【079.安心材料】
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長雨もいつのまにか去り、快晴の日々が続いた。
だが、暖かくはなく、寒い風が吹き抜け、人々の装いも冬になっていた。
そんなある日、室長に呼ばれた。
「調査旅行に行ってもらいたいの」
「調査旅行、ですか?」
前回の調査旅行は、名目だけだった。
今回は、室長直々の依頼だ。
「どこへ?」
「〈エルゼンタール〉よ。あなたは、一度、行ってるわね」
「ええ。陛下とともに。とはいえ、招待されて行った場所は平原でした。それに武装した兵士たちもいましたし」
「今回は、あなたたちだけで行ってもらいたいの。もちろん、あちらからの出迎えもあるわ」
「そうですか。そう言えば、サリオスとの約束がありました」
「約束?」
「あちらに伺うと」
「ああ。なら別に文句はないわね」
「ええ。ですが、目的は?」
「もうすぐ冬よ。彼らに必要な知識を用意しなくては。陛下も御心配なされているわ」
「なるほど」
我々3人は、前回とは違い、ヘリコプターではなく、車での移動となった。
〈エルゼンタール〉は、〈スベルト〉南部に位置し、王国の一部に併合されている。
当時、ナンバー2だったサリオスが、現在の領主として、治める土地だ。
我々に同行するのは、ドライバーの男性。
名前は、デイブ。
ガッシリした体格の軍人で、武器を携行していた。
オレも念のために前回と同じく、プロテクターとナイフで武装していた。
テオとマリーンにもプロテクターを着けさせている。
「ここまでする必要があるんですか?」とテオ。
「念のためだよ。サリオスが我々を拒絶するとは思えないが、彼以外はなんとも言えない。民衆がどう出るかわからないんでね」
「なるほど」
マリーンは、不安そうだ。
「大丈夫だよ、マリーン。君は私のそばにいればいい。いざとなったら守れるから」
「はい、先生」
〈エルゼンタール〉に入る。
まだ暖かいとはいえ、山々は赤く、秋の装いだ。
領土に入って、しばらく行くと、前方に建物が見えてきた。
建物といっても平屋建ての質素な家だ。
まだ新しい。
その表には、装甲車とトラックが停まっている。
デイブの話によれば、その平屋建ては軍が建てたもので、駐留施設だという。
そこが我々の合流地点だ。
近づくと、その建物から兵士が出てきた。
総勢14人。
軍服は〈スベルト〉のものだが、中身は〈エルゼンタール〉の軍人。
家の前に整列し、その前にふたりが立つ。
そこへこちらの車が到着すると、全員が敬礼。
ふたりの兵士がドアを開けてくれる。
車から降りて、兵士たちの前に立つふたりのところへ歩み寄る。
「遠いところを来ていただき、ありがとうございます」とひとりが敬礼をしたままで言った。
「お出迎え、ありがとうございます。パオロ・モーガンです」
「お待ちしておりました。私は、〈スベルト国〉領地、〈エルゼンタール〉を守備するスコット・ベクスターと申します。今回の視察の案内役を務めます。この者は」ともうひとりを見る。「私の部下で、タッカー・ハウゼンです。皆様の警護に当たります」
「タッカーです。よろしく」
ふたりが敬礼をやめる。
「よろしくお願いします。これだけの警護が必要と考えられる危険があるのでしょうか?」
「あはは、念のためです」とベクスター。「しかし、〈スベルト〉に併合されたことを快く思わない人民もいます。まだまだ一枚岩にはなっておりませんので」
「わかりました」
我々の車を真ん中に、前を装甲車、後ろをトラックがかためる。
道は、途中まで整備されていたが、そこから先はまだ舗装もされず、整えられていただけだった。
だが、まだ整えられてから日数が経っていないおかげで、デコボコは少なかった。
夕方近く。
案内されたのは、塀に囲まれた集合住宅だ。
塀の中に入ると、そこでサリオスに出迎えられた。
「よく来た、パオロ」
「約束を果たそうと思ってね」
「あはは。まぁ、今日はここで休んでくれ」
