【089.拉致・4】
潜水艦は途中まで船を曳航し、軍艦に役割を譲ると、海中に没した。
オレは船内で、捕まえられた3人とともにいた。
潜水艦の兵士ふたりも一緒だ。
船内には、爆発物もなければ、銃火器もナイフもなかった。
武器になりそうなのは、カトラリーくらいなものだ。
曳航の役割が軍艦になる際に、オレたちは軍艦に乗り移った。
艦長と挨拶を交わす。
「彼らは、〈ラクロア〉の王とその家臣です。営倉に閉じ込めない方がいいでしょう」
「すでに部屋をご用意しております。多少、せまいかもしれませんが」
その部屋は、確かにせまかったが、一時的な拘束を考えれば、充分な広さだ。
3人がその部屋に入る。
オレは、案内されて、別の部屋に入った。
「陛下が映話をお望みです」
「わかりました」
部屋のデスクにあるコンピューターを起動し、陛下への映話申請を行なった。
しばらく待つと、女王陛下が映し出された。
「パオロ、無事か?」
「はい、陛下。私のために軍を動かしてくださり、ありがとうございました」
「当然だ。パオロは、〈スベルト〉の宝だからな」
「そう言っていただけて、ありがたいです」
「ところでおまえを拉致したのが、〈ラクロア〉の王というのは本当か?」
「はい。以前に拝見した写真と同一人物でした」
「そうか」
陛下は、考え込んだ。
「国王を捕まえたことは、公表されるので?」
彼女が首を振る。
「いいや。そんなことをしてもどちらの国も動揺するだけだ。戦争のきっかけにもなりかねない」
「でしょうね」
「とにかくこちらで協議してみる。そのあいだの接待を任せてもいいか?」
「かしこまりました」
港に着くと、1台のバスに乗り込んだ。
そのバスで城に向かう。
「こんな車での移動をさせられるとはな」と王。ため息をついている。
「ご辛抱を。〈ラクロア〉の王が〈スベルト〉に来ている、と諸国に知られてはまずいでしょう?」
「諸国か」
王はそれっきり、城に着くまで無言で窓の外を眺めていた。
城に到着すると、室長が待機していた。
テオとマリーンも一緒だ。
「無事でよかったわ、パオロ」
「心配をおかけいたしました、室長」
「部屋が用意されてるわ。ひとまず、そちらへ行きましょう」
その部屋からは、城下が一望できた。
王は、その景色を何も言わずに眺めている。
サミュエルと客室乗務員の女性は、テーブルについている。
室長とオレもテーブルについていた。
何も言わずに。
そこへノックの音。
室長がドアを開ける。
入ってきたのは、女王陛下だった。
オレはふたりを立ち上がらせた。
陛下が、こちらにうなずく。
それから窓に立つ王を見た。
「ラクロア王、ようこそ御越しくださいました」
王が、視線を陛下に向けた。
怪訝な表情。
「あなたは?」
「〈スベルト王国〉女王、ノーラと申します」
「女王?」と片眉を上げた。「ずいぶんとお若いが」
「もうすぐ13になります」
「13歳……失礼だが、その御歳で国を統治していらっしゃるのか?」
クスリと笑う陛下。
「失礼。統治は、評議会が行なっております。私は、この国の象徴的存在でしかありません」
「ああ、なるほど」
王は、陛下に向きなおった。
それから一礼した。
「〈ラクロア〉の王、セバスチャン・ラクロアです。御見知りおきを」
「どうぞ、お楽に。当地に滞在中は、国賓として御迎えいたします」
「ありがとうございます。本来なら投獄されても文句はありませんのに」
「そうですわね。ですが、一国の王をそのように扱うのも問題がありますので。今回の件では、できれば、平和的な解決を望んでおります」
王は、ただうなずいた。




