【069.秋のはじまり】
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空気に秋の気配が漂いはじめた。
城から遠くに見える緑地帯もところどころで色付いている。
人々の服装も少しずつ秋の装いに変わってきていた。
「もうすぐ秋ね」とクリス。
「そうだね」
オレたちふたりは、そんな風景を見下ろしていた。
彼女の休暇をホテルで一緒に過ごしている。
待ち合わせのホテルのロビーで、おたがいの目が合った瞬間に、抱きしめ合っていた。
キスもしていた。
クリスは「あれからずっとあなたのことを考えていたの」と告白してくれた。
「私もだよ、クリス」
その言葉は、実際にはウソだ。
それでもときどき調査旅行の日々を反芻していたから、全部が全部、ウソというわけでもない。
部屋に入ると、シャワーも浴びずに性欲に溺れた。
今は、けだるい時間をベッドの上で過ごしたあと、ルームサービスを頼んだので、シャワーを浴び、バスローブを身につけ、王都の景色を眺めている。
おたがいに言葉を発することなく、抱き寄せ合っていた。
離れたのは、ルームサービスが来たときだった。
ドアを開け、料理のワゴンを受け取り、ドアを閉じた。
まるで、今の空気を逃したくなくて、というようにほんのいっときだった。
ふたりで料理をテーブルに並べ、バスローブのままで、席に着いた。
ふたりで視線を交わし、微笑み合い、それから料理に手をつけた。
たった2日の休暇が終わり、彼女は帰っていった。
それまでずっとホテルからは出なかった。
自分の部屋に戻ったのは、夕方。
部屋は、テディーだけだった。
オレも仕事を2日、休みを取っていて、テオはまだ仕事中だ。
暇を持て余したオレは、ちょっと凝った料理を作ろうとキッチンに立った。
とはいえ、今ある食材で、ということになる。
今から頼んでも届くのは明日の朝。
それでは意味がない。
いつもの時間に、テオが戻ってきた。
「あれ? もう帰ってきたんですか?」
「そうだよ。彼女だって、軍の施設に戻らなきゃならないんだ。こっちから戻るのに時間がかかるだろう?」
「そう怒らないでください」
「怒ってないよ」
「でも途中まで送っていってもよかったんじゃ?」
「彼女に断られたよ。余韻に浸りたいからって。それに別れるのがつらくなるからって」
「おやおや。恋人関係になってるみたいですね」
「どうやらそのようだな。仕事の方はどうだった?」
「これと言って。いつものとおりです」
「マリーンとはうまくいってるのかね?」
「マリーン?」怪訝な顔をするテオ。「ええ、まぁ。“うまくいってる”? どういう意味です?」
「どういう意味って……付き合っているんだろう?」
彼は意味がわかって、ああ、と納得した。
それから笑う。
「先生、勘違いしてますよ」
「勘違い? 付き合っていないのかね?」
「ええ。同僚としてしか見てませんよ、おたがいに」
「そ、そうだったか。いや、失礼した」
「失礼されました」と怒りもせずに言った。「そんな風に見てたんですか?」
「いやぁ、すまん。年齢的にも見た目にも、いいカップルだと思ってたから」
「たとえ、私にその気があっても、彼女にその気はないでしょう。思い人はいるみたいだから」
「思い人? 誰だね?」
「さぁ。問い質したことはありませんし、それらしい視線を向けてるところを見たこともありませんし」
「そうかね」
「まぁ、そのうちに何か進展があるでしょう」と彼は気にならないようすで、そう言った。
オレが作っている料理の方が気にかかるようだった。
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