【086.拉致・1】
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城下は、白く雪化粧していた。
〈スベルト〉にも冬の到来だ。
外に出るのに、コートは必須。
市場はあいかわらず熱気であふれている。
おかげで路面は雪が融けてぬれてる状態。
傘を差さずにレインコートで歩く。
食材の山にも冬の姿がある。
売り子と相談して、新しい料理に挑戦してみることにした。
食材の購入を終え、カフェのカウンターでひと休みする。
「ずいぶんと買い込みましたな」
その声は、となりの席からだった。
ひとりの男性が座っていた。
年齢は、60代後半か?
白い肌のホオを、寒さでピンクに染めている。
白髪混じりの金髪は、軽いウェーブがかかって、肩まで伸びている。
顔は柔和な笑み。
服装は、グレーのスーツ。
足元は、黒い革靴。
ドリンクは、ホットミルク。
「ええ。雪が降り積もる前に、と思いましてね」
「なるほど。お時間をいただけませんかな? パオロ・モーガンさん」
ん?
その男性をじっと見た。
顔見知りではない。
「どこかでお会いしましたかな?」
「お初にお目にかかります。サミュエルと申します。あちらを」
彼が指で指し示した方を見やる。
カフェの外、市場の外れに女性が立っていた。
その後ろに男性。
そのふたりは、こちらを向いていた。
女性は怯えている。
オレは、サミュエルと名乗った男をジロリとにらんだ。
「マリーンをどうするつもりです?」
その女性は、マリーンだった。
どうやら男性に脅されているらしい。
「あなた次第です、モーガンさん」
「それで?」
「私どもと一緒に来ていただきたい」
「なぜ?」
「我々も〈スベルト〉同様に知識を必要としていましてね」
なるほど。
いつかはこういう事態になるかもしれない、とは思っていた。
知識は、どこでも使える。
この惑星上で、使える知識は、落とされた人間の脳にしかない。
だから知識を蓄えたオレのような人間を欲しがって、横取りしようとするのだ。
「それで私を?」
「ええ。おウワサはかねがね聞いております。お願いできませんか?」
「お願いではあるまい。マリーンを人質にしてる段階で」
「そうですな」と微笑む。
オレは、少し考えてから、答えた。
「わかりました。彼女は解放してくれますね?」
「ご協力願えると?」
「ええ。まずは彼女と話をさせてください」
彼はうなずくと、マリーンを脅している男に合図を送った。
ふたりが、こちらへと歩いてくる。
店に入ってきた。
テーブル席に座る。
サミュエルとともに立ち上がり、そのテーブル席へ移動した。
「先生」と震える声を出すマリーン。
「大丈夫だよ。この人たちは、私たちに危害を加えるつもりはないから」
「でも」
「この荷物を持って、テオに知らせておくれ。私が拉致された、と。この人たちは、私の知識を欲しがっているんだそうだ。君は解放してくれるからね」
「そんな」
「大丈夫。さぁ、立ち上がって」
彼女を立ち上がらせ、荷物を持たせる。
「モーガンさん、フェイスも彼女に渡してください」とサミュエル。
「位置を特定されてはまずい、というわけですな」
オレは、言われたとおりにした。
脅していた男が、彼女を連れて、ドアに向かう。
ドアの外に彼女を押し出すと、こちらに戻ってきた。
「では、モーガンさん、行きましょうか」
「そうだね」
ふたりにはさまれるようにして、オレはカフェを出た。
マリーンが少し離れたところから、こちらを見ていた。
微笑んで見せる。
きっとあとをつけるつもりだろう。
だが、市場の外れで、車に乗せられた。
ふたりにはさまれる形で、後部座席に収まる。
車にはドライバーが乗っていた。
彼女の姿が見えなくなるまで、オレは後ろを見ていた。
前を向く。
「これからどこへ?」
「港に向かいます。それから船に乗り込んでいただきます」
「船? どの国へ?」
「それはまだ言えませんね。ですが、高待遇で迎えさせていただきますよ」
「高待遇ですか。こちらからの要望は?」
「できるだけ、としか」
「でしょうな」
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