【046.レフティーの不調】
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それから数日後。
「どうしたんだ?」
レフティーは、それまでの旺盛な食欲が、突如としてなくなった。
水は飲んでいるので、深刻な状態ではなさそうだったが。
とにかく、そのままで、ようすを見ることにした。
「気が散っているようね」
いつのまにか、室長がそばに立っていた。
「ああ、室長。じつは、レフティーのようすが気になってまして」
「具合が悪いの?」
「そうではなさそうなんですが、エサを一切食べなくなったんです」
「あら、それは心配ね」
「ええ。かといって、具合が悪そうではないし。もしかしたら同じエサに飽きたのかもしれません」
「あらあら、贅沢病?」と笑顔。
「あはは」
「なら違うエサを買わないとね」
「ええ。お昼休みにでも行ってこようかと」
「すぐに行ってらっしゃいな。陛下の客人なんですから」
室長の配慮に甘えて、出掛けた。
釣具屋で、別のエサを2種類、購入し、自分の部屋に戻った。
「レフティー、新しいエサだぞ」と声をかけ、レフティーを見て、オレはかたまった。
レフティーのようすがおかしい。
グッタリとしている。
「どうした?」
レフティーは、首を持ち上げられずに、その場で小さく鳴いた。
肌の艶がない。
尻尾も張りをなくしている。
ほんの3時間ほどのあいだに、何があったのだろう?
レフティーのお腹の下に何かが見えた。
黒くて丸い表面をしたものだ。
ぬれているのか、艶がある。
部屋を出るとき、そんなものはなかった。
「卵? おまえ、卵を産んだのか?」
レフティーは、力なく、ピーッと鳴いた。
オレは、ホッとした。
「そうか。ご苦労様だったな」
人差し指で頭をなでてやった。
気持ちよさそうにマブタを閉じている。
フェイスで室長に連絡を入れた。
「どうかした?」
「レフティーですが、卵を産みました。どうやらそれで一時的にエサを食べなくなっていたようです」
「卵? じゃぁ、メスだったのね」
「ええ、そうなります。産卵するのにがんばったんでしょう。今は、グッタリしています。少しようすを見てみようかと思います」
「そうね。あとで報告してちょうだい」
「わかりました」
電話を切った。
レフティーは、なんとか身体を動かして、卵の位置を変え、脚と脚のあいだに納めている。
とすると、オスとの交わりはすでに終わっていた、ということか。
渡る前に交わり、落ち着き先で産卵した、そう考えるのが妥当なようだ。
オレは、新しく購入したエサを容器に入れて、レフティーの前に置いた。
今までのエサはミミズのような外見の幼虫だったが、新しいエサはうじ虫のような幼虫で、とても柔らかそうだ。
引き出しに敷いたタオルの上からそれを見るレフティー。
黒い瞳が輝き、クーッと鳴いて、オレに口を開いてみせる。
人間が、あーん、と口を開けているようだ。
「おいおい、食べさせろって?」
レフティーがさらに口を開く。
それをしばらく見ていると、レフティーは口を閉じ、ブーッと唸って、抗議する。
それからふたたび、口を開く。
「まったく」
オレは、ドアへと向かった。
それを見て、レフティーがブーイングする。
「待ってろ」
オレは、キッチンから箸を持ってきた。
それを使って、新しいエサをつまんで、レフティーの開いた口に放り込む。
レフティーは、それをすぐに飲み込んだ。
「どうだ? うまいか?」
クーッと返事をして、また口を開く。
「はいはい」
一匹ずつ、口に入れてやる。
何度か、それを繰り返したあと、レフティーが首を別の方向に向けた。
そこには、水の入った容器がある。
「なんだ、今度は水か」
オレは、またキッチンに行き、スプーンを持って、引き換えした。
そのスプーンで、水をやる。
こぼしてしまいそうで、嫌だな。
フェイスを開いて、テオに電話する。
「はい、先生」
「悪いが、どこかからスポイトか注射器を手に入れてくれないか? それとピンセットを」
「いいですけど、なんでそんなものを?」
「レフティーが、私にオスの代わりをやれ、と言っているんだよ。エサを取ってこい、水をくれ、と」
笑い出したテオが、思い出したように笑うのをやめた。
「じゃぁ、当分、こっちの仕事は」
「しばらくは、そこに顔を出せないだろうね。だが、仕事はここでもできる。道具を持ってきてもらえるかな?」
「わかりました。室長にも話しておきます」
「頼むよ。あとでまた、報告がてら連絡は入れるがね」
電話を切り、フェイスをしまう。
レフティーが、エサを求めている。
「はいはい」
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