【206.入院】
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スクリーンには、マリーンの眠る姿が映し出されている。
彼女は、修復ドックの中だ。
さきほど、身体と脳髄との接続を最小限にして、修復ドックへと入れられた。
修復ドックは、脳との連絡が取れるようになっている。
「気分はどうですか?」とアルが問いかける。
「この部屋は?」
マリーンの声だ。
不安そうである。
別のスクリーンに、彼女が見ている世界が映し出されている。
ひとつの部屋、ワンルームタイプだ。
広くはないが、家具調度類は揃っている。
「バーチャルスペースです。外にも出られます」
「外に?」
「ええ。ちょっとした街になっていますから、飲食でも買い物でもご自由にどうぞ」
「買い物? お金は?」
「カードを用意しました。そちらを使ってください。ただし、買い物をしてもこちらには持ち帰れませんけどね」
「はぁ……あの、先生?」
「ここにいるよ」
「先生は、お仕事に戻るんですよね?」
「うん」
「こちらには来られるんですか?」
「できるだけ来るつもりだ」
「そうしてください」
「フェイスも使えるようになってる。映話は無理だが、音声やメールなら可能だ」
実際のフェイスではない。
この基地の存在が上に知られてしまうために、電波通信は使えない。
そのため、思念波通信で、オレと念をつなぐことになっている。
「わかりました」
こうしたバーチャルスペースを用意したのは、マリーンの脳に負担をかけないためだ。
脳は――人間であれ、ロボットであれ――入力を必要とする。
入力が一切ないと、脳は自力でなんとかしようともがく。
自閉症のような状態となり、それが続くと、脳は外部との接触を二度としなくなってしまう。
また、マリーンが新しい自分に違和感を覚えないように工夫もされている。
実際の施術は1週間だが、彼女には「ひと月かかる」と言ってある。
彼女の脳の思考速度を落とし、そう思わせているのだ。
その“ひと月”のあいだに、彼女に変化が起こる。
新しい状態に徐々に変化していくのだ。
目覚め、活動して、眠る――そうした生活の中で変化していく。
彼女は毎日、鏡を見るだろう。
彼女が気付く変化は起こらないが、気付いたときには新しい自分だ。
“ひと月”にしたのは、1週間では毎日の変化が見えてしまうからだ。
突然新しい自分になっているより、毎日目に見えて変わっていくより、その方がストレスが生じない。
ただ、そのままでは、外部と連絡をとろうとすると、脳内速度が合わないために何も伝わらなくなる。
そのため、そうした時間だけは脳の思考速度をもとに戻す必要がある。
それは修復ドックが自動的に行なってくれることになっていた。
今も彼女の思考速度は、こちらと同じになっている。
まぁ、彼女が“一日一回だけ”と思って通信しても、こちらでは一日に3回から4回も受けることになるのだが。
逆に言えば、毎日お見舞いにやってきても、彼女にとっては3日に一度程度になってしまう。
可哀想だが仕方あるまい。
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