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落とされ人  作者: カーブミラー


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241/259

【241.使節団】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

「使節団のリーダーの情報は得られるかね?」

「使節団全員の情報を得ています」

「見せてくれ」

 スクリーンにズラリと並ぶ情報。

 知った顔があるわけではない。

 それでも必要な情報を頭に叩き込む。

 ソラ人だけではなく、ペダフ人、アツナ人、ウォルド人もいる。

 ロボットとエカス人以外の全種族だ。

 エカス人はひとりしかいないし、学園都市セガラタから離れられない。

 なぜなら彼女は、エカス人が生み出した“シェルパーソン”なのだ。

 “シェルパーソン”とは、金属殻の中に自身の脳髄を入れ、生きる人のことだ。

 ソラ人も技術開発をしていて、現在では、そちらはSXE管理下となっていた。

「船内のようすもわかるかね? つまり、画像として」

「そこまでは」

「ふむ、仕方あるまい。使節団の代表と念話してみよう」

 オレは、シートに座り、マブタを閉じた。

 使節団代表のペダフ人、マシュー・ヘイゼルのバストアップ画像を思い描く。

 念を飛ばす。

 つながった。

 彼が見ていたのは、照明が煌々(こうこう)と照らしだす会議室だった。

 使節団メンバーが集まっている。

 彼らは、会議をしている最中だ。

 ソラ人、ペダフ人、アツナ人、ウォルド人。

 エカス人を除いたすべての連合加盟種族が揃っていた。

 ペダフ人は、肌が白い。

 顔の構成はソラ人のそれに近い。

 鼻がとても低く、小さな楕円の穴がふたつある。

 頭が小さいから、瞳が大きく見える。

 白目があり、黒目の部分は個人差がある。

 耳らしい部分は見当たらない。

 白い髪は、丁寧に編みこまれている。

 外見からは、男女の性別はわかりづらい。

 アツナ人は、ソラ人が“イヌ”と呼ぶ動物に似ている。

 だが、鼻はそれほどではない。

 個々の顔は、特徴があり、識別しやすい。

 ウォルド人は、“クマ”という動物のヌイグルミに間違われやすい。

 身長1m前後で、明るい赤の体毛がある。

 ウォルド人には、故郷がない。

 ちょっとした不注意で、故郷を自分たちで破壊してしまい、脱出してきたのだ。

 現在、彼らは、連合に加盟し、その許可を得て、〈バージ星系〉第2惑星〈ゲネヴァ〉のドーム都市に住んでいる。

 〈バージ星系〉の第5惑星〈シズメイ〉には、学園都市セガラタがある。

 ドーム都市は、エカス人が絶滅する前に造ったものだ。

「ちょうどよく全員が集まっている」

(会議中に失礼しますよ)とヘイゼル代表に念を送った。

「誰だ?」と会議室のあちこちに首をまわすヘイゼル代表。

 その声とようすに、使節団メンバーの視線が集まる。

(惑星〈スータン〉の住民のひとり、パオロ・モーガンと申します)

「どこにいる?」

 メンバー全員が、怪訝な表情で彼を見ている。

(〈スータン〉の北大陸にいます。テレパシーで話しかけています)

「テレパシー?」

「マシュー、どうした?」とメンバーのひとり、ソラ人のグレッグ・ホールドマン。

「地上からテレパシーで話しかけられてる」

「テレパシー? おいおい、こんな緊迫している中で、冗談を言ってる場合か?」

(彼にも話しかけてみましょう)とヘイゼル代表に言ってから、ホールドマンに念を送る。(冗談ではありませんよ、ホールドマンさん)

 ホールドマンは、ビックリして、大声を上げた。

「うぉ! 頭の中で声が聞こえた!」

 彼は、一瞬、腰を浮かせ、それからイスに落ちた。

(そんな大声で叫ばなくても大丈夫ですよ)

「いったい誰だ!」

「北大陸の住民だそうだ」とヘイゼル代表。「何か話があるのかな? ええと」

 ヘイゼル代表に念を向ける。

(パオロです。ええ、話があります。お邪魔してもよろしいでしょうか?)

「お邪魔? どういう意味だ?」

(そちらに伺ってもいいでしょうか、という意味です)

「こちらに来る?」

(はい。念話では少々話がしづらいので)

「来れるのなら来てみたまえ」

(では)

