【205.マリーンのフラストレーション】
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休みの日。
マリーンと連れ立って買い物に出る、いつもの流れで。
うれしそうにくっついてくるマリーンに、オレは微笑む。
以前は、若い女の子と歩いていると、それだけで若返った気になっていた。
でも身体の中身が若返った今は、気分だけではなく、身体も反応してしまう。
ゆうべもミチカを、たっぷりと抱いたというのに。
いつも行く店のスタッフに「モーガン卿、最近、若返ってませんか?」と声かけられたり、「若い子と一緒だからって、がんばりすぎないでね」とからかわれたりする。
買い物のほとんどを終え、いつものカフェに入った。
冷たい飲み物を注文して、テーブル席に座る。
ホッとすると、マリーンがため息をついた。
「あぁあ」
「どうしたね?」
「もう終わり。あとはお城に帰るだけ。そうでしょう?」
いつもの流れならそうだが。
「そのつもりだが?」
「もっと先生といたいのに」と唇を尖らせる。
「こんな老人と一緒なんて、どこがいいんだか」とオレは首を振る。
スタッフが、テーブルに飲み物を置いてくれる。
ありがとう、とお礼の言葉をかけると、笑みを返してくれる。
そのスタッフがテーブルを離れる。
「先生は、老人じゃありません。それに私はもうすぐ24歳です。身体は二十歳のままですけど」
そうだった、彼女の身体はSXEのロボットだ。
何もしなければ、成長できない。
「ふむ、いつまでも子どもじゃない、そう言いたいわけか」
「そうです」
精神年齢は大人になりたがっているのに、身体年齢が止まったまま。
それなりのフラストレーションが溜まっているのかもしれない。
「いくらお化粧しても子どもっぽいんです、いつまでも」
「なるほど」
メンテナンスは、まだ受けていない。
SXEのスーザンさんからは、まだしばらくは大丈夫だろう、と言われていた。
だが、このままでは、精神年齢と身体年齢のギャップで、マリーンの精神に影響がおよぶかもしれない。
それが彼女を苦しめることになる。
「どう思うね?」
オレは、調査船の中にいた。
目の前には、アルとゾフィー。
マリーンのことを相談したのだ。
だが、ふたりは首を振った。
それからゾフィーが「SXEに相談してみます」と言って、ホロ映像のエリアから出ていった。
SXE専用の通信回線は電波ではない。
だが、映話できるほどの情報量のやり取りはできないそうだ。
しばらく待つ。
戻ってきた彼女は、もとのイスに座った。
「スーザンさんと話しました。ロボットの擬似成長プロセスであれば、各段階での身体を用意しておくのですが、人間であるマリーンさんの場合、新たな身体を用意しても、移植できません」
「移植できない?」
「はい。脳の移植が必要なわけですが、それを行なえるだけの技術が、ここにはないのです」
「基地にも?」
「はい。基地はロボットのメンテナンスが目的でしたから。ですから新たな身体を作っても意味がありません」
「では、あのまま?」
「いえ。メンテナンス時に多少の変更が可能なので、それで対処できるそうです」
手がある。
ホッとした。
「ただし」とゾフィー。「それをすると急に歳を重ねたようになりますので、まわりの人間に違和感が」
「それは困るな」
「はい。そこでマリーンさんをしばらくのあいだ、隔離できるといいのですが」
「隔離か」
確かにそうすべきだろう。
そうした変更をマリーン自身も慣れる必要もあるし。
そうなると、問題は……まわりにどう説明すべきか、どこに隔離するか、だな。
翌日、室長に声をかけた。
マリーンの職場の責任者であり、彼女の身体のことを知っている人間のひとりなのだ。
それに調査船のことも知っている。
相談するのは室長しかいない。
「どうかした?」
「緊急ではないのですが、ご相談が」
「そう」スケジュールを確認する室長。「このあと、会議が入っているから……夕方になっちゃうけど」
「結構です」
「ちなみにどんなこと?」
「プライベートに絡むことです」
「プライベート? 休暇申請ってこと?」
ふむ、そういうことになるかもしれないな。
「それも含めて」
「そう。わかったわ。詳しくはそのときに」
夕方、会議室で室長に事情を説明する。
「ときどき思っていたのよ、どうするんだろうって。そう、手があったのね。それでどのくらいの期間が必要なの?」
「マリーンのメンテナンスで異常がなければ、1週間ほどで加齢処置が完了します。ですが、20代前半から一気に20代後半になってしまいます」
「そうなるとまわりが驚くわね」
「ええ。同じ驚くのでも、それなりの期間があれば、その期間に何かあったのだと納得できるでしょう」
「そうね。その期間はこちらで設定できるのかしら?」
「はい。ただ、女性がそのような変化を起こすくらいの期間を、どのくらいに設定すればいいか、私にはわからないですし、長期になるとすれば、そのあいだの仕事を休むことになります」
「休みにする必要はないわ。加齢処置のあとは、ふつうに働けるんでしょう?」
「ええ」
「ならば、彼女には別の場所で働いてもらいましょう。ちょうどいい仕事があるのよ」
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