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落とされ人  作者: カーブミラー


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205/211

【205.マリーンのフラストレーション】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 休みの日。

 マリーンと連れ立って買い物に出る、いつもの流れで。

 うれしそうにくっついてくるマリーンに、オレは微笑む。

 以前は、若い女の子と歩いていると、それだけで若返った気になっていた。

 でも身体の中身が若返った今は、気分だけではなく、身体も反応してしまう。

 ゆうべもミチカを、たっぷりと抱いたというのに。

 いつも行く店のスタッフに「モーガン卿、最近、若返ってませんか?」と声かけられたり、「若い子と一緒だからって、がんばりすぎないでね」とからかわれたりする。

 買い物のほとんどを終え、いつものカフェに入った。

 冷たい飲み物を注文して、テーブル席に座る。

 ホッとすると、マリーンがため息をついた。

「あぁあ」

「どうしたね?」

「もう終わり。あとはお城に帰るだけ。そうでしょう?」

 いつもの流れならそうだが。

「そのつもりだが?」

「もっと先生といたいのに」と唇を尖らせる。

「こんな老人と一緒なんて、どこがいいんだか」とオレは首を振る。

 スタッフが、テーブルに飲み物を置いてくれる。

 ありがとう、とお礼の言葉をかけると、笑みを返してくれる。

 そのスタッフがテーブルを離れる。

「先生は、老人じゃありません。それに私はもうすぐ24歳です。身体は二十歳のままですけど」

 そうだった、彼女の身体はSXEのロボットだ。

 何もしなければ、成長できない。

「ふむ、いつまでも子どもじゃない、そう言いたいわけか」

「そうです」

 精神年齢は大人になりたがっているのに、身体年齢が止まったまま。

 それなりのフラストレーションが溜まっているのかもしれない。

「いくらお化粧しても子どもっぽいんです、いつまでも」

「なるほど」

 メンテナンスは、まだ受けていない。

 SXEのスーザンさんからは、まだしばらくは大丈夫だろう、と言われていた。

 だが、このままでは、精神年齢と身体年齢のギャップで、マリーンの精神に影響がおよぶかもしれない。

 それが彼女を苦しめることになる。


「どう思うね?」

 オレは、調査船の中にいた。

 目の前には、アルとゾフィー。

 マリーンのことを相談したのだ。

 だが、ふたりは首を振った。

 それからゾフィーが「SXEに相談してみます」と言って、ホロ映像のエリアから出ていった。

 SXE専用の通信回線は電波ではない。

 だが、映話できるほどの情報量のやり取りはできないそうだ。

 しばらく待つ。

 戻ってきた彼女は、もとのイスに座った。

「スーザンさんと話しました。ロボットの擬似成長プロセスであれば、各段階での身体を用意しておくのですが、人間であるマリーンさんの場合、新たな身体を用意しても、移植できません」

「移植できない?」

「はい。脳の移植が必要なわけですが、それを行なえるだけの技術が、ここにはないのです」

「基地にも?」

「はい。基地はロボットのメンテナンスが目的でしたから。ですから新たな身体を作っても意味がありません」

「では、あのまま?」

「いえ。メンテナンス時に多少の変更が可能なので、それで対処できるそうです」

 手がある。

 ホッとした。

「ただし」とゾフィー。「それをすると急に歳を重ねたようになりますので、まわりの人間に違和感が」

「それは困るな」

「はい。そこでマリーンさんをしばらくのあいだ、隔離できるといいのですが」

「隔離か」

 確かにそうすべきだろう。

 そうした変更をマリーン自身も慣れる必要もあるし。

 そうなると、問題は……まわりにどう説明すべきか、どこに隔離するか、だな。


 翌日、室長に声をかけた。

 マリーンの職場の責任者であり、彼女の身体のことを知っている人間のひとりなのだ。

 それに調査船のことも知っている。

 相談するのは室長しかいない。

「どうかした?」

「緊急ではないのですが、ご相談が」

「そう」スケジュールを確認する室長。「このあと、会議が入っているから……夕方になっちゃうけど」

「結構です」

「ちなみにどんなこと?」

「プライベートに絡むことです」

「プライベート? 休暇申請ってこと?」

 ふむ、そういうことになるかもしれないな。

「それも含めて」

「そう。わかったわ。詳しくはそのときに」


 夕方、会議室で室長に事情を説明する。

「ときどき思っていたのよ、どうするんだろうって。そう、手があったのね。それでどのくらいの期間が必要なの?」

「マリーンのメンテナンスで異常がなければ、1週間ほどで加齢処置が完了します。ですが、20代前半から一気に20代後半になってしまいます」

「そうなるとまわりが驚くわね」

「ええ。同じ驚くのでも、それなりの期間があれば、その期間に何かあったのだと納得できるでしょう」

「そうね。その期間はこちらで設定できるのかしら?」

「はい。ただ、女性がそのような変化を起こすくらいの期間を、どのくらいに設定すればいいか、私にはわからないですし、長期になるとすれば、そのあいだの仕事を休むことになります」

「休みにする必要はないわ。加齢処置のあとは、ふつうに働けるんでしょう?」

「ええ」

「ならば、彼女には別の場所で働いてもらいましょう。ちょうどいい仕事があるのよ」


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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