【198.見舞い客】
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「〈ヘベルカ〉の指揮官は更迭して、評議会の決議を待っている」
陛下は医療ドックのそばに座って、そう切り出した。
オレが目覚めたことを知り、城から上がってきたのだ。
「彼の部下たちは?」
〈スベルト王国〉に侵攻しようとしていた〈ヘベルカ〉の兵士たちのことだ。
「武装解除させたあと、〈ヘベルカ〉の状況を聞きだした。食べられるものがわからず、飢えていたようだな。〈スベルト〉軍とともに〈ヘベルカ〉の国民のところへ戻した。各種資料を渡して、食料を集めさせ、炊き出しを行なったそうだ」
「喜んだでしょうね」
陛下はうなずいた。
「報告では、最初、それらが本当に食べられるのか、と怪訝な表情だったそうだが、炊き出しを受け取って食べると、誰もが驚きとともに安堵した顔をしたそうだ。こちらからの支援は財政難で最低限になってしまうが、食料が豊富にあるのだから充分だろう」
「そうですね。それで今後は〈スベルト王国〉に併合を?」
「すでにな。今は領主を選出させているところだ」
安堵した。
「〈アーガイル〉には進軍されたが、斥候隊が進んでいた経路だったので、これといった被害もなかった。今は平常に戻っている」
「それはよろしかったですね」
「うむ。あとは、おまえが戻ってくれれば、丸く収まる」
「その点につきましては」とアル。「まだまだ時間がかかります」
「仕方がないな」
「御迷惑をおかけいたします」
「いいさ。元気になってくれればそれでいい」
医療ドックの中に閉じ込められているのは、実に暇だった。
ときどき、全身にピリピリと微電流が流れ、筋肉の収縮が繰り返される。
全身の筋力が衰えないようにしているのだが、それ以外には刺激がない。
いろんなことを考えるのだが、どうしても空回りばかり。
自分の書庫の本を読んでもみるが、ひまつぶしには程遠い。
アルに単純なゲームを用意してもらって遊んでみるが、すぐに飽きてしまう。
陛下やテオたちが毎日、見舞いに来てくれるのは、うれしかった。
室長もときどき顔を見せた。
「陛下から聞いたの」という。「ほかの人たちには、病気で入院していることにしてある。隔離が必要な病気だと、ね」
「具体的には?」
「聞かされていない、と言っておいたわ」と笑みを浮かべて、肩をすくめた。それから部屋の中を見回す。「しかし、変わった病院だわね」
オレは笑った。
「確かに」
「このベッドも。しかも城の上空に浮かんでいるなんて、信じられないわ」彼女の目がオレに戻ってきた。「いったいどういう知り合いなの?」
「SXEが持ち込んだものです。この惑星に住む人間を観察するためだとか」
「観察?」
「ええ。ロボットには、“人間のことを守りたい”という本能が組み込まれていますからね。そういう意味では、この惑星の人間たちが心配なんでしょう」
「でも、ロボットの姿はないわね」
「SXEのロボットを間近に見られたことはありませんか?」
「使っている人はいたわ。外見は人間ぽかったけど、見分けはすぐについた」
「なるほど。私はセクサロイドを使っていました」
「セクサロイドを? あなたならなんの問題もなく、本物の女も抱けるでしょう?」
「抱けます。実際に抱いてきました。ですが」首を振った。医療ドックの中なので大きくは動かせないが。「所詮は金で買った女たちです。あるいは、金目当てのね。そんな女に満足はできませんよ」
「だからセクサロイドに?」
「購入したときは期待もしていなかったんですが……いつのまにか」肩をすくめようとしたが、その肩も医療ドックの中だ。「まぁ、そういうことです」
「ふむ。それでセクサロイドはロボットくささはない、と?」
「それなりの部分は持っていました。でも見た目だけなら遜色はありませんね」
「だとしたら――」とアルを見た。「彼が?」
「ええ。アルはロボットです。グレードは最高級でしょう。そうだよね、アル」
アルは問いかけに、微笑みを浮かべて、うなずいて応えた。
そのうなずきを見ても、室長は信じられない、という顔をしている。
まぁ、わからなくもない。
「証拠を見せろ、と言われても見せようがないでしょうがね」
「つまり、それだけ人間そっくりなわけ?」
「ええ。飲食もできますから、人間の中にいてもわからないでしょうね」
「飲食まで? それでは専門家でなければわからないわね」
「アル、専門家なら君がロボットだとわかるのかね?」
「わかるでしょう。ロボットには固有の癖がありますから」
「固有の癖?」
「ええ。ふつうの人にはわからない程度のものです。ですが、専門家はその癖を理解しています、どうしてその癖が出るのかをね」
室長は首を振るばかりだった。
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