↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落とされ人  作者: カーブミラー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/254

【184.突然の訪問】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 オレは立ち止まった。

 ちょうど寝室に入り、ドアを閉じたところだ。

 ベッド横には、それまで誰もいなかったのに、ひとりの青年が立っていた。

 それを見て、オレは動けなくなったのだ。

 青年が頭を下げる。

 オレはまばたきを何度かして、ようやく停止した思考が動きはじめた。

 青年の頭は、剃髪されている。

 剃髪したのは少し前なのだろう、青くなっている。

 黄色い布を前で合わせ、くすんだ赤い帯で留めた服装。

 〈マニ教〉教徒の師父の服装だ。

 まだ新しい。

 青年が顔を上げる。

 ライトブラウンの肌と瞳。

 少しやせているが、不健康そうには見えない。

 青年が口を開いた。

「突然にお邪魔して申し訳ございません、モーガンさん」

「そうだね。先に連絡をくれれば、驚かずに済んだのだが?」

「はい。失念しておりました。お許しください」

「それで君は? 初めて会うと思うのだが?」

「アリステア・ステラテスと申します。先日、師父になったばかりです」

「師父にしては、ずいぶんと若いが?」

「はい。成人に達して、そのまま師父になるのは初めてだとか」

「ほぉ。それで私になんの用かね? 挨拶をしに来たわけではあるまい?」

「もちろんです。直接でなければ、私の能力を発揮できませんので」

「君の能力?」

「はい。この能力は、〈マニ教〉での教えではなく、私が生まれたときから持っている能力です。つけられた名は、“能動の術”」

「“ノウドウの術”? どういう術だね?」

「ほかの人間の能力を見極めて、発揮できるようにする力です」

「見極めて、発揮? そんなことが可能なのかね?」

「はい。もちろん、その人間の持っている能力の可能性次第ですが」

「それはわかる。能力を持っていない者が、突然、能力を持つことはありえないからね」

「しかし、潜在的に持っている可能性はあります」

「それを見極めることができる、と?」

「はい。そして、脳に働きかけて、顕在化するのです」

「私に対して、君の能力を使う、というのかね?」

「はい」

 オレはしばらく考え込んだ。

 オレに能力があるとして、それを必要とするだろうか?

 必要な能力はあるし、物送りの術も依頼すれば済む。

 まぁ、その物送りを依頼するのに、躊躇(ちゅうちょ)する場面もあるが。

「私にどんな能力が秘められている、と考えているのかね?」

 彼は微動だにしない。

「秘められていたらありがたい、と思っています」

「ん?」

「キム師父が、あなたに対応するのは疲れる、と」

 キム師父とは、物送りを担当している師父だ。

「ああ、やはり」

 彼が笑みを浮かべる。

「定期的な物送りならば、キム師父も何も言わなかったと思います。ですが、モーガンさんの場合、突然の物送りも多く、キム師父は気が休まらない、と」

「その点は申し訳ないと思っていたんだが、躊躇(ちゅうちょ)している暇もなかったりするものだから」

「キム師父もわかっております。ですが、あなたに物送りの能力が秘められているのであれば――」

 そういうことか!

「キム師父の手を煩わせることもなくなる」

 うなずく彼。

「もちろん、定期的な物送りは、キム師父にお任せくださればいいかと。急ぎの場合にはモーガンさん自身で物送りをしていただければ、そう考えました」

「なるほど。わかった。物送りの能力があれば、うれしい。だが、物送りの術を教本どおりにやってみたが、できずに終わったんだ」

 彼がクスクスと笑った。

「何がおかしいのかね?」

 彼は笑いをかみ殺した。

「いや、失礼しました。物送りの能力は、たいていの場合、誰でも持っているものなのです」

「本当に?」

「はい。ただ、ほとんどの人間が信じきれないのです」

「信じきれない?」

「ええ。人間の脳には、それこそ無限の能力が備わっています。それを活用できるかどうかは、信じられるかどうか、が問題になります」

「以心伝心の術ならわかる。人間の脳に限りない力があるのも。だが、物送りは――」

「ほら、信じようとしていませんね」

 彼が近づいてきた。

 両腕を持ち上げ、投げられたボールを受け取ろうとするように、両手を広げた。

「何を?」

「私の能力は、直接触れなければなりません。あなたの頭を包み込んで、能力の有無を調べます。必要であれば、その能力を刺激して、発揮できるようにします。よろしいですか?」

