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落とされ人  作者: カーブミラー


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217/222

【217.企業詐欺】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 翌日もカフェに行った。

 女助教授は、すでにテーブルについていた。

 昼食はすでに食べ終えていたらしい。

 汗をかいているグラスには、緑白色の液体。

 少し減っているところを見ると、頼んでからそれほど時間が経っていないのだろう。

 彼女がオレを見つけて、立ち上がり、会釈する。

 待っていました、と。

「ご一緒しても?」と問うオレに、彼女は手で空いている席を示した。

 そこに座る。

 彼女も座った。

 店のスタッフが、注文を訊きに来る。

 ヨーグルトドリンクを注文。

 スタッフは奥へと引っ込んでいく。

「まずは、公表しないことをお約束いたします」

「その方がいいでしょう」

「ええ。今日は、わたくしとコモリ・コーポレーションの間柄について、お話しますわ」

 オレはうなずいて、うながした。

「コモリ・コーポレーションは、祖父が起業し、父が受け継いだ会社です」

「なるほど」

「私が生まれたのは、ずっとあとになります。当時、父はまだ若く、祖父とともに会社を営んでいました」

 うなずく。

「結果的にあなたに騙され、倒産いたしました。祖父母と父は、借金に奔走し、なんとか銀行に返済しました。もちろん、借金は残ったままです」オレがうなずくのを待って、彼女は続けた。「父には、逆境をチャンスに変える力がありました。ご存知でしたか?」

「なかなかおもしろい人物だったのは、覚えてはいるが」

 彼女は微笑んでうなずいた。

「ええ、娘から見ても変わった人でした。そんな父ですから、すぐに起業したんです」

「起業? 何かアイディアでも?」

「ええ。そのアイディアを投資家に売り込み、投資してもらい、実行に移したわけです」

「ふむ。それで?」

「はじめは、なかなか芽が出ず、苦労していたそうです。それでも少しずつ前進していました。従業員だった母と結婚し、私が生まれるころには、会社は業績を着実に上げていたのです」

「素晴らしい」

「借金も返済し終え、余裕が出てくると、次のアイディアの実現へと進みました。新しい会社を興したのです」

「ほぉ」

「そうやって、いくつもの会社を興し、大企業へと成長したのです。それが“ブルーコーラル・リーフ”です」

「“ブルーコーラル・リーフ”! あの〈ブルーコーラル星系〉のトップ企業のひとつ?」

「そうです」

 彼女は誇らしげに背筋を伸ばした。

 オレは驚き、気が遠くなったように、イスの背もたれに身体を預けた。

 それとともに、両手で交互に、額の汗をぬぐった。

「まいったな……彼がそこまでの大物になったとは」

 彼女が笑った。

「父があなたに感謝している、と言ったら?」

 オレは、右手をヒラヒラさせた。「そりゃ、ないだろう。恨むだけ恨むのが――」

「父は本当に感謝しています。あなたがコモリ・コーポレーションを倒産に導かなければ、ああはなれなかっただろう、って、つねづね言っていましたから」

「詐欺師が感謝されるとは……思ってもみなかったよ。正直、君に刺し殺されても、と思っていたんだ」

「わたくしがあなたを? 恨んでもいないのに? それどころか、あなたとこうして、お話できているのが、うれしいと言うのに? ありえませんわね」と微笑む。

「うれしいという風に見えないんだがね」

「ああ、よく言われますわ。こうしたところも父からの遺伝のようですわね」

 オレは姿勢を戻し、イスにきちんと座り直した。

「そんな君が、なぜ〈スータン〉に?」

 彼女は笑みを消さずに、答えた。

「それこそ、“過去は過去”、ですわ、モーガン卿」

「自分だけ、ずるいなぁ」

 彼女は大きく笑った、まわりの客を気にせずに。

 学生たちは驚いていた。

 “あの助教授が大笑いしてる”“初めて見た”“オレも”という学生たちの声。

 つまり、普段はこんなところを見せていない、オレのための笑み、というわけか。

 そういうのを見ると、うれしくて、触手を伸ばしたくなる。

 自分の身体の若さも手伝って。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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