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落とされ人  作者: カーブミラー


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206/212

【206.入院】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 スクリーンには、マリーンの眠る姿が映し出されている。

 彼女は、修復ドックの中だ。

 さきほど、身体と脳髄との接続を最小限にして、修復ドックへと入れられた。

 修復ドックは、脳との連絡が取れるようになっている。

「気分はどうですか?」とアルが問いかける。

「この部屋は?」

 マリーンの声だ。

 不安そうである。

 別のスクリーンに、彼女が見ている世界が映し出されている。

 ひとつの部屋、ワンルームタイプだ。

 広くはないが、家具調度類は揃っている。

「バーチャルスペースです。外にも出られます」

「外に?」

「ええ。ちょっとした街になっていますから、飲食でも買い物でもご自由にどうぞ」

「買い物? お金は?」

「カードを用意しました。そちらを使ってください。ただし、買い物をしてもこちらには持ち帰れませんけどね」

「はぁ……あの、先生?」

「ここにいるよ」

「先生は、お仕事に戻るんですよね?」

「うん」

「こちらには来られるんですか?」

「できるだけ来るつもりだ」

「そうしてください」

「フェイスも使えるようになってる。映話は無理だが、音声やメールなら可能だ」

 実際のフェイスではない。

 この基地の存在が上に知られてしまうために、電波通信は使えない。

 そのため、思念波通信で、オレと念をつなぐことになっている。

「わかりました」

 こうしたバーチャルスペースを用意したのは、マリーンの脳に負担をかけないためだ。

 脳は――人間であれ、ロボットであれ――入力を必要とする。

 入力が一切ないと、脳は自力でなんとかしようともがく。

 自閉症のような状態となり、それが続くと、脳は外部との接触を二度としなくなってしまう。

 また、マリーンが新しい自分に違和感を覚えないように工夫もされている。

 実際の施術は1週間だが、彼女には「ひと月かかる」と言ってある。

 彼女の脳の思考速度を落とし、そう思わせているのだ。

 その“ひと月”のあいだに、彼女に変化が起こる。

 新しい状態に徐々に変化していくのだ。

 目覚め、活動して、眠る――そうした生活の中で変化していく。

 彼女は毎日、鏡を見るだろう。

 彼女が気付く変化は起こらないが、気付いたときには新しい自分だ。

 “ひと月”にしたのは、1週間では毎日の変化が見えてしまうからだ。

 突然新しい自分になっているより、毎日目に見えて変わっていくより、その方がストレスが生じない。

 ただ、そのままでは、外部と連絡をとろうとすると、脳内速度が合わないために何も伝わらなくなる。

 そのため、そうした時間だけは脳の思考速度をもとに戻す必要がある。

 それは修復ドックが自動的に行なってくれることになっていた。

 今も彼女の思考速度は、こちらと同じになっている。

 まぁ、彼女が“一日一回だけ”と思って通信しても、こちらでは一日に3回から4回も受けることになるのだが。

 逆に言えば、毎日お見舞いにやってきても、彼女にとっては3日に一度程度になってしまう。

 可哀想だが仕方あるまい。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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