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落とされ人  作者: カーブミラー


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212/216

【212.冷蔵庫】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 昼間の仕事は、実に暇だった。

 医療ドックで若返ったおかげか、一ヵ所にいるのがつらい。

 それに送られてきた〈ラクロア王国〉の文献はすべて、頭に入れてあるから、まわりからは眠っているようにしか見えていない。

 オレのことを知っているテオが、まわりで働く人々に説明しているのが聞こえることもあった。

 そうしたこともあって、ある程度の時間を脳内処理に費やしたあと、休憩しては、建物のまわりを歩きまわる。

 歩きまわりながら、ライブラリーをどうしようか、と考えて。

 いい考えには結びつかなかった。


 ***


 マリーンからは、しばらく音沙汰がなかった。

 ようすが知りたくて、メールする。

 返信は夜に来たが、そっけない内容だった。

 “お休みなさい”とだけ。

 マリーンに意識を集中して、彼女のようすを見た。

 彼女は眠っていた。

 どうやら疲れているらしい。

 おそらく今の仕事が忙しくて、疲れるのだろう。

 身体はロボットでも、脳は人間。

 覚えることややることが多くて、大変なのだ。

 今までは、オレのそばでゆっくり仕事ができたが、それとは対象的なのかもしれない。

 今の彼女には、慣れる時間が必要なのだろう。


 ***


 休日。

 〈スータン〉の外のオレの隠れ家を掃除する。

 小惑星騒ぎの少し前から、チェックすることを忘れていた。

 コンピューターのスクリーンは、投資の状況を表示している。

 意外にも結果は好調で、口座はなかなかの金額を示していた。

 履歴を確認する。

 どうやら投資していた小さな会社が、ヒット商品を生み出したおかげらしい。

 この口座は当初、マリーンのメンテナンス費用を賄うためのものだったが、SXEの申し出により、〈スータン〉への基地設営に協力する対価として、SXEがその費用を負担してくれることになった。

 つまり、この口座に貯まった金額は、現在のところ、使用用途のない状態なのだ。

 何かいい出資先がないか、探してみるか。

 それとも何かを購入するか。


 ミチカの部屋を訪れる。

 ベッドから立ち上がっていた彼女の前に、姿を現した。

 すでに念を送っておいたから、彼女の驚きはなかった。

 いつものことだ。

「お帰りなさい、パオロ」

「ただいま」

「お腹は空いてませんか?」

「そういえば、昼食を食べるのを忘れてたな」

「なら作りますね」

「うん」

 ミチカは、〈スータン〉の料理を知っていた。

 食材は、冷蔵庫にある。

 この冷蔵庫には、しばらくしてから驚いたものだ。

 新鮮な食材が詰まっているのだが、以前に開けたときと、中身もその状態も変わらなかったのだ。

 ミチカの説明によると、ステイシス・フィールドを応用したものなのだとか。

 ステイシス・フィールド――停滞場フィールドとも呼ばれる。

 簡単に説明すると、内部空間の時間を止めてしまうものだ。

 本当に時間を止めるのではない。

 物質の原子の活動を停止させるものなのだ。

 この装置には外部の電源が必要となるが、それほどの電力ではないらしい。

 こうした装置があるというのは、聞いたことがなかった。

 SXEが保有する技術のひとつなのだそうだ。

 冷蔵庫内の時間が止まっているのなら、食材の新鮮味が損なわれることはない。

 作った料理すらも温度をそのままに保存できるのだ。

 だが、ミチカは、キッチンでの調理をする。

「作り置きしておいてもいいのに」

 オレがそう言うと、彼女は微笑みながら首を振った。

「パオロのそのときの体調を見てから、作った方がおいしいでしょうから。その分、時間はかかりますけど」

 なるほど。

 キッチンに立つ彼女の姿を見るのも悪くない、と思った。

 ミリーもよく料理した。

 彼女にはオレが教え込まねばならなかったが、それがまたよかった。

 そういう意味では、ミチカはそつがなく、教え込むことはオレの好み程度しかなかった。

 ミリーと比べてしまうのは、どうしようもない。

 ミリーには、それだけの時間を注いできたのだから。

 それゆえに愛も芽生えたのだろう。

 ミチカもまた、愛する対象になるのだろうか?

 それとも単なる性欲発散で終わるのか……。

 まぁ、それがセクサロイドの仕事なのだが。

 彼女の手料理は、盛り付けもよく、味もうまかった。

 ミチカはオレの食べる姿を微笑みながら見る。

 うれしいらしい。

 彼女は飲食もできる身体だ。

 それでも自分からは食べようとはしない。

 ミリーは、そういう身体ではなかった。

 それだけの違いがあるのだ。

 ミチカをふつうに購入したら、かなりの額になるだろう。

 その点では、アルに――SXEにも――感謝するしかない。


 冷蔵庫には、石が入っていた。

 じつはこの石、生物なのである。

 名前は、“石サナギ”。

 〈アーガイル〉に斥候部隊が進入してきたときに、隊長に説明した食材のひとつだ。

 中には柔らかい肉質と甘みのある水分が入っている。

 素晴らしく美味で、まるで果物のようなのだ。

 この石のような殻は、食塩水で処理すると、柔らかくなる。

 ふつうに割ろうとすると、かなりの硬さで、苦労してしまうのだが。

 なぜ、こんな石のようになるのか?

 この生物は、川辺に生息している。

 成熟するとマユを作る――これが石のように見える。

 一種の擬態だ。

 そうして、川の水かさが増えると、このマユが水面に浮かび――中には気室があって浮かぶ――、下流へと流される。

 海に到達すると、海水の塩分により、マユが柔らかくなり、中の生物が出てきて、生殖活動を行なう。

 卵は、海草の森に生みつけられる。

 卵から孵ると、生物は川を遡上していく。

 成熟するまでは、川床を這って、エサを探して、生きていくのだ。

 ほかにも変わった生物はいるが、彼らから見たら、人間の方が変わって見えるのだろうな。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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