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落とされ人  作者: カーブミラー


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191/247

【191.陛下の安らぎ】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 城の通廊で、評議会議長とすれ違った。

 お疲れのようで、いつもの覇気が感じられず、こちらにも気付かない。

「議長?」

「ん?」とこちらを見る。「ああ、モーガン卿」

「お疲れのようですね」

「ええ、まぁ。私だけでなく、ほかのみんなも、ですよ」

 ため息を小さく吐くと、柱に寄りかかった。

「何かあったので?」

「いや……あちこちからの要請を審議してはいるんですが、ご存知のとおり、財政が逼迫していましてね。そのせいで必要な予算を捻出できなくて」

「ああ、なるほど」

「国が大きくなったのは、喜ばしいことなんですがね。だが、新規に併合された地区は貧しいところが多い。必要な支援を必要なだけしてやりたいが、それができておらんのです」

 彼はまたため息を漏らす。

 まるで急に老け込んでしまったかのようなようすだ。

「御可哀想なのは、陛下です。支援を約束したのに、それがうまくいっていない」

「それは……なんとかして差し上げたいが」

「ええ。本来は、あの御歳で背負うものではないのに、陛下は気丈にもがんばっておられる」

「確かに」

「せめて、いっときでも仕事を忘れさせてあげたいのだが」彼はため息しか出せないようだ。それからオレを見た。「モーガン卿、いいアイディアはありませんか?」

 期待はしていないが、出てきてくれればありがたい、というような感じだ。

「まずは、陛下と話してみましょう」


 陛下と夕食を一緒にいただくことにした。

 やはり、御疲れのごようすだ。

 食欲もなさそうである。

 サリーもだ。

 陛下の御気持ちが伝播しているのだろう。

 ふたりして、ため息をつく。

「陛下、御気持ちはわかりますが」

「どうにもできんのが、腹立たしい」

「どうにもできないのであれば、気にしてもはじまりますまい」

「それはそうだが」

 わかっている、というように陛下は首を振った。

 やはり、気分転換していただくべきだろう。

「陛下、これから御出掛けしませんか?」

「出掛ける? もう夜だぞ?」

「向こうはまだ明るい」

「向こう? どこのことだ?」

 アーガイル・フォックスに目を向ける。

「サリー、里帰りしたくないかな?」

「里帰り?」と陛下。

 陛下は、自分とつながっているアーガイル・フォックスと、視線を合わす。

 サリーがうれしそうな表情をした。

 陛下からオレの言葉が伝わったのだ。

 一瞬遅れて、陛下も反応して、オレを見た。

「〈アーガイル〉か」

「はい」

「だが……ああ、送ってもらうのだな」

 物送りの術のことを言っているのだ。

「そうです。どうです?」

 サリーが後ろ足で立ち上がり、中足でテーブルを支えにして、尻尾を大きく振っている。

 期待の現われだ。

 サリーは城に来てから、一度も〈アーガイル〉に戻っていなかった。

 陛下がサリーの頭をなでてやる。

 サリーはうれしげに、目を細める。

「おまえがそんなに喜ぶのなら、行くとするか」それからオレを見た、笑みを浮かべて。「すぐに行けるか?」

「陛下の御準備がよろしければ」

「では行こう」


 サリーが生まれた村は、村人たちがまだ自分たちの仕事をしていた。

 誰も我々の到着に驚かない。

 それどころか、笑顔だ。

 直前にヨーコには連絡しておいたのだが、それにしても。

 そこで気付いた。

 アーガイル・フォックスを通じて、村人たちに伝わっていたのだ、と。

 ヨーコが出迎えに出てきた。

 樹木の中にいたアーガイル・フォックスたちも、うれしそうに顔を突き出している。

 陛下は、サリーをその胸に抱いていた。

 それなりの体重があるはずなのだが。

 サリーが、陛下の胸から首を伸ばして、陛下を見上げる。

 陛下は、サリーを地面に下ろした。

 サリーは駆け出して、一本の樹に登っていくと、綿菓子の中へと潜っていく。

 陛下の顔には、笑みが浮かぶ。

「家族とうれしそうに話している」

「そうですか。連れてきて、よかったですね」

「うむ」

「仲間たちも喜んでますね」とヨーコ。

 彼女のとなりには、彼女のアーガイル・フォックスが付き添っている。

 彼も喜んでいるのがわかる。

 村人たちも、だ。

 彼らは仕事の手を休め、陛下を誘って、休憩時間を楽しむ。

 軽食と飲み物が、手渡され、それをいただく。

 軽食は、穀物を煮て丸めたもの。

 ひと口かむと、中からは味付けの濃い肉の塊が出てきた。

 穀物には味がついていないので、ちょうどいい味加減になる。

 飲み物は、紅茶のようにも見えるが、香ばしいものだ。

 渋みが感じられるが、清涼感もある。

 訊くと、特定の草を手もみして乾燥させたものに、お湯を入れただけのものだ、と言う。

 息を吹きかけて、冷まして飲むと、ホッと息が漏れる。

 それでリラックスするようだ。

 陛下も同じように、息を漏らしている。

 そこには、国家の象徴である女王の顔はなく、ふつうの少女の顔があった。

 まだ15歳にもなっていない。

 いや、もうすぐ誕生日か。

 それでも大人の女性ではない。

 だが、彼女は、女王としての立場を忘れたことはなかった。

 それが今は柔和な顔で、ホッとひと息をついている。

 さきほどまでの夕食時の女王の顔はない。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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