【085.映話】
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調査旅行は、いくつかの洞窟に改善を施して終わった。
あとは、同行していた兵士たちが、ほかの洞窟に施してくれる。
必要な資料を作成し、すべての洞窟に配布するようにも依頼した。
老婆が築き上げた施設近辺には、〈スベルト〉の兵士が地上基地を整え、セキュリティーを確保し、物資を届けられるようにした。
施設内の人々には、コンピューターが提供され、ネットにも常時接続される。
彼らの知識が〈スベルト〉の知識になるのだ。
その知識量に文化院の面々は驚いた。
「まさかこんなにあるなんて」「重複分を考えても新しい知識の量は半端じゃありませんよ」「さまざまな技術がさらに進歩するわね」
そのままでも利用可能なものも多い。
医薬品は、すぐさま製造にまわされた。
必要としている人々がいるのだ。
しばらくして、室長に電話が入った。
「はい……ええ、まわしてください」
室長は、受話器を持ったまま、オレを手招きする。
「お久しぶりですわね。お元気でいらっしゃいます? そう、よかったですわね。今、パオロと代わりますわ」
受話器を渡してくる。
「誰ですか?」
「〈エルゼンタール〉のドクターからよ」
そう言われてもすぐには思いつかなかった。
だが、〈エルゼンタール〉といえば、あの老婆を思い出す。
「ああ、あのかたですか」
受話器を受け取り、話し出す。
「お久しぶりです」
「お久しぶりだね。元気かい?」
「おかげさまで。そちらは?」
「こっちもだよ」
「それはよかった」
「こうやって、遠方と連絡が取れるのはありがたいね」
「ええ」
「映話できないのが残念だけどね」
「何をお使いですか?」
「これかい? 提供してもらったコンピューターだよ」
「なら映話できますよ。そのまま、待っていてください」
受話器を室長に手渡す。
室長が電話機のボタンをいくつか押した。
受話器を電話機に戻す。
「どうも」
自分の席に座ると、すでにコンピューターの画面上に老婆の姿があった。
「映話といっても簡易的なものですがね」
「それでもおたがいの顔を見れるのはありがたいよ」
老婆は、白い服をまとっていた。
医療関係者が着る服装だ。
背後は、岩肌。
洞窟内の診療室らしい。
明るさは充分にあるようだ。
「ドクターらしく見えますね」
「そうかい? ならうれしいね」
彼女の横には、マイラがいた。
彼女も同じ服装だ。
「お仕事の方はどうです?」
「さっきまで忙しくしていたんだよ。洞窟内のみんなの健康管理をしてね」
「なるほど。それで何か御用でも?」
「忙しかったかい? たんにつながるのを確認したかっただけなんだよ」
「ああ、そうでしたか。こちらは普段どおりの仕事をこなしていただけです。このくらいはなんでもありませんよ」
「ならよかった。こっちは雪が積もって、外に出ていけなくてね。それでもみんなゲームを楽しんでいるよ」
「ゲーム?」
「ボードゲームやカード。〈スベルト〉からの支援物資の中に入ってたんだ。そんなの、ここにはなかったからね。子どもたちも大人たちも一緒になってやってるよ」
「なるほど。それは気付かなかったな。カマドはどうです?」
「うん。薪の減る量が減ったそうだよ。まぁ、調理方法も変わったから、それもあるのかもしれないがね」
「あのままでは、時間がかかってましたからね。手間はかかりますが、その分、味もよくなるはずです」
肉をひと口ずつにしたり、加熱のムラをなくしたりして、かかる時間を短縮したのだ。
調理方法が変わり、調味料も手に入った。
「新しい食材も教えてくれたから、みんな喜んでるよ。明かりも充分だ」
照明器具は変わらないが、発電方法をソーラーパネルから別の方法に変更した。
カマドの熱で発電するようにしたのだ。
ソーラーパネルでは、降雪時には使えないだろうと考えて。
「診察室の明かりは?」
「発光パネルを下から持ってきたんだ。〈スベルト〉の支援物資とみんなにはウソをついてね」と笑みを浮かべる老婆。
「まだ秘密に?」
「ああ。まさか、あんな施設が自分たちの下に出来上がってるとは、夢にも思っていないよ。言っても信じないだろうさ」
「そうですね。施設のみなさんには?」
「話したよ。支援物資にコンピューターが届けられたから喜んでね。それにネットにもつながって、そっちの人間と意見交換もできるようになったから、ちょっと混乱もしているが、おおむね、好意的に受け止めている」
「では問題にはなっていないんですね?」
「なっていないね。外に出られるようにもなったから、それも喜んでる」
「今までは?」
「日光浴はしてたよ、グラスファイバーで太陽光を引き込んでね。でも外の空気はまた違うから」
「確かに」
外への出入り口は、軍の施設が建てられている。
そこでなら安心していられるのだ。
しばらく話してから映話を終了した。
「どうやら」と室長。「問題は起きていないようね」
「ええ。春になるまで備蓄がもつかどうか心配ではありますが」
「薪は大丈夫でしょう?」
「おそらく。食料も大丈夫だとは思いますが、なんとも言えません」
「そう。様子見するしかないわね」
「ええ」
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