【194.指揮官】
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「私を取り囲んで、どうしようと?」ウォーレン隊長に尋ねた。
「ほぉ。わかるのか」
「多少は」
「ならどうするかもわかるだろう?」
「私を指揮官の前に、連れていくおつもりですね」
「そういうことだ」
「わかりました」
「抵抗はしないのか?」
「するつもりはありません。ですから拘束しないでいただきたい」
彼は予想していたようだ。
「わかった。武器の類いは?」
「持っていません」
「念のためにボディーチェックしたいが」
「もちろんです」
彼は、右手を上げて、ハンドサインを出す。
ひとりが影から出てきた。
彼は、ボーガンをウエストに提げると、オレの身体をチェックしはじめた。
ポケットから引っ張り出したのは、写真立てだ。
それを隊長に見せると、オレに手渡す。
それから充分にチェックすると、隊長に右手で親指を立てて見せる。
ウォーレン隊長がうなずくと、ボディーチェックした男は、ボーガンを構えながらオレから少し離れた。
「では、これから移動する」
オレはうなずいて応えた。
移動しようと動き出したとき、一頭のアーガイル・フォックスが綿菓子の樹のかげから近づいてきたのに気付き、立ち止まった。
ライトグレーの毛皮に、ダークグリーンの瞳。
見覚えのあるアーガイル・フォックスだ。
オレの足元まで来ると、後ろ足とお尻で立ち上がり、左前足を上げ、その指を伸ばした。
オレはかがんで、目の高さを同じにする。
アーガイル・フォックスは、その左前足をオレのホオに当てた。
(長老、逃げなかったのですか?)
そう、そのアーガイル・フォックスは、“長老”と呼ばれる個体だった。
(どうなるのか、見ていようと思ってな)とおもしろがっている。
(困ったかただ。それでどうするおつもりで?)
(ご一緒したい)
(しかし)
(我々にも関係するのだろう?)
(そうですが)
(ならお願いしたい)
オレはどうしたものかと考えた。
(仕方ありませんね。歩けますか?)
(遠いのかな?)
(それなりに)
(ご迷惑でなければ――)
みなまで言わせるわけにいかないだろう。
(わかりました)
彼を抱き上げた。
年老いているので、思ったほど重くはない。
「おい、まさか、そいつを連れていくんじゃないだろうな」と隊長。
「ついてきたいらしい。面倒は私が見ますから」
隊長は首を振りながら、移動を開始した。
まわりを斥候隊が取り巻き、オレは指揮官のいる陣地に連れていかれた。
黒尽くめの兵士たちは男女の区別なく、地面に座って待機していた。
誰もがこちらを鋭く見つめている。
飢えた獣の群れのように。
斥候隊が立ち止まった。
隊長が振り返る。
「ここで待て」
うなずく。
隊長もうなずき、向きを変えて、移動していく。
その先には、ひとりの男が立っていた。
隊長はその男に報告をする。
その男はこちらを見たが、首を振った。
男の顔は、すでにウォーレン隊長の記憶から知っていた。
彼らの指揮官だ。
隊長がこちらへと戻ってきた。
「指揮官は、おまえなど知らない、と言っているぞ」とほくそえんでいる。
「でしょうね。彼から話を聞いた、というのはウソです」
「ああ、わかってる。指揮官がおまえと話すそうだ」
彼について、その指揮官に近づく。
指揮官は草を編んだクッションの上に、腰を下ろそうとしているところだった。
ほかにもいくつかクッションがある。
そのひとつに指揮官は腰を下ろし、こちらを向いた。
その手がひとつのクッションを示して、オレに座るように無言で言った。
隊長は一歩下がったところに立つ。
オレは示されたクッションに腰を下ろした。
長老は、オレのホオに手をつけたまま、指揮官を見つめた。
このやり取りは、アーガイル・フォックスのネットワークを通じて、みんなに伝わっている。
「〈スベルト王国〉から来たそうだな」
「そうです。パオロ・モーガンといいます」
「オレは、オルソー・パーマーだ。〈ヘベルカ〉軍の指揮官をしている」
うなずく。
「おまえは、どうやってオレたちの計画を知った?」
「彼からはなんと?」
「オレから聞いた、と言ったそうだな」
「ええ。正確にはあなたの頭の中を覗き見たのです」
「マイクの言ったとおりか。超能力なんぞ、信じたくはないが」
「私も最初は信じていませんでした」
「だが、今は信じているわけだ。それでどうしたい?」
「〈スベルト王国〉への侵攻をやめていただきたいのです」
「おまえは、〈スベルト王国〉のなんなのだ?」
「あそこで働いている国民です」
「役職くらいはあるだろう? だいたい、こんなところで何をしている?」
本当のことを言うつもりはない。
「〈アーガイル〉にいるこの動物の保護状況を、確かめに来ていたのです」
「〈アーガイル〉?」
「〈アーガイル〉とはウォーレン隊長が入った国のことです。〈アーガイル〉はすでに〈スベルト王国〉に併合されております」
「国だったのか。なんでその動物を保護してる?」
「これは、アーガイル・フォックスという動物でして、まぁ、絶滅危惧種のようなものです。〈アーガイル〉はその保護区に指定されているのです。あそこの国民は全員が保護監督官の役目を負っています」
「全員が?」
「はい。この動物とは、長年共存してきた経緯があるので」
「共存?」
「ええ。いろいろと役立っているのだそうで」
「いろいろとねぇ。まぁ、いい。オレたちが〈スベルト王国〉へと侵攻したい理由はわかっているな」
うなずく。
「侵攻を止めたいならば、必要なこともわかっているんだろう?」
「食料ですね」
「そうだ。定期的に差し出してくれれば、侵攻しない」
「ウォーレン隊長にも言いましたが、あなたがたの土地には、充分な食料があります」
「聞いた。その味すらも示したそうだな」
「味見してみますか?」
「いらん。鵜呑みにするつもりはない。おまえからは〈スベルト王国〉の情報が欲しいだけだ」
「つまり、侵攻はやめない、と?」
「そうだ。もちろん、首都に攻め入るつもりはない。領土を少しいただくだけだ」
「そんなことをしても、いずれは奪還されてしまいますよ?」
「させないさ」
オレは首を振った。
「困りましたね。国民を助けたいのならば、〈スベルト王国〉への併合を考えた方が得策だと思いますが」
「併合?」指揮官は笑い出した。「併合されたからといって、オレたちが満足すると思っているのか? 馬鹿馬鹿しい」
「ならば、私も協力はできません」
「そうだろうな。なら死んでくれ」
彼の右手がさっと動いた。
何かが飛んできたのが見えた。
避けようとしたが、首筋にザラッとした感触が通っていった。
あとから痛みが走った。
「なんだ?」
指揮官が持ち上げたのは、1mほどの植物の茎で、先端に5cmほどの穂がついている。
どうやらその穂でなでられたらしい。
「おまえはあと数秒で死ぬ。こいつは、穂に毒を持っていてな。ちょっとでもこれで傷つけられると、その毒で死にいたる。苦しまずにあの世に行ける」
意識が朦朧としてきた。
やばい、と思った瞬間には跳んでいた。
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