【187.おばあちゃん】
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「今、どのあたりでしょうかね?」
朝食の時間に、テオが訊いてきた。
「ん? ああ、レフティーたちか」
「ええ」
「どうかな」
「なんとかの術はないんですか?」と笑うテオ。
「以心伝心の術の延長で、感覚共感の術がある。場所は特定できないが、試してみよう」
精神を集中させ、レフティーの視界を見る。
「ん?」
「どうしました?」
「地上にいる。まわりに仲間がいない。彼女だけだ。ふぅむ、疲れが酷いな。休んでいるのかな?」
「群れは? 上空にいるんですか?」
「視界にはいないな。彼女自身は孤独を感じている。おそらく群れから離れたんだろう」
「彼女に訊いてみたら?」
「ふむ。そうだな、行ってくる」
立ち上がったオレを見て、首を傾げるテオ。「行ってくる? どういう意味ですか?」
「こういう意味だよ」
オレは、物送りの術を使って、彼女のところへとジャンプした。
(先生?)と驚いているテオの念。
(物送りの術だ。最近、能力があることを知って、練習しているところでね。じゃぁ、またあとで)
(は、はい)
目の前にレフティーがいた。
こちらを見て、目をパチクリとしている。
(レフティー)
(パオロ、どうやってここに?)
(飛んできたのさ)と両腕を広げて、パタパタとさせて見せた。
彼女は疑わなかった。
まわりを見渡した。
やはり、どこにも群れの姿はない。
(どうしたんだね? 群れはどこに?)
(ついていけなくて、別れたの。みんなは、そのまま進んでるわ)
(どうして? どうやら疲れているようだが)
彼女は(そうよ)とさびしげな念を送ってきた。それから(私ももうおばあちゃんだから。あの子たちのようには飛べなくなったのよ)と続けた。
(おばあちゃん? 君が?)
(そうよ。もう卵も産めないでしょうね。帰るくらいの力は残ってると思ってたんだけど)
そうだったのか。
渡り竜の寿命はわかっていない。
初めて会ったときは、若々しく見えたのだが。
(それでどうするんだね?)
(ここで過ごそうかと思っていたところ)
(こんな場所で?)
あたりには、水溜りさえない。
草木はあるが、エサがあるようには見えない。
それどころか、捕食獣がいてもおかしくない。
オレは首を振った。
(戻ろう)
(戻る?)
(城へ。群れが向こうに到着したら、君を送っていくから)
(できるの?)
(ああ。おいで)
彼女はこちらへ歩いてきた。
そっと抱き上げる。
(目をつぶっていた方がいいな。一瞬だから驚くだろう)
(わかった)
マブタを閉じたレフティーに、何も言わずに跳んだ。
部屋に着くと、テオがビックリしている。
「ただいま」(目を開けていいよ)
彼女が目を開けると、頭をクルクルまわして、室内を見回した。
驚きが伝わってくる。
「先生、どういうことです?」
「彼女、おばあちゃんなんだそうだ。途中で力が出なくなって、群れと別れたんだよ」
「ああ、そういうことだったんですか」
レフティーは、まだあちこちを見ている。
オレは、レフティーを床へと下ろした。
彼女は部屋の中を駆けまわった。
(本当にパオロの部屋だわ。すごい)と言いながらも困惑している。
「困惑しているよ、彼女」
「そりゃ、そうでしょう。一瞬のうちに戻ってきちゃったんだから」
「そうだね。本当は、上空を飛べたらよかったんだが」
「できないんですか?」
そうした術はある。
浮遊の術だ。
テレキネシスとも念力とも呼ばれている。
「おそらくできるんだろう。だが、練習もしてないし、必要だとも思ってなかったから」
「できたら楽しいでしょうね。スカイダイビングみたいなものなんでしょうか?」
「スカイダイビングか。やったことがあるよ。正直、怖かった」
「その一度だけですか?」
「うん。誘いを断ってね」
「高所恐怖症?」
「いいや。落下していく感覚が、ね。このまま地上に叩きつけられるんじゃないか、と」
「へぇ。それでレフティーを連れてきて、どうするんです?」
「群れが向こうに着くまで、ここにいさせる。群れが到着したら送っていくつもりだ」
「なるほど」
彼女を見ると、レフティーは、もう落ち着いていた。
(外に出ていい?)
(ああ)
オレは玄関ドアを開けてやった。
彼女は、池に歩いていき、そこで水を飲んだ。
それでひと心地ついたようだ。
「テオ、私の能力を誰にも――」
「言いません。というか、話しても誰も信じてくれませんよ」
「そうだな。だが、ウワサはあった。手品を見せて、それに尾ひれがついたのだ、とは説明した。だが、私の助手である君が言ったら」オレは肩をすくめた。「誰かが真相を突き止めようとするだろう」
「なるほど、わかりました。誰にも言いません」
「頼むよ」
1週間ほどしてから、オレは彼女を抱いて、群れのいる湖へと跳んだ。
湖には、多くの渡り竜たちがいた。
上空からも、群れが飛来して、着水してきている。
レフティーを地面の上に下ろした。
(ありがとう、パオロ)
(どういたしまして。また来年、とはいかないのかな)
(たぶんね。でもここで……みんなのそばで……うれしいわ)
彼女からの念は、静かな喜びで満ちていた。
(じゃぁね。群れに戻るわ)
(ああ)
彼女は、湖面の仲間の方を見ると、振り返らずにそちらへと向かった。
これで彼女とはもう会うこともないだろう。
その背中が、仲間のもとへ帰るのを見届けて、オレは部屋に戻った。
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