【217.企業詐欺】
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翌日もカフェに行った。
女助教授は、すでにテーブルについていた。
昼食はすでに食べ終えていたらしい。
汗をかいているグラスには、緑白色の液体。
少し減っているところを見ると、頼んでからそれほど時間が経っていないのだろう。
彼女がオレを見つけて、立ち上がり、会釈する。
待っていました、と。
「ご一緒しても?」と問うオレに、彼女は手で空いている席を示した。
そこに座る。
彼女も座った。
店のスタッフが、注文を訊きに来る。
ヨーグルトドリンクを注文。
スタッフは奥へと引っ込んでいく。
「まずは、公表しないことをお約束いたします」
「その方がいいでしょう」
「ええ。今日は、わたくしとコモリ・コーポレーションの間柄について、お話しますわ」
オレはうなずいて、うながした。
「コモリ・コーポレーションは、祖父が起業し、父が受け継いだ会社です」
「なるほど」
「私が生まれたのは、ずっとあとになります。当時、父はまだ若く、祖父とともに会社を営んでいました」
うなずく。
「結果的にあなたに騙され、倒産いたしました。祖父母と父は、借金に奔走し、なんとか銀行に返済しました。もちろん、借金は残ったままです」オレがうなずくのを待って、彼女は続けた。「父には、逆境をチャンスに変える力がありました。ご存知でしたか?」
「なかなかおもしろい人物だったのは、覚えてはいるが」
彼女は微笑んでうなずいた。
「ええ、娘から見ても変わった人でした。そんな父ですから、すぐに起業したんです」
「起業? 何かアイディアでも?」
「ええ。そのアイディアを投資家に売り込み、投資してもらい、実行に移したわけです」
「ふむ。それで?」
「はじめは、なかなか芽が出ず、苦労していたそうです。それでも少しずつ前進していました。従業員だった母と結婚し、私が生まれるころには、会社は業績を着実に上げていたのです」
「素晴らしい」
「借金も返済し終え、余裕が出てくると、次のアイディアの実現へと進みました。新しい会社を興したのです」
「ほぉ」
「そうやって、いくつもの会社を興し、大企業へと成長したのです。それが“ブルーコーラル・リーフ”です」
「“ブルーコーラル・リーフ”! あの〈ブルーコーラル星系〉のトップ企業のひとつ?」
「そうです」
彼女は誇らしげに背筋を伸ばした。
オレは驚き、気が遠くなったように、イスの背もたれに身体を預けた。
それとともに、両手で交互に、額の汗をぬぐった。
「まいったな……彼がそこまでの大物になったとは」
彼女が笑った。
「父があなたに感謝している、と言ったら?」
オレは、右手をヒラヒラさせた。「そりゃ、ないだろう。恨むだけ恨むのが――」
「父は本当に感謝しています。あなたがコモリ・コーポレーションを倒産に導かなければ、ああはなれなかっただろう、って、つねづね言っていましたから」
「詐欺師が感謝されるとは……思ってもみなかったよ。正直、君に刺し殺されても、と思っていたんだ」
「わたくしがあなたを? 恨んでもいないのに? それどころか、あなたとこうして、お話できているのが、うれしいと言うのに? ありえませんわね」と微笑む。
「うれしいという風に見えないんだがね」
「ああ、よく言われますわ。こうしたところも父からの遺伝のようですわね」
オレは姿勢を戻し、イスにきちんと座り直した。
「そんな君が、なぜ〈スータン〉に?」
彼女は笑みを消さずに、答えた。
「それこそ、“過去は過去”、ですわ、モーガン卿」
「自分だけ、ずるいなぁ」
彼女は大きく笑った、まわりの客を気にせずに。
学生たちは驚いていた。
“あの助教授が大笑いしてる”“初めて見た”“オレも”という学生たちの声。
つまり、普段はこんなところを見せていない、オレのための笑み、というわけか。
そういうのを見ると、うれしくて、触手を伸ばしたくなる。
自分の身体の若さも手伝って。
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