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落とされ人  作者: カーブミラー


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194/239

【194.指揮官】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

「私を取り囲んで、どうしようと?」ウォーレン隊長に尋ねた。

「ほぉ。わかるのか」

「多少は」

「ならどうするかもわかるだろう?」

「私を指揮官の前に、連れていくおつもりですね」

「そういうことだ」

「わかりました」

「抵抗はしないのか?」

「するつもりはありません。ですから拘束しないでいただきたい」

 彼は予想していたようだ。

「わかった。武器の類いは?」

「持っていません」

「念のためにボディーチェックしたいが」

「もちろんです」

 彼は、右手を上げて、ハンドサインを出す。

 ひとりが影から出てきた。

 彼は、ボーガンをウエストに提げると、オレの身体をチェックしはじめた。

 ポケットから引っ張り出したのは、写真立てだ。

 それを隊長に見せると、オレに手渡す。

 それから充分にチェックすると、隊長に右手で親指を立てて見せる。

 ウォーレン隊長がうなずくと、ボディーチェックした男は、ボーガンを構えながらオレから少し離れた。

「では、これから移動する」

 オレはうなずいて応えた。

 移動しようと動き出したとき、一頭のアーガイル・フォックスが綿菓子の樹のかげから近づいてきたのに気付き、立ち止まった。

 ライトグレーの毛皮に、ダークグリーンの瞳。

 見覚えのあるアーガイル・フォックスだ。

 オレの足元まで来ると、後ろ足とお尻で立ち上がり、左前足を上げ、その指を伸ばした。

 オレはかがんで、目の高さを同じにする。

 アーガイル・フォックスは、その左前足をオレのホオに当てた。

(長老、逃げなかったのですか?)

 そう、そのアーガイル・フォックスは、“長老”と呼ばれる個体だった。

(どうなるのか、見ていようと思ってな)とおもしろがっている。

(困ったかただ。それでどうするおつもりで?)

(ご一緒したい)

(しかし)

(我々にも関係するのだろう?)

(そうですが)

(ならお願いしたい)

 オレはどうしたものかと考えた。

(仕方ありませんね。歩けますか?)

(遠いのかな?)

(それなりに)

(ご迷惑でなければ――)

 みなまで言わせるわけにいかないだろう。

(わかりました)

 彼を抱き上げた。

 年老いているので、思ったほど重くはない。

「おい、まさか、そいつを連れていくんじゃないだろうな」と隊長。

「ついてきたいらしい。面倒は私が見ますから」

 隊長は首を振りながら、移動を開始した。


 まわりを斥候隊が取り巻き、オレは指揮官のいる陣地に連れていかれた。

 黒尽くめの兵士たちは男女の区別なく、地面に座って待機していた。

 誰もがこちらを鋭く見つめている。

 飢えた獣の群れのように。

 斥候隊が立ち止まった。

 隊長が振り返る。

「ここで待て」

 うなずく。

 隊長もうなずき、向きを変えて、移動していく。

 その先には、ひとりの男が立っていた。

 隊長はその男に報告をする。

 その男はこちらを見たが、首を振った。

 男の顔は、すでにウォーレン隊長の記憶から知っていた。

 彼らの指揮官だ。

 隊長がこちらへと戻ってきた。

「指揮官は、おまえなど知らない、と言っているぞ」とほくそえんでいる。

「でしょうね。彼から話を聞いた、というのはウソです」

「ああ、わかってる。指揮官がおまえと話すそうだ」

 彼について、その指揮官に近づく。

 指揮官は草を編んだクッションの上に、腰を下ろそうとしているところだった。

 ほかにもいくつかクッションがある。

 そのひとつに指揮官は腰を下ろし、こちらを向いた。

 その手がひとつのクッションを示して、オレに座るように無言で言った。

 隊長は一歩下がったところに立つ。

 オレは示されたクッションに腰を下ろした。

 長老は、オレのホオに手をつけたまま、指揮官を見つめた。

 このやり取りは、アーガイル・フォックスのネットワークを通じて、みんなに伝わっている。

「〈スベルト王国〉から来たそうだな」

「そうです。パオロ・モーガンといいます」

「オレは、オルソー・パーマーだ。〈ヘベルカ〉軍の指揮官をしている」

 うなずく。

「おまえは、どうやってオレたちの計画を知った?」

「彼からはなんと?」

「オレから聞いた、と言ったそうだな」

「ええ。正確にはあなたの頭の中を覗き見たのです」

「マイクの言ったとおりか。超能力なんぞ、信じたくはないが」

「私も最初は信じていませんでした」

「だが、今は信じているわけだ。それでどうしたい?」

「〈スベルト王国〉への侵攻をやめていただきたいのです」

「おまえは、〈スベルト王国〉のなんなのだ?」

「あそこで働いている国民です」

「役職くらいはあるだろう? だいたい、こんなところで何をしている?」

 本当のことを言うつもりはない。

「〈アーガイル〉にいるこの動物の保護状況を、確かめに来ていたのです」

「〈アーガイル〉?」

「〈アーガイル〉とはウォーレン隊長が入った国のことです。〈アーガイル〉はすでに〈スベルト王国〉に併合されております」

「国だったのか。なんでその動物を保護してる?」

「これは、アーガイル・フォックスという動物でして、まぁ、絶滅危惧種のようなものです。〈アーガイル〉はその保護区に指定されているのです。あそこの国民は全員が保護監督官の役目を負っています」

「全員が?」

「はい。この動物とは、長年共存してきた経緯があるので」

「共存?」

「ええ。いろいろと役立っているのだそうで」

「いろいろとねぇ。まぁ、いい。オレたちが〈スベルト王国〉へと侵攻したい理由はわかっているな」

 うなずく。

「侵攻を止めたいならば、必要なこともわかっているんだろう?」

「食料ですね」

「そうだ。定期的に差し出してくれれば、侵攻しない」

「ウォーレン隊長にも言いましたが、あなたがたの土地には、充分な食料があります」

「聞いた。その味すらも示したそうだな」

「味見してみますか?」

「いらん。鵜呑みにするつもりはない。おまえからは〈スベルト王国〉の情報が欲しいだけだ」

「つまり、侵攻はやめない、と?」

「そうだ。もちろん、首都に攻め入るつもりはない。領土を少しいただくだけだ」

「そんなことをしても、いずれは奪還されてしまいますよ?」

「させないさ」

 オレは首を振った。

「困りましたね。国民を助けたいのならば、〈スベルト王国〉への併合を考えた方が得策だと思いますが」

「併合?」指揮官は笑い出した。「併合されたからといって、オレたちが満足すると思っているのか? 馬鹿馬鹿しい」

「ならば、私も協力はできません」

「そうだろうな。なら死んでくれ」

 彼の右手がさっと動いた。

 何かが飛んできたのが見えた。

 避けようとしたが、首筋にザラッとした感触が通っていった。

 あとから痛みが走った。

「なんだ?」

 指揮官が持ち上げたのは、1mほどの植物の茎で、先端に5cmほどの穂がついている。

 どうやらその穂でなでられたらしい。

「おまえはあと数秒で死ぬ。こいつは、穂に毒を持っていてな。ちょっとでもこれで傷つけられると、その毒で死にいたる。苦しまずにあの世に行ける」

 意識が朦朧(もうろう)としてきた。

 やばい、と思った瞬間には跳んでいた。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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