「行ってくるよ」と立ち上がってそう言うと、アルはうなずき返してくれた。

 ジャンプする。

 会議室の隅、ちょうどヘイゼル代表とは反対側だ。

「お邪魔します」とペダフ語で話しかけた。ペダフ語は、連合共通語だ。

 オレの声に全員が驚いて、こちらを見た。

「テレポートしてまいりました。パオロ・モーガンと申します。ペダフ語は下で使うことは稀でして。多少、お耳に障るかもしれません。その点は、平にご容赦を」

 しばらく誰もが呆然としていた。

 目をパチクリさせる者もいた。

 口を半開きにしている者もいる。

 ようやく声を発したのは、ヘイゼル代表だった。

 それでも唖然とした声だった。

「本当に来るとは思わなかった」

「そうでしょうね。しかし、テレパシーでは、全員にわかっていただけないと思いましてね」

「あなたは何者だね?」とメンバーのひとり。

「〈スータン〉の北大陸に落とされた者で、パオロ・モーガンと申します」

「いや、そうではなくて……落とされた?」

「〈スータン〉が監獄惑星だというのはご存知だと思いますが」

「ああ、そういう意味か。で、あなたは〈スータン〉の住民のひとりと」

「はい」

「〈スータン〉の代表者なのかね?」とヘイゼル代表。

「現在、地上で宇宙人との交流をしている者です」

 そのひと言で、会議室内は騒然となった。

 それをヘイゼル代表が大声でいさめた。

 それからオレを見た。

「つまり、彼らと直接、会話をしている、と?」

「はい」

「あなたのテレパシーを使って、かね?」

「基本的には、そうした超能力は使っていません。ですが、初期の段階では使っていました。今でもときどきは使っていますが、重要な事柄を話す場合だけです」

「なぜかね? テレパシーの方が意思疎通には適していると思うが?」

「そのとおり。ですが、私の能力のことは、一部の人を除いて、伏せているのです。超能力を信じない人は、多いものでね」

「なるほど。では、本題に入ろうか。どんな話をしようとしているのかね?」

「あなたがたは、戦艦を引き連れてますね」

「うむ」

「戦艦を後方に下げてもらえませんか?」

「なぜ?」

「彼らは、探索者なのです。平和目的でこの星系を訪れました。侵略目的ではありません」

「どうして、そう言い切れるんです? 通信に返答がない、と報告がありましたが」

「その点は、確かにそうです。通信方法が違うのですから当然です」

「通信方法が違う? 電波ではないと?」

「ええ。まだどういう種類の方法なのかは聞いていませんがね。とにかく、私は彼らとテレパシーでやり取りしています。彼らからは、嘘偽りの念は感じられません。感じられたら、すぐにわかります」

「ふむ。しかし、彼らがテレパシーを研究していて、そうした対処法も――」

 その言葉をさえぎった。

「彼らにこうした超能力活用技術はありません。存在すら知らなかった。それは事実です」

「なるほど」

「質問させてくれんかね?」とメンバーのひとり。老齢のアツナ人男性。

「どうぞ、ポーター教授」

 彼は一瞬ひるんだ。

 オレが、彼の名前を口にしたからだ。

 だが、すぐにうなずいた。

「彼らは、なぜこの星系にやってきたのかね?」

「この星系を選んだ理由はまだ。ただ、彼らはほかの存在を探していたのです。“宇宙には自分たちだけなのではないか”と疑問を持ち、それを確かめるために探索に出たのです」

「ふむ。では、これまでは?」

「我々が初めてですね。直接、ここに来たわけではないようですが、どこから来たのか、どこを経由してきたのか、そのあたりはこれからでして」

「なるほど。では、どこまでわかっているのかね?」

「おたがいの基礎知識を通じて、言葉を交わしています」

「基礎知識?」

「宇宙航行する知的存在ならば、知っていてもおかしくないことです。科学全般、物理、数学などですね」

「なるほど。つまり、そうした学者たちが、彼らと接触しているのだね?」

「いいえ。接触は、私と当地の軍の指揮官、その部下の3人だけで行なっています」

「3人? だが、知識は? 君たちだけで足りるとは思えんが」

「画像や映像などはネットワークを通じて、コンピューターで表示しています。その他の知識は、主に私の記憶から。私の頭には、多くの知識が記憶してあります。それを使っているのです」

「知識を記憶? どういう意味かね?」

「そのままの意味です。書籍などを見て、瞬間的に記憶しているのです。私はもともと詐欺師でした。記憶術は、知識を蓄え、人を騙すために必要だったのです」

「詐欺師!」

 全員がオレをにらんだ。

 それは、犯罪者を見る目だ。

「詐欺をして、捕まり、終身刑となり、落とされたのです。言っておきますが、現在は、その知識を生かして、北大陸にある〈スベルト王国〉に寄与しています。騙すこともしていません」

 まぁ、何度か人を騙してはいるが。

 金銭目的ではなく、人々の幸せのためだ。

 それを責める人もいるまい。

「それを信じろと?」とヘイゼル代表。

「信じて欲しいところですが。無理ならば、彼らにそう伝えるだけです。信じてもらえなかった、とね」

 ヘイゼル代表は、オレをにらんだまま、しばらく黙った。

 沈黙の中、口を開いたのは、ソラ人のホールドマンだった。

「君が詐欺師だったという点は、ひとまず置いておこう。我々には、彼らについての情報が必要だ。ステーションからの報告では埒が明かない」

「そうでしょうね。では、彼らが地上に船を降ろそうとしたことはご存知ですね?」

「降ろそうとした? 事実、降りてる」

 全員がうなずく。

「いいえ。船が地上へと降りようとしていたので、こちらからテレパシーで警告をしました。残念ながら、その船が封鎖圏外へと上昇したところをブイによって、迎撃されたのです。こちらからの警告が間に合わなかったのです」