「あ、ああ」

 彼の手が伸びてきて、オレの頭を包み込んだ。

「緊張していますね。私が能力を使っても何も感じませんよ。ふつうにしていてください」

「そうは言われてもねぇ」

「まぁ、そうでしょうね」

 彼はマブタを閉じ、眉間にシワを寄せた。

 能力の有無を調べるといっても、彼にとっては大変なことなのかもしれない。

 彼が言ったとおり、オレはこれといって、何も感じていなかった。

 彼の眉間のシワが、浅くなる。

 笑みを浮かべた。

「物送りの能力、ありますよ、モーガンさん」

「そうかね」

「ええ。イメージする力が強いですね。長年の努力の結果でしょう」

「イメージするのが必要な仕事だったからね。もう努力するというほどでもない」

「使っていれば、その能力は固定化されていくものです。そして、強化されていく。以心伝心の術も、そのイメージを使う能力だというのはおわかりでしょう?」

「ああ。物送りを依頼するにも、そのイメージが役立っているのは、わかっているんだ」

「そうです。イメージがなければ、どの能力も使えません。そのイメージは、映像だけに留まりません。音や声やニオイも、イメージにつながります。盲目の人が能力を使えるのはそのためです」

「なるほど。それでどうかね? 能力があってもどの程度のものなのかね?」

「キム師父から聞きませんでしたか? 能力に限界はない、と」

「“能力に使う力は意志の力だ”と聞いたことはある。だが、能力があってもその力がどの程度の力なのかは、人それぞれだろう?」

「それは使い慣れていない場合です。慣れてくると能力を信じることができるようになりますから、限界を感じずに使うことができます」

「つまり、練習が必要だということかね?」

「ええ。最初は、物を送ることからはじめるといいでしょう。充分に送れるようになったら自分を送るのです。送ることを覚えてしまえば……終わりました」

 彼はそう言って、両手を下ろし、オレから離れた。

「本当に何も感じなかった。これでもう?」

「ええ」

 彼は袖の中に右手を引っ込めたかと思うと、何かを取り出して見せた。

 手のひらには、1cmほどの丸いボール状のものがあった。

修行丸(しゅぎょうがん)?」

 修行丸(しゅぎょうがん)とは、〈マニ教国〉で作られた保存食。

 スエツグが持っていた。

「ええ。持っている必要はないのですが、たまに持ち歩いています」

 彼が左手を出した。

 手のひらには何もない。

「これを左手に物送りしてみてください。そのくらいならもうできます」

「本当に?」

「はい。術のやり方は、もうご存知ですね?」

 オレはうなずいて、実践した。

 イメージを描き、念ずる。

 すると、右手にあった修行丸(しゅぎょうがん)が、瞬時に左手へと移動した。

 オレは驚いて「おお」と声をあげた。

「ねっ。簡単でしょう。あとは練習あるのみです」

「わかった。毎日、練習するとしよう。ありがたい。これでキム師父に安心してもらえるかな?」

「ええ。ただし、しばらくは疲れやすいと思います。それは無駄な力が入っているせいです。運動と同じです。わかりますよね?」

「なるほど。普段泳いでないのに、急に泳いで疲れて筋肉が痛くなるようなものだね」

「そうです。能力は使っていけば、その力加減を身体が覚えてくれます。そうなれば、もう自由に使いこなせることでしょう」

 オレはうなずいて応えた。

「では、私はこれで。キム師父にも報告しておきます」

「うん。これからもよろしく、と言っておいてくれ」

「わかりました。失礼します」

 彼は一礼したまま、姿を消した。

 オレは部屋の中を見回して、いろんなものを物送りしてみた。

 まるで新しいオモチャを与えられた子どものように。

 うれしくてうれしくて。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。