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落とされ人  作者: カーブミラー


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189/248

【189.スピードウェイ・1】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 人々の、声にならない唸りのような声が、その場を埋め尽くした。

 城の子どもたちも「うわぁ」と声を漏らしたり、指差して喜んでいる。

 その先には、湾があり、多くの船舶が停泊していた。

 オレたちがいるのは、その湾にある港の展望室。

 みなの視線を集めているのは、白く細い船体を持つ船だ。

 すでに白い帆を下ろし、タグボートに曳航されている。

 その船は、アルシンド・ツグリ船長こと、アルの乗る快速帆船レディー・ホワイト。

 造船所のある港町〈パディントン〉から戻ってきたのだ。


「ただいま、戻りました、陛下」

「御無事で何よりです、ツグリ船長」

 謁見室でアルを迎えた陛下。

 そして、アルは、〈パディントン〉からの報告を済ませる。

「後日、〈パディントン〉から、もう1隻がまいります」

「そなたたちの帰りの船か」

「はい。外洋漁船ですので、レディー・ホワイトほどの速力はありません。ですが、そのあいだに、レディー・ホワイトの操船訓練を実施できるのではないかと」

「なるほど。こちらとしてもありがたい。さっそく海軍に知らせるとしよう」


 数日ののちに、訓練が開始された。

 レディー・ホワイトは海軍所属になる、と言うことで、名前が変更された。

 軍艦“スピードウェイ”と名付けられた。

 乗り組んだのは、比較的若い水兵たちだ。

 通常、軍艦はエンジン走行だから、帆船の扱いには戸惑うことだろう。

 アルは、彼ら水兵の指導を行なうことを楽しんでいる。


 ひと月遅れで、〈パディントン〉の外洋漁船が港に到着した。

 この外洋漁船の名前は、“エレファント”。

 その名のように大きい。

 船員もかなりの人数が乗り込んでいる。

 船体は、以前とは違って、明るい赤だ。

 レディー・ホワイトに用いられた塗料の色違いらしい。


「〈パディントン〉からまいりました、エレファント号船長のファーシィ・パディントンと申します」

 謁見室の陛下の玉座前で、彼は片ヒザをつき、胸に右手を置いて、頭を垂れた。

「頭を上げられよ、パディントン船長。御話を伺いたい。イスに腰掛けられよ」

 はい、と返事をした船長は、玉座に対面する位置に用意されたイスに腰を下ろした。

「そちらの町の名前と同じ御名前というと」

「はい。私の父が造船所の棟梁をしておりましたので、その名がつけられました」

「父上様でありましたか。今は、あなたの息子が棟梁とか」

「はい。まだまだ若造ですが、まわりに支えられております」

「あなたは、なぜ継がなかったのですか?」

 船長は笑った。

「失礼。私には船を造る才能がなかったのです。どちらかというと船を操る方が得意でした。海に出るのも好きでしたし」

「なるほど。今回、そちらの船を買い取ることになったわけですが、それについては?」

「あの船ですか。美しい船です。ですが、〈パディントン〉では海図を作る以外にあの船の出番はありません。その海図も〈スベルト〉から提供されました。あの船の役目は終わり、次の役目があるのならば、そちらに振り向けるべきだ、とみなも言っております」

「あなたご自身も?」

「ええ。私は、漁師です。確かにあの船を駆って、世界中を旅したい気はしますが、妻子を置いて旅などを考えるのは」と首を振る船長。

 前妻は病気で他界していたが、新しい妻を迎えたらしい。

 その妻には、すでに子どもがいた。

 船長は、その子どもも妻とともに迎えたのだ。

「そうですか」

 陛下は船長から、漁や町についての話に耳を傾けた。

 その夜は、船長を迎えての晩餐会。

 船員たちは、交代で、街へと繰り出していた。

 きっと、さまざまなものに目を奪われることだろう。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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