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落とされ人  作者: カーブミラー


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187/249

【187.おばあちゃん】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

「今、どのあたりでしょうかね?」

 朝食の時間に、テオが訊いてきた。

「ん? ああ、レフティーたちか」

「ええ」

「どうかな」

「なんとかの術はないんですか?」と笑うテオ。

「以心伝心の術の延長で、感覚共感の術がある。場所は特定できないが、試してみよう」

 精神を集中させ、レフティーの視界を見る。

「ん?」

「どうしました?」

「地上にいる。まわりに仲間がいない。彼女だけだ。ふぅむ、疲れが酷いな。休んでいるのかな?」

「群れは? 上空にいるんですか?」

「視界にはいないな。彼女自身は孤独を感じている。おそらく群れから離れたんだろう」

「彼女に訊いてみたら?」

「ふむ。そうだな、行ってくる」

 立ち上がったオレを見て、首を傾げるテオ。「行ってくる? どういう意味ですか?」

「こういう意味だよ」

 オレは、物送りの術を使って、彼女のところへとジャンプした。

(先生?)と驚いているテオの念。

(物送りの術だ。最近、能力があることを知って、練習しているところでね。じゃぁ、またあとで)

(は、はい)

 目の前にレフティーがいた。

 こちらを見て、目をパチクリとしている。

(レフティー)

(パオロ、どうやってここに?)

(飛んできたのさ)と両腕を広げて、パタパタとさせて見せた。

 彼女は疑わなかった。

 まわりを見渡した。

 やはり、どこにも群れの姿はない。

(どうしたんだね? 群れはどこに?)

(ついていけなくて、別れたの。みんなは、そのまま進んでるわ)

(どうして? どうやら疲れているようだが)

 彼女は(そうよ)とさびしげな念を送ってきた。それから(私ももうおばあちゃんだから。あの子たちのようには飛べなくなったのよ)と続けた。

(おばあちゃん? 君が?)

(そうよ。もう卵も産めないでしょうね。帰るくらいの力は残ってると思ってたんだけど)

 そうだったのか。

 渡り竜の寿命はわかっていない。

 初めて会ったときは、若々しく見えたのだが。

(それでどうするんだね?)

(ここで過ごそうかと思っていたところ)

(こんな場所で?)

 あたりには、水溜りさえない。

 草木はあるが、エサがあるようには見えない。

 それどころか、捕食獣がいてもおかしくない。

 オレは首を振った。

(戻ろう)

(戻る?)

(城へ。群れが向こうに到着したら、君を送っていくから)

(できるの?)

(ああ。おいで)

 彼女はこちらへ歩いてきた。

 そっと抱き上げる。

(目をつぶっていた方がいいな。一瞬だから驚くだろう)

(わかった)

 マブタを閉じたレフティーに、何も言わずに跳んだ。

 部屋に着くと、テオがビックリしている。

「ただいま」(目を開けていいよ)

 彼女が目を開けると、頭をクルクルまわして、室内を見回した。

 驚きが伝わってくる。

「先生、どういうことです?」

「彼女、おばあちゃんなんだそうだ。途中で力が出なくなって、群れと別れたんだよ」

「ああ、そういうことだったんですか」

 レフティーは、まだあちこちを見ている。

 オレは、レフティーを床へと下ろした。

 彼女は部屋の中を駆けまわった。

(本当にパオロの部屋だわ。すごい)と言いながらも困惑している。

「困惑しているよ、彼女」

「そりゃ、そうでしょう。一瞬のうちに戻ってきちゃったんだから」

「そうだね。本当は、上空を飛べたらよかったんだが」

「できないんですか?」

 そうした術はある。

 浮遊の術だ。

 テレキネシスとも念力とも呼ばれている。

「おそらくできるんだろう。だが、練習もしてないし、必要だとも思ってなかったから」

「できたら楽しいでしょうね。スカイダイビングみたいなものなんでしょうか?」

「スカイダイビングか。やったことがあるよ。正直、怖かった」

「その一度だけですか?」

「うん。誘いを断ってね」

「高所恐怖症?」

「いいや。落下していく感覚が、ね。このまま地上に叩きつけられるんじゃないか、と」

「へぇ。それでレフティーを連れてきて、どうするんです?」

「群れが向こうに着くまで、ここにいさせる。群れが到着したら送っていくつもりだ」

「なるほど」

 彼女を見ると、レフティーは、もう落ち着いていた。

(外に出ていい?)

(ああ)

 オレは玄関ドアを開けてやった。

 彼女は、池に歩いていき、そこで水を飲んだ。

 それでひと心地ついたようだ。

「テオ、私の能力を誰にも――」

「言いません。というか、話しても誰も信じてくれませんよ」

「そうだな。だが、ウワサはあった。手品を見せて、それに尾ひれがついたのだ、とは説明した。だが、私の助手である君が言ったら」オレは肩をすくめた。「誰かが真相を突き止めようとするだろう」

「なるほど、わかりました。誰にも言いません」

「頼むよ」


 1週間ほどしてから、オレは彼女を抱いて、群れのいる湖へと跳んだ。

 湖には、多くの渡り竜たちがいた。

 上空からも、群れが飛来して、着水してきている。

 レフティーを地面の上に下ろした。

(ありがとう、パオロ)

(どういたしまして。また来年、とはいかないのかな)

(たぶんね。でもここで……みんなのそばで……うれしいわ)

 彼女からの念は、静かな喜びで満ちていた。

(じゃぁね。群れに戻るわ)

(ああ)

 彼女は、湖面の仲間の方を見ると、振り返らずにそちらへと向かった。

 これで彼女とはもう会うこともないだろう。

 その背中が、仲間のもとへ帰るのを見届けて、オレは部屋に戻った。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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