にその数を増し、自分たちのまわりの環境に順応できるようになったのです。やがて、自分たちの術を子孫にも受け継がせるようになりました」

「なるほど」

「話を戻します」とテムジン大師父。「“人を導くこと”を教義のひとつにしたわけですが、どう導くべきなのかは示されていませんでした。ただ」

「ただ?」

「それを示す人物は必ず現れる、そう予言されていました」

 そういうと3人がオレを見た、熱い視線だ。

「まさか、それが私だと思っているのではないでしょうな」と頭を振った。

「予言には、その人物は、“知識を運んでくる者だ”とあります。そして、”知識を使い、我々を導き、人々を導くだろう”と」

 オレは笑った。

 3人は、真剣な表情を崩さない。

「バカなことは言わないでください。私には、それほどの力はありませんよ。確かに過去には、知識を使い、人々を誘導してきました。過去には、多くの人を集団自殺に追い込んだこともあります」

 そこで3人の反応を見た。

 3人は、動揺を隠そうと必死だった。

 それもそうだろう。

 人を集団自殺に追い込んだ、なんて言われては。

 彼らは集団をまとめる立場の人間だ。

 その集団を殺されてはたまらないはずだ。

「あの」と震える声で、オズニコフ大師父が言った。「それは目的があってしたこと、ですよね?」

「もちろんです。彼らの資産を奪うためでした。私利私欲ですよ。自分のふところを温めたかった。ただそれだけです」

「あなたは……人が死んでも……その、罪悪感は」

「ありませんね。彼らは勝手に私を信じたのです。そして、勝手に死んでいった。彼らの資産については、天国に持っていけない。私に譲ってもらえば、正しく使いましょう、と説得しただけです。そして、使いました。それが正しい使い道かは人の考え次第です」

 3人は、動揺も隠せなくなり、おたがいの顔を見合わせた。

「そんな人間を信じて、自分たちを導かせようとできるのですか? いつなんどき、あなたがたを死地に追いやるかもしれないのに」

 テムジン大師父が動揺しながらも言った。

「この惑星で、それをするおつもり、ですか?」

「将来のことはわかりません。でもいざとなったらやるでしょう。我欲はいつでもやってきますから」

 3人は、オレの前でどうするべきか、と相談しはじめた。

 ややあって、3人がこちらを向き、テムジン大師父が言った。

「一度、戻って、相談してまいります」

「そうですか」

「では、失礼いたします」

 彼らは、座ったまま、姿を消した。

 オレも書庫から出た。

 そうして、ため息をついた。

 オレに自分たちを導け、だと?

 まったく困った人間たちだ。

 そのくらい自分たちでできるだろうが。

 オレは、早退した。

 仕事に集中できる心境ではなかったから。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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