【090.拉致・5】
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「あれは、私だったのよ」とクリス。
「やっぱりね」
彼女の休みに、ホテルに部屋を取った。
今は、ベッドの中だ。
彼女が言ったのは、先日の拉致事件で上空を飛んでいたジェット機のことだ。
「あなたが拉致されたと聞いて、自分を抑え込むのが大変だったわ」
「そこまで心配してくれたのかい。ありがとう」
オレは、彼女の柔らかい唇にキスした。
「まさか、潜水艦があるとは知らなかったけどね」と彼女。
「そうだろうね。秘密裏に建造して、運用していたそうだから」
「あなたの知識のおかげ?」
「いや。私が落とされる前から運用されてたんだ。本来は、諜報員の送迎をやってるんだがね。軍事行動も可能だそうだ」
「へぇ。上空から見てて、驚いたわ。てっきり軍艦が来るものと思ってたから」
「だろうね」
「そしたら海中に黒い姿を見つけて。最初は未発見の巨大生物かと思ったのよ。でも、現れたのは、潜水艦だった」
彼女がクスッと笑った。
「あなたが計画したの? 一連の流れ」
「まさか。しかし、要人が拉致される可能性は高かったんだ。城下には、各国の諜報員が潜り込んでいるのがわかってたし、要人警護は陛下にしか就いてなかった。そこで、そうなったらどうするのかを訊いてみたんだ。そうしたら拉致されたのがわかってから、助け出すまでの手順がまるでなかった」
「それから計画されたのね」
「うん。要人には必ず発信機を身につけてさせる。だが、どうせ見つかってしまう。そこで渡り竜を模した追跡装置が追跡する。どこにいるかによって、救出方法が異なる。今回の場合は、貨物船で外洋に出ていったわけだが、準備が整うのに時間がかかったのもあっただろう。だが、貨物船の行き先はわかっていたから、途中で乗り換えがあると推測したんだと思う。乗り換えが行なわれた時点で、すべての行動が行なわれた」
「そうした行動パターンをすべて知ってるの?」
「おおまかにはね。状況によって、どうするかは、現場の指揮官次第だ」
「なるほど。それであなたを拉致した諜報員は、どうしてるの?」
彼女には、相手がラクロア王とは知らされていない。
「幽閉されてるよ」
「どの国の諜報員?」
「そこまでの情報は聞こえてこないな」
ラクロア王とは、あれから毎日会っていた。
仕事も見せている。
夕食を作ってご馳走したりもしている。
食材に関しては、北と南ではだいぶ違うらしい。
「初めて見るものばかりだよ」
「おたがいに交流が進めば、こうした食材の交易も行なわれるでしょう」
「交易か。それには、航路の確保が必要だな。専用の貨物船の建造も。飛行機はあるが、大陸間飛行できるほどではないし。〈スベルト〉の飛行機はどうなのだ?」
「そうした長距離を飛ぶ飛行機は、私の知る限りではありませんね。飛行船くらいでしょうか」
「飛行船か。我が国にあるか? サミュ」
「いいえ。試作された、という話も聞いたことはございません」
サミュエルは、諜報員ではなく、王の側近のひとりだった。
諜報員は、貨物船に残ったあのふたり。
いまごろは、王都に戻ってきているだろう。
「空と海の航路が確立されるまでは、交易は難しいですか」
王がうなずく。
「だが、無線通信はできる。周波数を合わせるだけだ。それだけでもありがたい」
「そうですね。ネットワークを張るには、ファイバーでつなぐしかありません。それも時間がかかるでしょう」
「製造技術はすでに?」
「ええ。先日、領土内のひとつで技術者が開発したものを見つけまして。あとは、海底敷設用の皮膜をつければいいかと。その皮膜の開発はこれからになります」
「なるほど」
そうした話は、室長に報告し、室長から陛下に伝えられる。
陛下もときどき、ラクロア王との会談を行なって、両国の良好な交流を模索している。
無線通信で、〈ラクロア王国〉とのやり取りも行なわれた。
「あなたのまわりは、いろいろと起こるわね」
「そうだね」
オレとクリスは、ふたたび交わった。
「それでどうだったね? 恋人と会って」
ラクロア王が、そう訊いてきた。
クリスが帰っていって、オレが城に戻り、王の部屋を訪ねたときに。
王には、事前に休みをもらうことを伝え、その目的も話していた。
「おかげさまで。快適に過ごせました」
「それはよかった。一緒に住めないのは残念だな」
「ええ。ですが、その方がいいのかもしれません」
「どういうことだね?」
「毎日、顔を合わせていると、相手の悪いところを見ることになります。それを我慢できているうちはいいのですが、いずれは」と首を振る。
「ケンカになり、恋は終わる、と?」
「ええ。ふたりともそれを危惧しているのですよ、きっと」
「まぁ、ふたりがそれでいいのなら、文句を言う筋合いではないがな」
「そうしてください」
ラクロア王は、1週間の滞在ののちに帰国の途についた。
1隻の軍艦が護衛に就く。
彼を港から送り出した陛下は「有意義な時間だった」と感想を述べた。
帰りしなに陛下に言われた。
「おまえに〈ラクロア〉へ行ってもらうかもしれない」
「そのときが来ましたら」
「うん。さすがに潜水艦は出せないがな」
「あはは。乗ってみたいですが、あまり長い時間は」とオレは首を振った。
「そうだな。船旅で2ヵ月。自由の身ならば、私が行きたいところだが、そうもいかぬ」
「近隣であれば出掛けられますのに」
「うん」
それでも自由には行動できないか。
御可哀想な陛下。
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