【226.透視画像】
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その光景を、ただ呆然と見守るしかなかった。
大気圏へと突入した物体たちは、大気摩擦の熱で、灼熱色に燃えている。
ひとつが耐え切れずに爆発した。
輸送船本体だ。
残りのふたつは、そのまま大気の中を突き進んでいく。
無事に抜けてくれ、と祈らずにいられない。
スクリーンの片隅に、新たな情報が表示された。
そちらに目が行く。
「収容した3体を簡単に調べたわ。体表は簡易宇宙服と思われるスーツで覆われていて、ヘルメットはしてない。透視画像をホロ投影するわね」
コントロールルーム中央に目を向ける。
そこに1体のヒューマノイドの透視画像が映し出された。
身長1mほど。
内部に骨格がある。
脊椎動物だ。
ソラ人と比較すると、胴は細い部類に入る。
腕と脚は、それぞれ2本。
目も耳も鼻孔も、ふたつずつだ。
口に関しては、少し違う。
前に細長く突き出し、その先端に口があるのだ。
今も軽く開かれている。
上下のアゴには、歯がない。
「消化器官に複雑さはないわね。液状のものを飲んでいるんだと思うわ」
「脳が小さくないかね?」
「ええ。容積からすると、知的には思えない。でもソラ人とは、違った構造で思考しているのかもしれないわ」
「まぁ、そのへんはなんとも言えないがね」
上アゴの先端近くには、触手のようなものがある。
「皮膚は、背中が黒褐色の、腹側が薄茶色の細かいウロコ状のもので覆われているわ。尻尾の痕跡があるわね。手足には少しだけど水掻きがある。陸棲でも水棲でもあるのかも」
「肺はどこかね?」
「胴体内には、それらしい器官はないわね。でも酸素呼吸型だから肺と同じような機能を持つ器官はあるはずだわ」
「なぜ、酸素呼吸型だと?」
「血液中にヘモグロビンを持っているからよ」
ヘモグロビン……鉄を含む色素と蛋白質からなる複合蛋白質。
酸素と可逆的に結合する能力があるので、血中での酸素運搬の役割を果たす。
「とすれば、心臓もあるはずだが」
それらしい器官は見当たらない。
「“心臓”という形ではないわね」
「ん?」
「太い血管が背中に走っていて、そのまわりを筋肉組織が包んでいるわ。血管を絞ったり緩めたりして、血液をめぐらせてるようなの」
ゾフィーは、それを図式化して、見せてくれた。
血管のまわりが波打ち、血液が流れていく。
まるで柔らかいホースに、緩急をつけて、水を流し込んでいるかのようだ。
実際には、そのホースが水を流すように、うごめいているのだが。
「なるほど」
「“肺”についても見当がついたわ。鼻腔よ。そこにエラがあるの」
頭部がズームされ、その構造がはっきりする。
鼻腔内には、赤いエラが垂れ下がっている。
「ホオの部分に筋肉組織があって、エラの後方の空洞を圧迫弛緩するようになっているわ。酸素を取り込むための構造ね」
「つまり、ソラ人のように、胸をふくらませるのではなく、ホオをふくらませるわけか」
「ええ」
「この構造から脳を冷やすのにも役立ちますね」とアル。「ラジエーターのように」
「そのようだね。発声器官はどうだろう? 声が出せなければ、なんらかの意思伝達方法があるはずなんだが」
「そうね。ソラ人のような肺やノドを持っていないから発声できないかも。ほかにそれらしい器官は見当たらないわね」
「そうか。アーガイル・フォックスのように鳴かない動物の例もあるし、不思議でもないか」
「アーガイル・フォックスは、声帯が退化縮小しただけよ」
「ああ、なるほど。そういえば、昔は鳴いていたようなことを陛下が話していたな」
そのホロに見入るふたりに、ゾフィーが言った。
「射出された物体が、熱圏を抜けたわ」
熱圏……それは、大気圏の上層部で、流星はここで燃えて光るのだ。
オレは以前、ここで流星が燃えるのは、大気との摩擦でだと思っていた。
だが、実際は、摩擦熱でなく、空気が圧縮されて熱が生じるのだ。
これを知ったのは企業詐欺の準備段階で、後日、このことで詐欺がばれるところだった。
無事に関門を突破したあとで、人知れず、冷や汗をかいたものだ。
それはともかく、アルとともにスクリーンに目を向ける。
「無事に通過したかね?」
「ええ、ふたつともね」
「よかった」
(パオロ?)と陛下の念。
「ああ、陛下からだ」(はい、陛下)
(どうなっている?)
(現在、宇宙船から小型の船が出てきたのですが、私からの警告が間に合わず、封鎖ブイによって、撃墜されました)
(なんだと?)
(脱出カプセルらしきものが射出され、現在、地表へと落下している最中です)
(それで宇宙船は?)
(まだ何も)
(連絡はできんのか?)
(電波通信はできないようです。輸送船に私の念を送れはしましたが、急遽作った装置での送信でして、受信はできません)
(つまり、あの宇宙船は、連合のものではないのだな?)
ああ、気付かれてしまったか。
それもそうだろう、電波通信ができない、という連合種族がいるわけがない。
(おそらく)
(なんと)陛下の意識がオレから別へと移ったのが感じられた。(待ってくれ、パオロ。通信が入ってきた)
(はい、陛下)
どこからの通信だろう?
しばらく間が空いた。
(パオロ)
(はい、陛下)
(驚いたことに上からの通信だ)
(ステーションから、ですか?)
(そうだ)
「ステーションから地上に通信が入ったそうだ」
「ステーションから? それで?」
手でアルを制する。
(内容は?)
(カプセルの回収を依頼してきた。もちろん、回収する、と返事をした)
「回収を依頼してきた。陛下はそれを受けた」
「回収を。そうですね、放っておくわけにはいきませんからね」
(だが)と陛下。(詳細は教えてもらえていない。回収したあとのことも、だ)
(なるほど)
(指定された2ヵ所のポイントに、軍を向かわせることにした。大丈夫だろうか?)
「軍を向かわせることにしたそうだ。大丈夫か、と心配なされている」
「しばらくは、包囲するだけにした方がいいでしょう。危険な放射線が出ている可能性があります」
(陛下、包囲するだけにしてください。危険な放射線が出ている可能性もあります)
(そうだな。ガイガーカウンターで確認させるとしよう)
(そうですね)
陛下が指示を出すのが、感じられた。
(その後は、どうしたらいい?)
「包囲したら、どうする?」
「私が行きます」とアル。
「君が?」
「カプセルの状態も知らなければなりません。どうこうするにしても、そばにいた方がいいと思いますが」
「ふむ。では、私も行こう」
「パオロも?」
「私も同行すれば、兵たちにも怪しまれることはないだろう」
アルは、少し考えた末に、うなずいた。
(陛下、私とアルが、現場に向かいます)
(ふたりが?)少し戸惑ったが、了解の念が発せられた。(わかった)
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