【132.陛下の思い・2】
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翌日、室長とこのことについて話し合う。
「特別製のバルーン?」
「仕組みは気象観測用のバルーンと同じです」
そのバルーンの説明をする。
「そんな上空のデータを取って、どうするの?」
「気象観測用のバルーンでは捉えられない地域のようすが把握できます。もちろん、地図作成には向きませんが」
「どの地域のことを言っているの?」
地図を取り出し、「だいたい、このくらいになるかと」と指し示す。
室長が腰を浮かせた。
「そこまで!?」
「ここまで捉えられれば、外洋にある島々も把握できます。これらの画像データを合わせて補正してやれば、コンピューター上で惑星儀を作ることができるでしょう」
「惑星儀? この惑星の?」
「ええ。まだ作られてませんよね?」
「ええ。誰もそのことを思いつかなかったわ。天文部は基本的に天球の方に関心があるし」
「気象バルーンのデータもほとんど蓄積しているだけです。まぁ、危険な気象の発生の発見と追跡、それに地図作成に役立ってはいますが」
「そうね。惑星儀か」
考え込む室長。
「できれば、それを実物として作りたいと」
室長が顔を上げて、オレを見た。
「実物? デスクの上に飾れるように?」
「ええ。実際には、人々に公開して、この惑星の外見を見せれたら、と。〈落とされ人〉は少しだけ見たことはありますが、〈スータン〉生まれの人間も多くいます。子どもたちは特にそうですね。授業で教わっていても信じられないんじゃないでしょうか、〈スータン〉が丸いなんて」
「教育面でも必要だ、そう言いたいのね。わかったわ」
王室文化院天文部を室長とともに訪れ、説明した。
天文部部長であるネスカ・パトロビッチは、銀髪灰眼の男性。
「お話はわかりました。ですが」と難色を示す。「こちらにも仕事がありましてね」
そこにあるデスクの大半はカラだった。
でもデスクの上は、そこで働く者がいることを示している。
彼らは交代制で働いているのだ。
ほとんどは、夜の天体観測が主になっている。
ここにいる人間は、昼間できる仕事に従事しているのだ。
おそらく、得られたデータの解析だろう。
「それにこちらも作成したいものはあるんですよ」
「なぁに?」
「プラネタリウムです」
プラネタリウムとは、天体の動きを疑似的に映し出すものだ。
「それを作って、どうするの?」
「蓄積したデータを使って、宇宙で起こっていることを知るためです。数字だけではわからないこともありますから」
「コンピューター上で見れるでしょう?」
「ええ、まぁ。でもね、モーガン卿と同じように人々にも見せたいんですよ、我々の仕事の一端を」
「なるほど」
それはわかる。
同じ目標なのだ。
そこで思いついた。
「〈レダン星系〉の惑星の観測データはありますか?」
「もちろんです」
「そのデータを使って、惑星儀を作りましょう。天体儀も。それらはふつうの人々に見せて。プラネタリウムはそちらで作成できますか?」
彼は首を振った。
「残念ながら、どういう仕組みなのかを知りません。まぁ、光源と星に見立てた穴の開いた板で構成したものだと考えていますが」
「基本的にはそのとおりです。では、プラネタリウムは私の知識から作りましょう。技術的には作れるものです」
彼が怪訝な顔でオレを見つめる。
それから頭を振った。
「モーガン卿、あなたの知識にそれがあるとは思いませんでした」
「当時は、そこまで必要があるとは思わなかったのですがね」と微笑んで見せた。
それからおたがいができることを打ち合わせた。
「御邪魔いたします、陛下」
評議会と協議している部屋を訪れ、必要な許可申請をする。
それぞれについて、陛下が質問してくる。
「よかろう。惑星儀については、諜報員たちが集めた情報の使用も認める」
評議会のひとりが、声を上げた。
「陛下! なりません! 極秘データですぞ」
「極秘にされているばかりで、多くは利用できていない。中には敵国ばかりでもない。それに画像データを使うだけだ。そうであろう、パオロ」
「左様でございます」
「では、そのようにいたせ。ただし、プラネタリウムは、〈スータン〉の惑星儀のあとにせよ。まずは、惑星儀を見てみたい」
「かしこまりました」
高度3万mまで、まぶしく白いバルーンが飛んでいく。
天文部からは、気象バルーンを管理する人員から数名が参加した。
「ロープがないと不安ですよ、モーガン卿」とそのひとりが不安なようすで言う。
「そうだろうねぇ。しかし、高度3万mまで上昇させねばならんのだ」
「理屈ではわかってますがね。でも精神的には」
「うん」
「それでどのくらいで地上に到着する予定ですか?」
「残念ながらそれを記した文献がなくてね。ポッドの落下に3時間ほどだから、そのくらいを見ているんだが」
実際には、アルの計算でわかってはいるのだが。
どうやって、それを割り出したのか、教えるわけにもいかなかった。
「なるほど。では、ビーコンを拾えるまでは、暇ですね」
「そうなるな」
「ですが、相当の距離、流されていくのでは?」
「そのとおりだよ。だからできるだけ近くまで帰ってきてくれるように、飛行システムを載せたんだ。エンジンのない模型飛行機だが、自力でコントロールしてくれる。うまくいってくれるといいんだがね」
「さすがのモーガン卿も自信が?」
「そうだね。どの部分も専門家が作ったものだから信頼はしている。それを統合したから、うまくかみ合ってくれるといいんだがね」
我々は、バルーン打ち上げを終えると、キャンプを張った。
バルーンは、アルの船が追ってくれている。
遠見の術で、船にあるモニターをときどきチェックする。
そこには、バルーンの位置情報が映し出されていた。
少なくても今は無事に上昇を続けている。
当初、バルーンが破裂するまで上昇させるつもりだったが、高度計が3万mを示した時点で、バルーンからの切り離しを行なうことにした。
これは、バルーンの破裂が、飛行体に影響をおよぼすことを懸念したからだ。
飛行体は、滑空するタイプ――つまり、グライダーだ――だが、小型のコンピューターが組み込まれており、各種センサーで現在位置や現在の状況を知ることで、各種の操舵を自力で行なってくれる。
この飛行体を作ったのは、無線操縦模型機を作って飛ばすという趣味を持った人だ。
事前に、バルーンからの切り離しも、そこから地上へと向かうようすも、テストされている。
最後には、着陸までして見せた。
製作者も満面の笑みだった。
3時間が経過した。
モニター画面上で、バルーンからの切り離しが行なわれていることがわかった。
飛行体は、落下を続けている。
ビーコンを捉えたのは、それから3時間後だった。
全員が慌ただしくなる。
とはいえ、そこからがまた長いのだが。
飛行体は、やはり、風に流されていた。
それでもなんとか回収できる範囲まで帰ってきてくれた。
回収し、車に積んだコンピューターで、メモリーの内容を確認する。
全員が、声を上げた。
抱き合って、喜んでもいる。
画面には、青い大気をまとった〈スータン〉の姿が、美しく映し出されていた。
「やりましたね、モーガン卿」
「ああ」
オレは、次々に映し出される画像を、言葉をなくして、見つめていた。
アルが示してくれたシミュレーション画像よりも美しい。
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