彼の案内で、集合住宅に入る。
そこには、いくつもの部屋があり、多くの人間が出入りしていた。
民間人もいれば、軍人もいる。
驚いたことに子どもたちの姿も見える。
「子ども? 王室に引き取られるんじゃなかったのかね?」
「そのことか。王室が子どもを引き取っているのは聞いた。だが、ここでは、親たちが反対してな。王室とも相談して、こちらで育てることに決まったんだ」
「なるほど。まぁ、確かにそれなりの年齢に育ってしまっているからな。親から引き剥がすのは可哀想でもある」
「そういうことだ。その代わり、教育の支援をお願いしてある」
「必要だな。識字率はいい方なのかな?」
「あまりよくはない。何せ、必要なことは口頭で済むからな。それに生活優先な村がほとんどだ。それなりになるには、時間がかかるだろう」
「そうだな」
案内されながらひとつの部屋の前に来た。
「君たちの部屋は、こちらの部屋になる。4人一緒ですまないが、我慢してくれ。バス・トイレは、共同だ」
オレは、その部屋を見た。
2段ベッドがふた組に、テーブルと4脚のイス。
テーブルには、果物が載せられたカゴがある。
「充分だ」
「必要なものがあったら言ってくれ。できるだけ用意する」
「ありがとう」
住宅のあちこちを案内してもらう。
「ほかにもこれと同じ住居がある。そっちはすべて一般人が住んでいる」
「つまり、ここは行政施設と?」
「ほとんどそうだな。洞窟でもよかったんだが、いろいろと不便でな。それでここに間借りしているわけだ」
「いずれは、専用の施設を建てるつもりなのだろう?」
「ああ。だが、その前にあれこれと問題を片付けてしまわないと」
「問題?」
「それは明日。今日のところは、部屋で休んでくれ。食事は持っていかせるから」
そう言われては、何も言い返せず、我々は部屋へと引き返した。
「どういうことでしょう?」とテオ。
「今日のところは忙しい、ということだろう。明日になったら説明してくれるさ。それよりもベッドをどう使おうか?」
「先生とマリーンは、上を使ってください。私とデイブは下を使います。いいよね?」とデイブを見るテオ。
「その方がいいでしょう」
夕食は、テーブルに並べられた。
「素朴というか、なんというか」
子豚くらいの大きさの動物の丸焼きに、ざく切りにされた根菜がゴロゴロ入ったスープ。
それに葉物野菜と果実の盛り合わせ。
調味料も置かれたが、岩塩の塊だ。
「この土地には、料理人が少ないんですかね?」
「全然いないんじゃないか?」
テオとデイブが呟く。
「とにかく、いただくとしよう」
デイブが丸焼きを切り分ける。
テオがスープ、マリーンが野菜をそれぞれの皿に分ける。
食べはじめてわかった。
「やっぱり料理人はいませんね」
どれも素材の味そのものだ。
味は、自分でつけるしかない。
「岩塩があるだけ、マシだろう」
岩塩を添えてあった石のナイフで削って、料理にかけていく。
「どのくらいかけていいか、わかりませんね」
「そうだね。これこそ目分量だな」
スープの根菜は、ほどよく柔らかくなっていて、悪くない。
葉物野菜は、おそらく野菜工場からのものだろう。
果実は、柔らかく甘い外皮と硬いタネ。
タネは食用にはならないと思われたので、除いて皿の端に置く。
就寝。
上段のベッドをきしませながら、オレとマリーンは横になった。
明かりが消えると下段のベッドもきしんだ。
しばらくすると布団の下で、何かがオレの腕に触れた。
感触から指だとわかる。
マリーンしかいない。
彼女を見ると、暗闇の中で、こちらを見ている彼女の瞳が見えた。
指が引っ込んだ。
オレは、彼女のその手を追って、つかんでやった。
「お休み」と唇を動かすと、彼女はうなずき、マブタを閉じた。
知らない土地で、初めてのベッド。
不安なのだろう。
手をつないでやるだけでも、マリーンにとっては安心材料になるはずだ。
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