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落とされ人  作者: カーブミラー


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192/243

【192.侵入者】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 どれほどの時間をそこで過ごしていただろうか。

 村人たちがそれぞれの仕事に戻っていく。

 陛下も腰を上げようとした。

 完全に立ち上がる直前、陛下の動作が止まった。

 陛下だけではない。

 村人たちもだ。

「どうされましたか?」と訊く。

「侵入者だ」

 オレは、ため息をつき、「密猟者ですか」と呟いた。

「どうやら違うようだ」

 陛下の顔を見た。

 眉間にシワを寄せている。

 しっかりと立ち上がり、マブタを閉じる陛下。

「複数が入ってきている」

「複数? どのくらいなのです?」

「わからない。次々に侵入してきているそうだ」

「誰かが対処を?」

「ようすを見ている。……武器を持っている。小さな弓矢のようだ。だが、ピストルのようでもある」

 ボーガンか。

「その弓は、いくつかつながっていますか?」

 つながっていれば、連射ができる。

「そうは見えない」

「陛下、失礼いたします」

 オレは感覚共感の術で、陛下が見ているものを見た。

 一瞬、めまいがした。

 多くの意識がそこにあるのだ。

 アーガイル・フォックスのネットワークに入ったのだから、当然といえば当然だが。

 陛下の意識に集中した。

 イメージが見えてきた。

 ようすを見ている人間の視線からだろう、樹の幹に隠れて、その侵入者を見ている。

 ボーガンを構えた男たちが、足音を忍ばせて歩いていた。

 15人ほどか。

 ボーガンを見ると、その弓はおよそ30cm。

 確かに弓はひとつだけだ。

 その弓に収まっているのは、20cmほどの矢。

 男たちの腰には、その矢を入れた矢筒がある。

 ボーガンにつがえられた矢の先端は、石や金属ではなく、細い木を削って、鋭くしてある。

 先端が変色している。

 どうやら毒が塗ってあるらしい。

 アーガイル・フォックスを射るには、充分な武器だ。

 だが、これほどの人数で密漁をするとも考えられない。

 男たちの表情は、慎重であり、決然としている。

 しかもアーガイル・フォックスがいる綿菓子の樹を素通りしている。

(密猟者ではありませんね)と陛下に向かって念を送った。

(そのようだな。動きはまるで兵士のようだ)

 男たちの動作を見た。ボーガンの構え方や足並みを揃えた統率された動きは、いかにも兵士のそれだ。

(なるほど。確かにそのようですな。だとしたらどこの軍か)

 兵士たちの服装やバックパックは、落とされたときに支給されたもののように思える。

 それなりにくたびれている気もするが、比較的新しいようだ。

(村のひとつに接近している)

(村人は?)

(となりの村へと避難した)

(その方がいいでしょうな。見つかったらどうなるか、わかりませんからね)

 男たちがその村に入った。

 視線が男たちを全方位から捉える。

 アーガイル・フォックスたちからの視線が、まとまって見えるのだ。

 どんな方位からでも見ることができる。

 男たちは周囲を警戒しながら、家々を確かめている。

(明らかに密漁が目的ではありませんね)

(何が目的なのだろうか?)

 もぬけの殻の村を、男たちは用心深くあとにした。

 進む方角は、さきほどと同じだ。

(どうやら目的地があるようですな)

(うむ。だが、どこだ?)

