【087.拉致・2】
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その船は中型の貨物船で、オレは奥深い隠し部屋に入れられた。
折りたたみのテーブルとイスとベッド、それだけでいっぱいのせまい部屋だ。
テーブルの上には、パンとポットとカップ、砂糖にミルクピッチャー。
「ここでしばらく我慢してください」とサミュエル。「外洋に出たら、もっといい部屋に移ってもらいますので」
「ルームサービスは頼めるかね?」
サミュエルは笑いながらドアを閉じた。
ルームサービスはなしか。
まぁ、仕方あるまい。
オレは、ポットからカップにコーヒーを注ぎいれ、パンを食べることにした。
固いパンだった。
コーヒーに浸して食べる。
こういう食べ方はあまり好きじゃないんだが。
身体が船の揺れを感じた。
出港したのだろう。
どのくらいの時間が経ったのか。
ドア外に人の気配。
ドアが開いた。
サミュエルが立っていた。
「お待たせしました、モーガンさん」
「次のお客には、本を用意しておいた方がいいよ。退屈で死にそうだった」
「そうでしたか」
甲板に出た。
まわりの景色を眺める。
どこにも島影はない。
空気は冬の気温。
サミュエルが左舷に歩いていく。
そちらには、車のドライバーとマリーンを人質にしていた男が待っていた。
「船を乗り換えます。それに乗れば、快適な船旅を満喫できますよ」
「日数は?」
「ふた月ほどかと」
やれやれ。
甲板から左舷の海を見下ろす。
そこには、ヨットのような細長い船がつながれていた。
帆柱がある。
帆はたたまれているようだ。
細長い円柱が見える。
煙突だ。
どうやらエンジンも積んでいるらしい。
その船の甲板にはひとりの女性。
波は穏やか。
甲板からその船に縄梯子が下ろされている。
サミュエルが先にたって、降りていく。
次にオレ。
あとからふたりの男が降りてくるかと思ったが、ふたりは甲板に残ったままだ。
その船の甲板右舷に開口部があり、そこから中へと入った。
リビングルーム。
絢爛豪華ではないが、快適に過ごせる空間になっている。
奥には、通路があり、いくつかの部屋が見える。
その手前には、階段があり、上へと向かっていた。
「ひとまずは、お座りを」とサミュエル。「すぐに走り出しますので」
「さきほどの女性がこの船のキャプテンですか?」
「いいえ。彼女は、客室乗務員です。キャプテンは、操舵室にいます」
「おひとりでこの船を?」
「動き出せば、彼も降りてくるでしょう」
船の揺れに走り出した感じが加わった。
それからしばらくして、階段からひとりの男性が降りてきた。
短い銀髪をオールバックにした灰色の瞳。
こちらを見て、笑顔になる。
手を伸ばしてきた。
「ようこそ、ミスター・モーガン」
「初めまして、キャプテン」
握手を交わす。
「セバスチャン・ラクロアと申します。お見知りおきを」
握手に力が入る。
この人物の顔も名前も、オレは知っていた。
「驚きですな。一国の王がこんな海の上にいるなんて」
そう、彼は〈ラクロア王国〉の王だ。
彼はひと笑いした。
「ご存知でしたか。話が省けます」
この惑星のことを調べた際に、資料を記憶したのだ。
その資料は、どうやら諜報活動の成果らしい。
〈ラクロア王国〉は、南半球にある大陸を治めている国のひとつ。
〈スベルト王国〉よりは小さいが、それでも南半球では最大の国だ。
この王は、30代半ば。
先王の息子だ。
先王はすでに他界している。
おたがいにソファーに腰を降ろした。
「私は」と若き王。「海に出るのが好きでしてね。本来なら部下に任せるんですが、たまにはこうして客人を迎えるのもいいだろう、と思いましてね」
「しかし、危険でしょう? 外洋で事故にあったり、ほかの国に捕まったりして」
「可能性はあります。ですが、そのへんは注意していますから」
「ふむ。では、注意不足ですな」
「はい? どういう意味――」
王がそこまで言ったところに女性が飛び込んできた。
「セビー、ジェット機に見つかったわ」
「ジェット機だと? 〈スベルト〉のか」
王が甲板に飛び出していった。
オレもサミュエルも甲板に出た、慌てずにゆっくりと。
ジェットエンジンの音を追って、空を見上げた。
〈スベルト〉のジェット機が1機、旋回している。
オレはジェット機に向かって、手を振った。
ジェット機が翼を振って、返事をする。
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