【191.陛下の安らぎ】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
城の通廊で、評議会議長とすれ違った。
お疲れのようで、いつもの覇気が感じられず、こちらにも気付かない。
「議長?」
「ん?」とこちらを見る。「ああ、モーガン卿」
「お疲れのようですね」
「ええ、まぁ。私だけでなく、ほかのみんなも、ですよ」
ため息を小さく吐くと、柱に寄りかかった。
「何かあったので?」
「いや……あちこちからの要請を審議してはいるんですが、ご存知のとおり、財政が逼迫していましてね。そのせいで必要な予算を捻出できなくて」
「ああ、なるほど」
「国が大きくなったのは、喜ばしいことなんですがね。だが、新規に併合された地区は貧しいところが多い。必要な支援を必要なだけしてやりたいが、それができておらんのです」
彼はまたため息を漏らす。
まるで急に老け込んでしまったかのようなようすだ。
「御可哀想なのは、陛下です。支援を約束したのに、それがうまくいっていない」
「それは……なんとかして差し上げたいが」
「ええ。本来は、あの御歳で背負うものではないのに、陛下は気丈にもがんばっておられる」
「確かに」
「せめて、いっときでも仕事を忘れさせてあげたいのだが」彼はため息しか出せないようだ。それからオレを見た。「モーガン卿、いいアイディアはありませんか?」
期待はしていないが、出てきてくれればありがたい、というような感じだ。
「まずは、陛下と話してみましょう」
陛下と夕食を一緒にいただくことにした。
やはり、御疲れのごようすだ。
食欲もなさそうである。
サリーもだ。
陛下の御気持ちが伝播しているのだろう。
ふたりして、ため息をつく。
「陛下、御気持ちはわかりますが」
「どうにもできんのが、腹立たしい」
「どうにもできないのであれば、気にしてもはじまりますまい」
「それはそうだが」
わかっている、というように陛下は首を振った。
やはり、気分転換していただくべきだろう。
「陛下、これから御出掛けしませんか?」
「出掛ける? もう夜だぞ?」
「向こうはまだ明るい」
「向こう? どこのことだ?」
アーガイル・フォックスに目を向ける。
「サリー、里帰りしたくないかな?」
「里帰り?」と陛下。
陛下は、自分とつながっているアーガイル・フォックスと、視線を合わす。
サリーがうれしそうな表情をした。
陛下からオレの言葉が伝わったのだ。
一瞬遅れて、陛下も反応して、オレを見た。
「〈アーガイル〉か」
「はい」
「だが……ああ、送ってもらうのだな」
物送りの術のことを言っているのだ。
「そうです。どうです?」
サリーが後ろ足で立ち上がり、中足でテーブルを支えにして、尻尾を大きく振っている。
期待の現われだ。
サリーは城に来てから、一度も〈アーガイル〉に戻っていなかった。
陛下がサリーの頭をなでてやる。
サリーはうれしげに、目を細める。
「おまえがそんなに喜ぶのなら、行くとするか」それからオレを見た、笑みを浮かべて。「すぐに行けるか?」
「陛下の御準備がよろしければ」
「では行こう」
サリーが生まれた村は、村人たちがまだ自分たちの仕事をしていた。
誰も我々の到着に驚かない。
それどころか、笑顔だ。
直前にヨーコには連絡しておいたのだが、それにしても。
そこで気付いた。
アーガイル・フォックスを通じて、村人たちに伝わっていたのだ、と。
ヨーコが出迎えに出てきた。
樹木の中にいたアーガイル・フォックスたちも、うれしそうに顔を突き出している。
陛下は、サリーをその胸に抱いていた。
それなりの体重があるはずなのだが。
サリーが、陛下の胸から首を伸ばして、陛下を見上げる。
陛下は、サリーを地面に下ろした。
サリーは駆け出して、一本の樹に登っていくと、綿菓子の中へと潜っていく。
陛下の顔には、笑みが浮かぶ。
「家族とうれしそうに話している」
「そうですか。連れてきて、よかったですね」
「うむ」
「仲間たちも喜んでますね」とヨーコ。
彼女のとなりには、彼女のアーガイル・フォックスが付き添っている。
彼も喜んでいるのがわかる。
村人たちも、だ。
彼らは仕事の手を休め、陛下を誘って、休憩時間を楽しむ。
軽食と飲み物が、手渡され、それをいただく。
軽食は、穀物を煮て丸めたもの。
ひと口かむと、中からは味付けの濃い肉の塊が出てきた。
穀物には味がついていないので、ちょうどいい味加減になる。
飲み物は、紅茶のようにも見えるが、香ばしいものだ。
渋みが感じられるが、清涼感もある。
訊くと、特定の草を手もみして乾燥させたものに、お湯を入れただけのものだ、と言う。
息を吹きかけて、冷まして飲むと、ホッと息が漏れる。
それでリラックスするようだ。
陛下も同じように、息を漏らしている。
そこには、国家の象徴である女王の顔はなく、ふつうの少女の顔があった。
まだ15歳にもなっていない。
いや、もうすぐ誕生日か。
それでも大人の女性ではない。
だが、彼女は、女王としての立場を忘れたことはなかった。
それが今は柔和な顔で、ホッとひと息をついている。
さきほどまでの夕食時の女王の顔はない。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




