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落とされ人  作者: カーブミラー


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53/214

【053.アイカ】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 庭園には、池もある。

 そこには、小魚が泳いでいた。

 レフティーが、池の浅瀬に足を踏み入れ、翼を軽く広げ、池を覗き込んだ。

 どうやら翼で影を作り、水の中を見ようとしているらしい。

 しばらくすると彼女が水中に素早く顔を突き入れた。

 頭を上げると口には、小魚がその身体をビチビチとくねらせて逃げようとしている。

 彼女の口には、細かい尖った歯が無数に生えていて、小魚を逃がすことはない。

 ヒナふたりが、それを見ていた。

 見られていることをレフティーが確認すると、彼女は小魚を飲み込んだ。

 どうやら小魚の捕まえ方をレクチャーしているらしい。

 ヒナふたりが興味を示して、池に入っていく。

 トールがまちがって、池の深いところに足を突っ込んでしまい、身体ごと池に落ちる。

 慌てふためくトール。

 彼らの足には、水かきはない。

 羽をばたつかせながら浅瀬に辿り着いた。

 息を整え、身体をゆすって、水滴をふるい落とす。

 “ひでぇ目にあった”と言うようにピーッと鳴く。

 エレナがトールに向かって、ひと鳴き。

 “バカみたい”と言っているようだ。

 そこでまたケンカがはじまった。

 水がバシャバシャと音を立て、あたりにまき散らされる。

 レフティーは、すでに池から離れていた。

 トールがまた、深みにはまった。

 エレナも危なく、引きずられてしまうところだった。

 すぐに浅瀬に上がるトール。

 また、水滴をふるい落とす。

 それからしばらく口ゲンカをしていたが、水から上がって、追いかけっこをはじめた。

 魚を捕まえることなど、もう忘れている。

 レフティーが、フゥッとため息をついた。

「おまえさんも大変だな」


 翌日もレフティーは同じように、ヒナたちに小魚を獲って見せた。

 ふたりは、それを見て、思い出したように池に入った。

 ふたりとも羽を軽く広げて、水の中を覗く。

 影を求めて、小魚がふたりの足元に近づく。

 ふたりが同時に水に突っ込もうとして、頭がぶつかった。

 口論がはじまり、ケンカになった。

 追いかけっこになる。

 レフティーが、ため息をつく。

「今日もダメですな」


 レフティーが羽ばたくようになった。

 筋力トレーニングだ。

 飛べるほど、まだ筋力は戻っていない。

 ヒナたちふたりは、小魚を獲る練習。

 レフティーが、エサを与えなくなったのだ。

 別々のエサ入れを用意していたのだが、レフティーが独り占めしてしまう。

 どうやら“小魚を獲りなさい”とヒナたちにうながしているらしい。

 ふたりは、玄関ドアを開けると、争うように池へと滑空した。

 ふと、人の気配を感じた。

 あたりを見回すと、廊下の奥からひとりの男性が、ヒナたちのようすを覗き見ている。

 オレと目が合うと、会釈ではなく、深々とお辞儀をした。

 ヒナたちの集中をとぎらせないように、と静かにそちらへと移動した。

「おはようございます」

「おはようございます」

「何か御用でも?」

 男性は、60代半ばで、白髪を短く刈り揃え、白い肌には深いシワが刻まれている。

 定番の服。

 その手には、つばのある白い布製の帽子を持っていた。

「わたくし、ドナルド・ヘーガンと申しまして、城内の庭園を管理している者でございます」

「ああ、あなたが。いつも美しい草木を楽しんでおります」

「うれしいお言葉を。ありがとうございます」

「いえ。それで?」

「はい。あちらの池の魚についてでございます」

 池の魚?

「まさか、珍しい魚だったんですか? あの小魚」

 彼が微笑んだ。

「いえいえ。ご安心を。ふつうの淡水魚でございます。池には魚がいた方がいいと入れてございました」

 よかった。

 珍しい魚をヒナたちのエサにしてたとしたら、一大事だ。

「しかし」と言葉が続いた。笑みはそのままだ。「あのごようすでは、すぐにいなくなってしまうのではないでしょうか」

 ヒナたちの方を見る。

 真剣に小魚を捕まえて、食している。

「育ち盛りですからねぇ」

「もしよろしければ、新しく入れておきますが」

「お手数では?」

「ご心配なく。じつは、養殖をしておりまして、水棲動物のエサにしているんです」

「水棲動物?」

「はい。動物と言いましても身動きするわけではなく、水中で花を広げているようなものでして」

「水中で花を? もしかして、イソギンチャクのようなものですか?」

「イソ? その名前は存じませんが。その動物は、ここでは“アイカ”と呼ばれております」

「“アイカ”……それを見ることはできますか?」

「それは無理かと。陛下の御部屋にありますので」

「陛下の御部屋に……なるほど。ちょっと無理そうですね」

「映像でよろしければ」

 彼のフェイスと自分のフェイスを接触させた。

 それで目的の映像がコピーできた。

 画面を見る。

 水槽の中で、確かに大輪の花が咲いていた。

 オレンジ色の花びらがヒラヒラしている。

 根元には、緑色の藻のような葉がある。

「葉のように見えているのは、共生植物です。アイカのフンを栄養にしているそうです」

「共生植物、ですか」

 映像の中に小魚が出てきた。

 小魚がアイカの真上を泳ぐ。

 すると花の中心から細長いものが出てきて、その小魚を捕まえると、花の中に引っ込んで、花びらが包み込む。

 ほんの一瞬のできごとだった。

「こんなに素早いんですか?」

「はい。小魚5匹まで連続で食べられます。陛下の御部屋には、6匹おりますので、毎日、それなりの数を食べさせておいでです」

「陛下自ら、ですか?」

「はい。以前、湖の視察においでになった際に、そこの猟師からプレゼントされたとか」

「その湖には、アイカがたくさんいるんですか?」

「聞いた話では、それほどではないそうです。一緒の水槽にするとどちらかが死ぬまでのケンカになるんだとか」

「そこまで? どうして?」

「さぁ。おそらく生きるためでしょう。縄張りが近ければ、小魚にとっては危険度が増しますからな。近づいてこなくなるのではないでしょうか」

「なるほど。そうなったら生きていけませんからね」

「はい」

 彼が去るのを見送った。

 小魚は、あとで池に追加してくれる、という。

 ヒナたちふたりは、真剣に小魚を捕まえていた。

 彼がいたことには、気付いていないようだった。

 その代わり、レフティーが玄関からこちらを見ていた。

 そばに行く。

「彼が、小魚を増やしてくれるそうだよ」

 言葉は通じないが、心配はしてなさそうだ。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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