【231.ツノ】
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眠りから覚め、仮設住宅を出て、会議用テントに入った。
「おはようございます、モーガン卿」と指揮官が挨拶してくれる。
「おはよう。城から連絡は?」
「定時連絡はしていますが、これといった指示は受けていません」
「そうか。カプセルの状況は?」
「どちらのカプセルも変化ありません。気絶、もしくは死亡しているのではないでしょうか」
「ふむ。まぁ、あの攻撃を受けたんだ。死亡していても不思議はないか」
「ええ」
彼とともにカプセルのようすを確認してから、一緒に朝食を食べた。
朝食を終えると、副官が提案してきた。
「集音マイクで中のようすを確認してみてはいかがでしょうか?」
それを聞いて、指揮官がオレにうなずいた。
「なるほど、全員が死亡していたら、何も聞こえない。気絶なら何かしらの音が拾えるわけか」
「はい。そうした情報だけでも、この先の振舞い方を決められます」
実行させることにした。
集音された音から、内部には複数の動きが確認された。
「生きていますね」と指揮官。「出てこないのは、どうしてでしょう?」
「外の空気が、彼らには合わないのかもしれないな」
「なるほど。ですが、降りたなら外部活動するのですから……ああ、気密服を着ての行動になるか」
うなずく。
「おそらくね。気密服では、長時間の行動はできんのだろう。カプセル内ならその心配がない、とか」
「食料に関しては、どうでしょう?」
「ふつうに考えたら?」
「救助が来ると考えて、一定の非常用食料が積まれているはずです」
「君たちの場合は?」
「作戦にもよります。通常は、1週間でしょう」
「では、それまでは彼らも閉じこもったままかもな」
「我々に囲まれて、出るに出れない可能性もありますね」
「確かに。とすると外が見れる、というわけだが、それらしい窓があるかね?」
「いいえ。ですが、カメラが設置されている可能性もあります」
「なるほど」
「彼らの文字でもわかれば、そのカメラの前に出しておけるんですがね」
「わかれば、ね。だが、あのカプセルからは、そうした情報は得られていない。だろう?」
「はい。それらしき文字やマークはありません」
「困ったものだ」
そこへ通信が入った。
もう一方のカプセルを包囲している部隊からだ。
こちらは、空っぽだから、何も聞こえないはずだ。
「あちらは」と通信仕官。「無音だそうです。呼吸音も鼓動音も聞こえない、と」
「死んでいるのかもしれませんね」と指揮官。
オレは無言でうなずいた。
その情報は、定時連絡で、城に知らされた。
それでもやはり、城からの指示は変わらない。
調査船では、オレンジと赤のふたりが、目を覚ましていた。
ドクターの診察では、異常がない、という。
ネネカも目覚めており、こちらも安静にさせているが、健康状態には問題がないそうだ。
ただ、頭のバランスがおかしい、と訴えている。
ドクターはごまかしているが、ネネカ本人は薄々感ずいているらしい。
自分のツノに異常があるのだ、と。
だが、まるまる欠けている、とまでは思っていないようだ。
(少し欠けている程度であれば、よかったのだが)とドクター・スベト。(根元から折れてしまっていては……どう説明したものか)ソラ人が首を振るのに似た念。
(あなたがたにとって、どういう意味があるのです? ツノに)
一瞬、その質問の意味がわからずに、怪訝な念を送ってきたドクターだったが、相手が異種族であることを思い出したようだ。
(我々のツノは……そうだなぁ)と改めて説明する言葉を考え込み、選びながら、続けた。(ツノは成長の証だ。青年期から生えはじめ、フェレによって磨かれ、伸びていく)
(わかります)
(片方のツノがなくなれば、左右のバランスは崩れる。脚一本や腕一本をなくしたのと同じように)
(はい)
(だが、それ以上に大切なのは……ツノが個人の……履歴、とでも言えばいいかな)
(履歴、ですか?)
(出自や来歴、役どころ……そういったすべてがツノに刻まれているのだよ)
(つまり、ツノを見れば、その人がわかる、と?)
(うむ。体色でわかるのは、出身。階級などは、ツノでわかる)
(階級も? それは削るのですか?)
(いいや。生えてくるのだよ。それまでの経歴が体内の化学物質を刺激してな。わかるかな?)
(では、階級は自然に決まるので?)
(違う。他者によって、階級は決められるのだよ。そして、ツノが生えるまでのあいだを移行期間として勤めるのだ)
そういうことか。
(ツノは、個人のデータを蓄積したもの、なのですね)
(そう、そのとおり)
(そうか、それで、ネネカに対して、言うのを控えていたわけですね)
肯定の念。(そういうことだ。いずれは、話さねばならん。話せば、ネネカは嘆き悲しむだろう。そのときのことを思うと……)
ドクターは、気が重い、という思いを発した。
(わかります)
「ということなんだそうだ」
コントロールルームで、オレは、アルとゾフィーを前にして、ドクターから聞いた話をした。
「なら」とアル。「模造品を作ればいいのでは?」
「それをくっつける?」
それを想像した。
だが、オレは首を振った。
「いやいや、それでは階級が変わった場合に変化しないだろう。それはそれで困るはずだ」
「そうか」とアルも理解した。
「本物を作ればいいだけでしょう?」とゾフィー。
「本物?」
「そう、本物。ツノの構造を解析してみたわ。内部は脳からの管が走っているの。管の中身は、脳内物質とツノの原料。脳内での変化でツノが造られていくようね」
ホロ映像にそれが表示された。
「つまり、その成長過程を再現してやるのかね?」
「いいえ。本物を作ってあげるのよ。それを頭蓋に融合させてあげるの。もちろん、管も内部の液体も込みでね」
スクリーンにその手順が表示され、ゾフィーが続けた。
「まずは、折れたツノのイメージが必要になるわ」
それは、ドクターの記憶からイメージとして得た。
シェロアからもイメージをもらい、つき合わせる。
オレの脳波からそのイメージを取り出し、ネネカの右ヅノと比較して、サイズを割り出す。
データがメイカー――アルのなんでも作ってくれるあの装置だ――に送られ、製造が開始された。
ただし、構造が細かく、また複雑なので、出来上がりには時間がかかるという。
それでもこの知らせに、ドクターは喜んだ。
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