【095.以心伝心の術】
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仕事中に次の書物を引き出そうとした際、人の気配を感じて、仮想空間の部屋に入った。
そこには、スエツグが立っていた。
「なんだ、君か」
「すみません、先生」
彼もオレのことを“先生”と呼ぶようになっていた。
「次の書物を取ろうとしたら来てしまいました」
「私も次の書物をと思ってね。しかし、おたがいが書物を取ろうとしただけで、ここに来てしまうとも考えられないが」
「はい。今の時間は、ちょうど以心伝心の術がつながっている時間です。それが関係しているのかもしれません」
「なるほど。前回もそうだったね」
「はい。すぐに出ますね」
「うん……いや、待ってくれ」
「はい?」
オレは、少し考えてから訊いた。
「今、向こうとつながっているんだよね?」
「はい。こちらから呼びかければ、すぐに反応はありますが」
「師父と話をすることは可能かな?」
「ミタニ師父とですか?」
「いや。私の話を聞いてくださる師父なら、誰でもかまわないんだが」
「わかりました。訊いてみます。デボン」
「何かしら、スエツグ」女性の声だ。
「ハイタニ師父に伝えてくれませんか? 今、モーガン先生と一緒なんですが、先生が師父と話がしたいそうなんです。どうでしょう?」
「伝えるけど。今、師父たちは集まって話し合っている最中だから。また、後日になると思うわ」
「そう。何かあったのかな?」
「さぁ。とにかくそういうことだから。悪いけど」
「わかりました」
「ありがとう、デボン」と礼を言った。
「えっ? その声って、モーガン先生ですか?」
「そうです。初めましてだね」
仮想空間に女性が現れた。
剃髪しているが、まだ若い。
白人種で、薄い青の瞳。
「初めまして。デボン・フィッシャーです」と〈マニ教〉教徒の一礼をしてくれた。
「初めまして。パオロ・モーガンです」
彼女は、部屋の中を見回した。
「この書庫は?」
「先生の書庫ですよ、デボン。すごい書物の量でしょう?」
「ええ。でもどうしてふたり一緒にいるの? 先生ももしかして、〈マニ教〉の教徒?」
「いやいや」と首を振って答える。「偶然にこうなることを知ってね。それで師父と話ができないかと思ったんだ」
「そうでしたか。さきほどもスエツグに言いましたが、今は無理です」
「うん、聞いてたよ。別に今すぐでなくてもかまわないんだ。急ぎの話ではないからね。そう伝えてもらえればありがたい」
「わかりました。必ず伝えます」
「頼みます」
「スエツグ、ほかに何かある?」
「いいえ」
「では、先生。また」
「うん。ご苦労様」
彼女は一礼すると部屋から消えた。
まばたきをしていたら、どこに行ったか、と探していただろう。
そのくらいの瞬間だった。
ふたりで、マブタを閉じ、また開く。
現実世界に戻っていた。
「いやはや、おもしろいね」
そばにいたマリーンが首を傾げる。
スエツグは、別の部屋で、テオと一緒にいる。
「どうかしましたか?」とマリーン。
「なんでもない。さて、仕事を続けますか」
「はい」
マリーンは、わけがわからないながらも次の仕事の準備をしはじめた。
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