(誰か彼らの位置と向かっている方角がわかる人に話を――)

(私が)という知らない人からの念にさえぎられた。(モーガン卿から提供された装置のスクリーンを見ています)

 そのスクリーンのイメージが見えた。

 男たちは、右から左に、つまり東から西へと移動している。

(あの位置で)と陛下。(東は確か、〈ヘベルカ〉という国だったはずだが)

 オレの記憶の地図にも、確かにそうある。

(ですが、軍がある、という話もなかったはずですが)

(うむ。兵士を養成しているという情報もなかった)

 その男たちの中心となっている人間を探す。

 先頭に立つ男が、しゃがみこみ、手を上げて、ハンドサインを出す。

 それを見て、ほかの男たちもしゃがみこんだ。

 ハンドサインを出した男に、意識を集中した。

 その視線は……いや、肌の感覚、聴覚や臭覚にも意識を集中している。

 綿菓子の樹の方に意識が向き、そちらに視線を向けた。

 アーガイル・フォックスたちが、綿菓子の中からこちらを見ていた。

(動物か。いまいましい視線だ。あとで食ってやる。前進)とハンドサインを出した。

 姿勢を低くしたまま、立ち上がり、歩き出す。

 後ろの男たちの気配を感じたまま、前方に意識を集中する。

 男の意識の奥へと潜り込んだ。

 この移動の目的を探り出すために。

 作戦の一部が見えた。

 彼の率いている部隊は、斥候だった。

 後方に別の部隊がいる。

 かなりの人数。

 武器も大小さまざま。

 だが、銃器はない。

 ひとりの男が目の前に立つイメージが出てきた。

 その男が彼に命令を発した。

(〈スベルト王国〉境界線まで、ようすを見てくるのだ)

 どうやらこの男が、今回の作戦を指揮しているらしい。

 この男に意識を集中した。

 見えてきたのは、机の上の地図だ。

 〈スベルト〉で作成された地図ではない。

 独自に作ったものだろう。

 植物繊維の紙ではなく、獣皮紙に描かれている。

 〈アーガイル〉は、村がいくつか存在しているだけの土地として描かれている。

 〈スベルト王国〉との国境もはっきりしていない。

 それどころか、まわりの国々のことも、だ。

 その指揮官の意識に潜る。

 〈スベルト王国〉へと侵攻し、その豊かさを得る、それが彼の計画だ。

 その背景を覗く。

 彼の国は、疲弊していた。

 国民は飢えていた。

 得られる食料が少ないためだ。

 その少ない食料を、自分たちで奪い合うことも、しばしば起きている。

 国境を越えての略奪行為もしている。

 その多くは、盗賊として、捕まえられ、処刑されていた。

 オレは、自分の書庫にあるドローンから得られた〈ヘベルカ〉周辺の資源情報を確認した。

 食料資源は豊富だ。

 ただし、外見は食べられるものとはいえない。

 また、それらを得るにしても、大変な労力が必要だったりもする。

 でもそれさえわかっていれば、彼らの食糧事情は一変する。

 オレは、陛下のところに戻った。

(陛下)

(何かわかったか?)

 そこで報告する。

(つまり、足元が見えていないのだな)

(そういうことになります)

(それを知らせればいいだけだろう)

(彼らがそれを信じてくれるかどうか、ですね)

(ふむ)

 斥候の姿がこの村に迫っていた。

「陛下、逃げませんと」

「だが、村人はどうする?」

「となりの村へ逃げてもらえばいいでしょう」

「なら私も同行する」

 陛下の意志は、頑強だ。

 ため息をついたオレは「すぐ戻ります」と言うと、跳んだ。

 言ったとおり、すぐに戻り、陛下の腰に5cm四方の角が丸い箱を固定した。

「なんだ?」

「個人用バリアです。危険物を感知して、守ってくれます。つかみかかられたら意味がありませんが。少なくても彼らのボーガンからは守ってくれます」

「どうするつもりなのだ?」

「まずは、逃げましょう」

 村人たちが、となり村へと走り出した。

 何も持たずに、身ひとつで。

 陛下のもとに、サリーが戻ってきた。

 ほかのアーガイル・フォックスたちも、村人たちと逃げることにしたようだ。

 陛下は、サリーをともなって、村人たちを追いかけていく。

 オレはひとり、その場に残った。

 そのことに、陛下は気付いていない。

 オレは待った。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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