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落とされ人  作者: カーブミラー


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193/242

【193.斥候部隊の隊長】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


今話は、少し短めです。

 手に持っていたものを持ち上げた。

 写真立てだ。

 3回、小突く。

 写真立てから黒い煙が湧き出てきて、オレの身体に絡んできた。

 黒いスウェットスーツが、肌と服のあいだに出来上がる。

 ナノマシンでできたスウェットスーツだ。

 首の飾りボタンを4回小突く。

 するとスウェットスーツは黒からグレーになった。

 これでいい。

 個人用バリアほどの護身能力はないが、あのボーガンくらいは貫通させずにすむはずだ。

 当たった際の衝撃は、どうしようもないのだが。

 それでもナイフは貫通しない。

 切ろうとしても切れない。

 これは、ナノレベルで構成されている金属繊維で、鎖のように編まれている。

 切ろうとしたら、ナノ結合を解かねばならない。

 どうしてもとなれば、そうした指令を出すか、薬品を使うかだろう。

 枠がほとんどなくなった写真立てをポケットにしまった。

 グニャリと曲がってしまうが、ポケットから出せばすぐにもとどおりになる。

 写真はフィルムの上にプリントされているし、写真立て自身は元の形状を記憶している。

 意識をさきほどのスクリーンに戻した。

 斥候は、まっすぐにこちらへと向かっている。

(パオロ!)陛下の困惑した念が聞こえた。

(はい、陛下)

(何をしている? なぜ、逃げない?)

(説得を試みます)

(無茶だ!)

(ご心配なく。危うくなったら逃げ出します)

 陛下は逡巡(しゅんじゅん)し、やがて応えた。

(わかった。無理はするなよ)

(はい、陛下)

 意識を斥候部隊の先頭の男に集中した。

 もうじきこの村に着く。

 オレは、立ったまま、待つ。

 男が村外れに到着した。

 こちらからは見えない位置だ。

 男は腰を落とし、部下たちにハンドサインを出す。

(止まれ)という念。

 部下たちが止まり、腰を落とした。

 男の目にオレが映っている。

 オレは10時方向に向きを変えた。

 男のいる方向だ。

 男が少し動揺する。

(こちらのことがわかるのか?)

 しばらくは、おたがいになんの行動も示さない。

(あいつ以外に気配がない。例の動物の視線も感じられない。さっきの村も村人は逃げたあとだった。どうやってこちらの動向を知った?)

 疑問が男の頭の中を駆けめぐっている。

(だいたい、あいつはなんで逃げずにいるんだ?)

 そこでオレは口を開いた。

「〈スベルト王国〉への侵攻をやめてください」

 静けさの中で、オレの声はしっかりと届いた。

(なぜ我々の目的を知っている?)

「あなたがたの指揮官から計画を聞きました。私は、〈スベルト王国〉のパオロ・モーガンと申します」

(何? 〈スベルト王国〉? 指揮官から聞いただと?)

「出てきてもらえませんか? ウォーレン隊長」

(な、なぜオレの名前まで! 指揮官が話したというのか)

 男の動揺が広がる。

 だが、すぐに動揺は収まり、決心したようだ。

 右手を上げて、部下に対してのハンドサインを出した。

(そのままでいろ)

 男は、完全には立ち上がらず、ボーガンを構えたまま、影の中から姿を現した。

「動くなよ」

「わかりました」

「村人は?」

「となりの村へと逃げました」

「我々の動きを察知していたようだが?」

「ええ」

「どうやった?」

「ご存じなかったと思いますが、この土地は、すでに〈スベルト王国〉です」

「何?」

「しかも王室の保護区となっています」

「保護区?」

「はい。ここにはとある動物がおり、その動物を保護しているのです。あなたも途中の村で見ているはずです。この綿菓子の樹に住む動物を」

「ああ、あいつらのことか。絶滅危惧種か何かか?」

「そんなところです。密猟者がいましてね。警戒網を敷いているんです」

「警戒網か。だが、途中の村では、あいつらは逃げていなかった」

 男は、頭を動かさずに、目で樹の上をチラッと見て、すぐに視線を戻す。

「ここのは、いないな」

「ええ。村人と一緒に逃げました。念のために」

「村人と一緒に? 追い払ったのか」

「いいえ。自主的に逃げたのです」

「それならば、密猟者からも逃げられるはずだが」

「警戒網を作る前は逃げられませんでした。警戒網は彼らにも警告を与えているのです」

「ほぉ。それを理解できると?」

「そうです。ちなみに密猟者は、ここを守っている人間によって、殺されます」

「殺す?」

「ええ。追い出してもまたやってくるのでね」

「へぇ」

 おたがいに黙った。

 なんの音もしない。

 風すら吹いていない。

 そうした沈黙に我慢できなくなったのか、男が言った。

「指揮官から聞いた、と言ったな」

「ええ」

「どこまで聞いている?」

「侵攻部隊の規模と位置、武器の種類と量、それから侵攻する理由」

 その詳細も話した。

 男の中で動揺が広がった。

(すべてじゃないか)

「あなたがたの住んでいる土地の食糧が少なく、増加する人口を支えられなくなり、飢餓が発生していますね。それにともない、事件も増加している。そこで安定した食糧を得るために〈スベルト王国〉に侵攻しようと考えた」

 男はうなずきもせず、こちらをにらんでいるだけだ。

「わざわざ危険を冒す必要はないのですよ、ウォーレン隊長」

「どういう意味だ?」

「〈スベルト王国〉に侵攻しなくても、あなたがたの問題は解決できます」

 彼の思考が止まった。

「食料が充分に得られればいいのでしょう? 安定的に」

 彼がうなずいた。

「あなたがたの土地には、充分な食料があります」

(知りもしないくせに)

「あなたがたが、毒物だと思っているものや食べ物じゃないと思っているものが、じつは食べられるものなのですよ」

「そんなことが信じられるか」

「たとえば、こんなものです」

 オレは彼にイメージを送った。

 それは、毒々しい赤銅色をしている塊だ。

 彼が大きく動揺した。

 頭を上げ、ボーガンの狙いがずれた。

「なんだ! 何をした!」

「イメージを送っただけです。危険はありません。すぐに消えますよ。それよりも見覚えがあるでしょう?」

 彼の動揺がかなり引いた。

 もとの構えに戻る。

「ああ。だが、飢えに負けて、食べたものは死んだ。何人もな」

「それは調理法がまちがっていたからでしょう。確かに毒素がありますからね。ですが、油の中に通せば、熱と油によってその毒は無毒化し、また栄養価も高められます」

「ほぉ。ほかには?」

 次のイメージを送る。

 こぶし大の石だ。

 それを見ても彼は動揺しなかった。

 順応力が高いようだ。

「これが食べれるだと? よくある石だぞ」

「いいえ、そう見えるだけです。表面が硬いので石と間違えても仕方ありませんがね。ですが、これでも生物なのですよ」

「この石が?」

「ええ。柔らかい肉質と甘みのある水分が入っています。割るにはコツがいりますが、素晴らしく美味ですよ。まるで果物のようです」

 その映像と味覚を送る。

 彼のノドがゴクリと鳴った。

 彼は次を求めてくる。

 そうしていくつものイメージと味覚を送った。

 それとともに解説をする。

 最終的に、彼はボーガンを上に向け、背筋を伸ばした。

 右手を後ろにまわす。

(散開しろ)

 どうやら、ハンドサインを部下に出したようだ。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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