【077.告白】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
そのカフェは、郊外にしてはとても都会的だ。
外観も内装も、食器や器具もきれいに整えられている。
スタッフはむしろ、ホテルのカフェにいても不思議はないほどだ。
制服も態度もきちんとしている。
ここは、軍の施設が目と鼻の先にある町。
そう、クリスに会いに来たのだ。
今日は、彼女の休暇の日だ。
と言っても一日だけだが。
カランカラン、と小さなカウベルが来客を知らせる。
ドアの方を見ると、私服姿のクリスが中に入り、客たちを見回している。
オレが手を挙げて、彼女の意識をこちらに向けると、笑みを浮かべてこちらに歩いてくる。
途中で、スタッフに注文を伝える彼女。
オレの座っているテーブル席の前に立った。
「待った?」
「このとおり、来たばかりだよ」とコーヒーカップを指す。
そこには、まだ湯気の出ているコーヒーがひと口分だけ減っていた。
彼女がとなりの席に座る。
スタッフが、彼女の前にカップを置いた。
カフェオレだ。
「お話って?」と言いながら、そのカフェオレに口をつける彼女。
「うん」
オレは、彼女がカップを置くのを待ってから口を開いた。
「先日、基地内で会っただろう」
「ええ。ああ、ごめんなさい。ケビンが失礼なことを言って」
「いや、いいんだ。話というのは、そのことについてなんだ」
彼女は、オレの顔を覗き込んだ。
「どういうこと?」
「言っておくべきだと思う。私の過去のことだ」
「“過去は過去”よ? 話さなくてもいいわ」
「それでもだ。私は、詐欺師だった。ケビンの言うとおりのね」
「詐欺師……」彼女は絶句、とまではいかないが、次の言葉は出てこない。
「だが、彼の言っているような詐欺師ではない。私のターゲットは、個人ではなく、団体だ」
「団体?」
「そう。会社や国などが対象でね。もちろん、その中で個人を騙すこともある。だから君を騙している可能性はまだある、とは言えるだろうな」
「そんな」
「君が私の言葉を信じてくれるのなら、いいんだがね。私は、ここ〈スベルト〉では詐欺行為をするつもりはない」
「“〈スベルト〉では”? どうして?」
「詐欺をしても逃げ場所がないからだ。国境を越えて逃げることはできる。だが、そこが弱肉強食の世界では生きていくのにひと苦労だろうし、それなりの国力を持つ国だと迎え入れてもらえるかわからない」
「でもあなたには、知識があるわ。それを使えば」
「知識か。それを宝として認めてくれる国は多くはあるまい。君に助けてもらえたことは私にとっては喜びだよ。“知識は宝”と認めてくれる国に連れてきてくれて、ありがたいと思っている」
「それは私の仕事だもの。でもそう思ってくれているのなら、うれしいわ、パオロ」
オレはうなずいた。
「それにここで詐欺を働いても得られるものは少ない」
「そうなの?」
オレは肩をすくめた。
「今得られているもの以上にはね」
「現状で満足ということ?」
「そうとも言えるかな。詐欺師をしてるとあちこち行く分、根無し草のように一ヵ所に留まることがない。ここらで落ち着きたくもあるんだ」
「定住したいっていうこと?」
「うん。それに出ていきたくても出ていけないだろう?」
オレは天井を指差した。
惑星の外へ、という意味だ。
クリスはうなずいた。
「私も似たようなところあるから、なんとなくだけど、わかるわ」
「似たようなところ?」
「私の場合は、空だけどね」
「ああ。どこへでも行けそうだ」
「燃料があればね。本当は、音速も超えたいところなんだけど」
「あのジェット機は、音速を超えられないのか?」
「ええ。そこまでの推力はないのよ。機体も超音速には耐えられないし」
「そうだったか。知らなかった」
「軍の機密だから内緒にしてね」
「わかった。とにかく、私は詐欺師だった。ここでの詐欺は行なわない。それを聞いて欲しかったんだ、君に」
「ありがとう。うれしいわ。本当に」
「このことを話したのは、君が最初だ」
「つまり、知っている人はほかにはいないのね」
「そうだ」
「わかった。誰にも言わないわ」
「まぁ、隠し通せるとも思っていないがね」
「“過去は過去”。言わなければいいだけだわ」
「なるほど」
オレたちは、そのあと、近くの安ホテルで、身体を求め合った。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




