【234.握手】
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「変化あり!」
カプセルを監視していた兵士がそう叫んだ。
兵士は続けた。
「ハッチが開きます!」
指揮官とオレは、顔を見合わせた。
それから一緒になって、走り出した。
指揮官が手で、部下の兵士に指示を送る。
何人かの兵士が続いた。
その手には、しっかりと銃が抱え込まれている。
我々は、カプセルの正面10m手前で、立ち止った。
カプセルのハッチがゆっくりと持ち上がっていく。
ハッチを持ち上げているのは、一本の腕。
中は影になって見えない。
持ち上げていた腕が、引っ込んだ。
ハッチは充分に開いていた。
影の中に人型の姿が見てとれる。
その身体が動き出した。
一歩、踏み出して、地面を踏みしめる足。
また一歩踏み出して、カプセルの外に出た。
全身をメタルブルーの簡易宇宙服で包み込み、大きな三角形のヘルメットをかぶっていた。
指揮官がオレの耳元で言った。
「ずいぶんと、でかいヘルメットですね」
「そうだね」と答えた。そのヘルメットを見るのは、初めてだった。「もしかしたらあんな頭部なのかもしれないな」
「だとしたら重いでしょうね」
「うん」
出てきたひとりが、首をめぐらせて、まわりのようすを見回す。
指揮官の耳元で言った。
「武器を構えさせないでくれ。彼らが何も持たずに出てきているんだから」
「ですが、どんな武器を持っているか――」
その言葉を制した。
「だとしても、だ。彼らは包囲されているんだ。向こうから攻撃したらどうなるかは、わかっているはずだ」
「なるほど、わかりました」
彼は、手で指示を送った。
後ろの兵士たちをチラッと見ると、ストラップで肩に釣られた銃を背中にまわしていた。
銃からは、手が離れた。
それでもいつでも構えられる体勢をしている。
それでいい。
メタルブルーの宇宙人が、横にずれ、中に手で合図を送る。
すると、カプセルから次々とメタルカラーの宇宙人が姿を現した。
全員がヘルメットをしていた。
「カラフルですな」
出てきたのは、6人。
その中には、ドクター・スベトもいる。
この会見のために、こちらのカプセルに戻したのだ。
患者たち3人は、そのまま調査船内にいる。
メタルホワイトの宇宙人が、こちらに進み出た。
「代表者、ですかね?」と指揮官。
「おそらくね」
我々と彼らとの中間点で、立ち止まった。
それから両腕を持ち上げ、ヘルメットに手をかけた。
ちょうどアゴの下だ。
ヘルメットのバイザー部分がゆっくりと持ち上がっていく。
真っ白い肌が見えた。
鼻孔は見えないが、その鼻梁の長さはわかる。
その奥に一対の目。
白目に真っ赤な瞳。
知性を感じさせる目だ。
どうやらこの個体は、色素が欠乏しているアルビノらしい。
鼻梁の下から、うねうねと触手が現われ出た。
何かを探し求めるかのようにうね続ける。
ドクターから聞いた話だと、この触手は臭覚と味覚を感じ取る器官だそうだ。
おそらく、この個体は、まわりの空気のニオイを確認しているのだろう。
もしかしたら、この場の雰囲気までも感じているのかもしれない。
兵士たちからは、緊張と恐怖と期待が発せられ、ピリピリとした空気が感じられるからだ。
(パオロ、お目にかかるのは初めてね)
(その声は、シェロア、あなたですね?)
(ええ。これからどうする?)
(私が近づきます。あなたも近づき、あなたの身長分のあいだを開けて、立ち止まりましょう)
(わかったわ)
指揮官の耳に言った。
「君たちは、ここに。私が行きます」
「大丈夫、ですか?」
「いざとなったら、お願いします」
「わかりました」
オレは、シェロアの前まで歩いていく。
シェロアも歩き出した。
そして、立ち止まった。
ちょうど、シェロアの身長分を空けて。
シェロアの方が、少し高い。
180cm弱といったところだろう。
おたがいに見つめ合う。
(さて、ここが見せ場ですよ)
オレは、シェロアに向けて、右手を差し出した。
握手を求めて。
シェロアは、どうすべきか、と首を傾げた。
(どうすれば?)
(どうします?)
(そうねぇ……ふつうに考えたら、こうね)
シェロアも同じように右手を出した。
シェロアの手は、繊細な指で、それが4本ある。
小指がない手だ。
(お見事。では、おたがいの手と手を絡ませましょう)
おたがいに近づき、おたがいの手を包んだ。
力は入れない。
まわりの兵士たちが安堵したのが、念を使わなくてもわかった。
(お次は、君たちひとりひとりと、だ)
(わかったわ)
シェロアに導かれるようにして、カプセルへと歩く。
ほかの5人の前で立ち止まる。
彼らが姿を見せたときにわかったが、みな、身長が異なる。
それでもネネカほどの者はいない。
全員がバイザーをあげた。
シェロアがそれぞれの名を告げ、その相手と握手を交わす。
6人との握手を終え、オレは指揮官に振り返った。
それから笑顔で手招きした。
指揮官は、一瞬、“えっ?”という顔をしたが、すぐに駆けてきた。
こちらの3m手前で走るのをやめ、ゆっくりと近づいてくる。
オレの横で立ち止まり、オレを見た。
指揮官の肩に手を置き、彼らに彼の名前を告げる。
「さぁ、握手だ」
「は、はい」
指揮官は、恐る恐る、右手を差し出した。
「シェロアだ」
シェロアも同じく、右手を差し出してきた。
指揮官の右手を包み込むシェロアの右手。
それからそっと離した。
ほかの5人とも同じことをした。
それが終わると、もう指揮官も宇宙人に笑みを――強張った笑みだが――浮かべるようになっていた。
「さて、ここからどうしたものかな?」とそんな指揮官に問うた。
指揮官は「はい?」とオレを見た。
笑顔が固まったままだ。
「どうしたものか、と訊いているんだよ」
「それは、モーガン卿が」
「ここから先は、考えていなかったものでね」と微笑んでみせた。
「そんなぁ。ここまで来て、それはないでしょう、モーガン卿」と情けない声を出す指揮官。
「あはは。そうだね。さて、と」
こちらも困っているが、6人も困っているようだ。
おたがいに相談がはじまった。
それぞれの言語での会話なので、話の内容まではわからない。
だが、それが“次にどうするか”の相談であることは、おたがいにわかっていた。
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