【189.スピードウェイ・1】
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人々の、声にならない唸りのような声が、その場を埋め尽くした。
城の子どもたちも「うわぁ」と声を漏らしたり、指差して喜んでいる。
その先には、湾があり、多くの船舶が停泊していた。
オレたちがいるのは、その湾にある港の展望室。
みなの視線を集めているのは、白く細い船体を持つ船だ。
すでに白い帆を下ろし、タグボートに曳航されている。
その船は、アルシンド・ツグリ船長こと、アルの乗る快速帆船レディー・ホワイト。
造船所のある港町〈パディントン〉から戻ってきたのだ。
「ただいま、戻りました、陛下」
「御無事で何よりです、ツグリ船長」
謁見室でアルを迎えた陛下。
そして、アルは、〈パディントン〉からの報告を済ませる。
「後日、〈パディントン〉から、もう1隻がまいります」
「そなたたちの帰りの船か」
「はい。外洋漁船ですので、レディー・ホワイトほどの速力はありません。ですが、そのあいだに、レディー・ホワイトの操船訓練を実施できるのではないかと」
「なるほど。こちらとしてもありがたい。さっそく海軍に知らせるとしよう」
数日ののちに、訓練が開始された。
レディー・ホワイトは海軍所属になる、と言うことで、名前が変更された。
軍艦“スピードウェイ”と名付けられた。
乗り組んだのは、比較的若い水兵たちだ。
通常、軍艦はエンジン走行だから、帆船の扱いには戸惑うことだろう。
アルは、彼ら水兵の指導を行なうことを楽しんでいる。
ひと月遅れで、〈パディントン〉の外洋漁船が港に到着した。
この外洋漁船の名前は、“エレファント”。
その名のように大きい。
船員もかなりの人数が乗り込んでいる。
船体は、以前とは違って、明るい赤だ。
レディー・ホワイトに用いられた塗料の色違いらしい。
「〈パディントン〉からまいりました、エレファント号船長のファーシィ・パディントンと申します」
謁見室の陛下の玉座前で、彼は片ヒザをつき、胸に右手を置いて、頭を垂れた。
「頭を上げられよ、パディントン船長。御話を伺いたい。イスに腰掛けられよ」
はい、と返事をした船長は、玉座に対面する位置に用意されたイスに腰を下ろした。
「そちらの町の名前と同じ御名前というと」
「はい。私の父が造船所の棟梁をしておりましたので、その名がつけられました」
「父上様でありましたか。今は、あなたの息子が棟梁とか」
「はい。まだまだ若造ですが、まわりに支えられております」
「あなたは、なぜ継がなかったのですか?」
船長は笑った。
「失礼。私には船を造る才能がなかったのです。どちらかというと船を操る方が得意でした。海に出るのも好きでしたし」
「なるほど。今回、そちらの船を買い取ることになったわけですが、それについては?」
「あの船ですか。美しい船です。ですが、〈パディントン〉では海図を作る以外にあの船の出番はありません。その海図も〈スベルト〉から提供されました。あの船の役目は終わり、次の役目があるのならば、そちらに振り向けるべきだ、とみなも言っております」
「あなたご自身も?」
「ええ。私は、漁師です。確かにあの船を駆って、世界中を旅したい気はしますが、妻子を置いて旅などを考えるのは」と首を振る船長。
前妻は病気で他界していたが、新しい妻を迎えたらしい。
その妻には、すでに子どもがいた。
船長は、その子どもも妻とともに迎えたのだ。
「そうですか」
陛下は船長から、漁や町についての話に耳を傾けた。
その夜は、船長を迎えての晩餐会。
船員たちは、交代で、街へと繰り出していた。
きっと、さまざまなものに目を奪われることだろう。
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