 ノドが鳴る音が聞こえた。

「迎撃された船は、エンジン部分が爆発し、脱出カプセルふたつが離脱しました。そのあと、船は大気圏で燃え尽きたのです」

「そのカプセルに生存者がいたのか」とひとりが言った。

「ええ。ただし、片方だけです。もうひとつには誰も乗っていなかった。乗っていたカプセルには、6名がいました。船には、15名が乗り組んでいたので、9名が犠牲になったのです」

「それは」とホールドマン。「知らなかった」

 オレはうなずいた。

「ステーションからの回収要請があり、その両方のカプセルを〈スベルト王国〉の軍で取り囲みましたが、回収できる大きさではなかった。そこで手を出さずに観察し続けたのです」

「中にテレパシーは?」

「もちろん、彼らと話をしました。ですが、さきほども言いましたとおり、私の能力については誰にも言っていませんから、まわりの人間にどうこうも言えませんでした」

「その会話の内容は?」

「状況の説明と軌道上の宇宙船との連絡を取ることを約束した程度ですね。その連絡の過程で彼らはカプセルから出てきたのです」

「環境の差は? カプセル内と外の」

「どうやら気圧が少し違うだけで済んでいるようです。ヘルメットもグローブも外していますから」

「何かを食べたかね?」

「こちらからは、水を。さすがに食料を出すのは」と首を振る。

「まぁ、そうだろうね」

「それに宇宙船から通信機と食料が送られてきましたので、その点では心配はいりません」

「通信機も? だが、電波放出は――」

「通信に電波は使っていません。まだどんな通信手段なのか、わかっていませんが」

「彼らは」とアツナ人女性。ググッカ・ザーラだ。「どんな人たちなんです?」

「“龍”という想像上の生物をご存知ですか?」

「いえ」

「伝説の〈地球〉で天変地異を起こしたと言われる生物でした。その生物によく似ています」

「ドラゴンのことか」とホールドマン。

 彼が思い描いたイメージを見た。

「あなたのおっしゃっているのは、翼のある竜ですね。私が言っているのは、翼のない龍です。ご存じないかな?」

「翼のない? なら知らないな」

「ふむ。少々、お待ちを」

 オレはアルに念を送った。

 少しすると、オレは両手を持ち上げ、手のひらを上にした。

 そこに6枚の紙が、音も立てずに現れた。

 それを見て、彼らが目を丸くする。

 そんな彼らを無視して、オレの両側の人に3枚ずつ渡す。

 その紙は、アルに頼んで、プリントしてもらったものだ。

 宇宙人の姿がひとりひとり写っている。

「これが地上にいる彼らです」

 その紙をじっと見つめる面々。

 紙が来るのを、苛立ちながら待つ人もいる。

「ごらんのとおり、彼らは、ヒューマノイド型で、全身を細かいウロコで覆われています。そのウロコの色は人によって異なります。尻尾はありません。頭部は鼻が長く、口には鋭い牙があります。特徴的なのは、その頭部に生えるツノです。“シカ”という動物がソラ人星圏にいますが、そのツノによく似ています。彼らの音声は、ノドからではなく、鼻の穴から出されます。穴の部分に声帯があると考えてもらえればいいかと。鼻の穴は、ふたつです。発声するときは、どちらか片方を閉じてますね。そうそう、彼らに肺はなく、その長い鼻で呼吸をしています」

「鼻で?」

「ええ。ホオをふくらませて、空気を取り入れ、吐き出しているので、鼻の内部でガス交換がされているようです」

「ほぉ。肺がないから細身、というわけか」

「そうかもしれませんね」

 彼らは、それらの紙を一枚一枚、まわしたり、交換したりして、眺める。

「とにかく、戦艦は下げていただきたい。こちらはすでに彼らの仲間を殺しているのです。これ以上、彼らを刺激したくない」

 ヘイゼル代表がこちらを見た。

「わかった。こちらとしても相手の心証を悪くはしたくない。提督には待機してくれるように説得しよう」

「お願いします。ああ、それから封鎖プログラムの解除はいつに?」

「我々が軌道上に到着し、代表団を送り込む際に解除するつもりだが」

「なるほど。彼らが要請した場合、すぐに解除してもらえますか? 物資や人員を搬送するかもしれませんので」

「残念ながら到着まで待ってもらわねばならない。ステーションに乗り込んで、直接操作せねばならないからだ」

「遠隔操作はできない、と?」

 彼がうなずく。

「わかりました。仕方ありませんね。では、これで失礼――」

「待った!」とヘイゼル代表。「君と連絡を取りたい場合は、どうしたらいい?」

「そうでした。ステーションとは亜空間通信ですが、その必要がおありでしょうか?」

「どんな相手かわからなかったから、用心していただけだ」

「でしたら今後は電波での通信に切り替えてください。こちらでも受信できるようになりますから。私と連絡を取りたい場合は、その通信に次の文言を含めてください。“下のようすはどうか”と。それならば、ステーション側も地上の人々も私へのメッセージだとは気付かないでしょう」

「なるほど、わかった」

「では、また」

 オレは、その会議の面々をひととおり眺めて、止めようとしないのを確認してから、ジャンプした。


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