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落とされ人  作者: カーブミラー


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186/249

【186.旅立ち】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 翌朝、少し早めに起きた。

 まだ日が昇っていない。

 玄関ドアを開き、表に出る。

 東の空は、すでに白々としてきていた。

 もうすぐ夜明けだ。

 空気が冷たい。

 渡り竜たちは、羽をはばたかせて、準備運動をしていた。

(おはよう、パオロ)

(おはよう、レフティー。みんなの調子はどうかね?)

(元気よ。子どもたちはワクワクしてるわ)

(そうだろうね。君も帰れるのがうれしいんじゃないかね?)

(もちろん)

 彼女から伝わってくる感情は、それを示していた。

 一羽が飛び立った。

 そのあとを次々に続いていく。

 レフティーも飛び上がった。

 力強い。

(じゃぁね)

(ああ、また来年)

 彼女は(ええ)と念を返してきたが、どこかさびしげに感じた。

 それでも群れの中へと入っていく。

 上空で全員が編隊を組むと、北の方角を目指して、移動をはじめた。

 オレはそれを見送った、見えなくなるまで。

 部屋に入ると、コーヒーの香ばしい香り。

「無事に行きましたか?」とテオ。

「ああ」

「飲みますか?」

「いただくよ」

 熱いコーヒーがマグカップに注がれ、手渡された。

 テーブル席に座って、カップを両手で覆い、息を吹きかけ、冷ます。

 ズズッとすすって「あちち」と小声で言って、息を吐き出す。

「ふうぅ」と声が漏れる。

「来年も来るといいですね、みんな」

「来るさ……」

 オレはコーヒーをすする手を止めた。

「どうしたんです?」

「ん? ああ、いや……ちょっとレフティーのようすが変だった気がして」

「レフティーの? どこが?」

「また来年、と言ったんだが、彼女、どこかさびしげだった。気のせいかもしれんが」

「気のせいですよ。あるいは、先生と離れたくなかったんですって」

「そうだといいが」

「気になるなら訊いてみたらどうですか?」

「彼女に? いや、そこまでするほどではないだろう」

 あとは、そのことをほとんど忘れていた。


 渡り竜たちが飛び立ってから、3日が経った。

 そのあいだもオレは物送りの術の練習をしていた。

 自分自身を送ることもできるようになっていた。

 最初は、自分の能力を信じきることができないせいで、跳ぶこともできなかった。

 それでも“できるのだ”と自己暗示をかけながら、精神を集中させる。

 跳びたい先のイメージを明確にして。

 最初に跳べたときは、喜ぶよりも呆然としていた。

 あたりを見回し、壁や物に触って、実物だと実感するまで。

 その感覚が過ぎると、ようやく喜びが湧き上がってきた。

(跳べましたね)とステラテス師父の念。

 どうやら、こちらをチェックしていたらしい。

(ああ。うれしいよ。自分の力で跳べて)

(そうでしょう。しかし、言葉だけで跳べるようになるとは素晴らしい)と笑みの念。

(“言葉だけで”とは、どういう意味かね?)

(私の能力は、その人間にどんな能力があるのかを見ることだけなのですよ、モーガンさん)

 疑問符が頭の中を駆けめぐる。

 それが伝わったのだろう、彼が続けた。

(“その人の能力を刺激して、発揮できるようにする”と言いましたが、あれはウソです)

(だが、現に私は――)

(能動の術などというものはありません。でもあなたに物送りの能力はありました。ご自分で信じきれていなかっただけです。あなたが信じられるように、私はそうウソをついたのです。最初に修行丸(しゅぎょうがん)を移動させたのも私です。あなたは私の言葉を信じて、能力を信じた。練習も重ねた。すでに経験していたのですから、跳ぶ感覚を身体は覚えていたはずです。あとは自分の力で跳ぶだけ)

 うわっ、騙されていたのか。

 だが、そのおかげで、跳べるようになった。

 つまり、能力は本当にあったのだ。

(初めて会った人間を信じてしまった。詐欺師失格だな)

(ですが、“ウソも方便”といいますから)彼の含み笑いが伝わってくる。

(確かに。もう少し練習するべきかね?)

(ええ。跳んだときの感覚を身体に覚えこませてください。そうすれば、苦労なく跳べるようになります)

(わかった。ありがとう)

(いいえ。それから練習のしすぎは――)

 その言葉をさえぎって、続けた。(もう経験したよ。頭痛が酷かった)

 彼の若い大笑いが伝わってくる。

(でしょうね。注意点はそれだけです。あとはあなた次第だ)

(ほどほどに練習を続けるよ)

(そうしてください。では、また)

 念が切れた。

 オレはそこから部屋に戻り、もうひと往復して、その日のジャンプをやめた。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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