【131.陛下の思い・1】
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城に戻り、陛下に報告した。
「そうか。これでひと安心だな」と陛下も安堵の表情。
「はい。あのような場所があって、よかったです」
「うむ」
「今後、子どもたちはどちらで?」
「まだ決まってない。おまえが心配しなくても大丈夫だ」
「心配はしておりませんがね。ではこれで」
「ああ、パオロ」と呼び止められた。
「はい、陛下」
陛下は、評議会の面々を見て、首を振った。
「いいや、なんでもない」
「なんでもおっしゃってください」
オレを見つめながら、首を振る陛下。
その目は、訴えていた。
“この場で言えるなら言っている”と。
「わかりました。とりあえず、文化院の方に顔を出してまいります。ではこれにて失礼いたします」と一礼して、会議室から出た。
なんなのだろうか?
何か問題でもあるのだろうか?
その夜、陛下の秘書が訪ねてきて「陛下がお呼びです」というのでついていくと、陛下の私室まで案内された。
部屋に入ると、陛下は秘書にお休みを言い渡し、ふたりきりにするように言った。
秘書は、お休みの挨拶をすると、部屋から出て、ドアを閉じた。
陛下とふたりきりになった。
「昼間のこと、ですかな?」
陛下は、パジャマ姿のまま、うなずいた。
「うむ。その前に、アルのところに連れていってもらえるか?」
「よろしいですが。なぜでございますか?」
「見せてもらいたいものがある」
「なんでしょう?」
「いいから早く」
オレはまず船の状態をチェックした。
船は、城の上空にいて、オレにあてがわれた部屋は薄暗くなっていた。
今、船もアルも仕事らしい仕事がないので、エネルギーの使用を抑えているのだろう。
陛下に歩み寄り、物送りの師父にお願いして、船にテレポートした。
部屋がすぐに明るくなった。
それからアルが走ってくる音が聞こえてきた。
オレだけなら走ってはこない。
陛下が一緒だから走ってくるのだ。
そうして、アルは、部屋の入り口に片ヒザをついて頭を垂れた。
「陛下」
「アル、〈スータン〉を見せてくれ」
「はい、陛下」
アルは、壁を指し、〈スータン〉の全球の画像を見せた。
「違う。前に見せてくれたボールのようなものだ」
「なるほど。では、コントロールルームへどうぞ。ここでは映し出せませんので」
「わかった」
コントロールルームに入ると、部屋の照明がゆっくりと暗くなっていき、部屋の中央に〈スータン〉が浮かび上がった。
陛下がその姿を近づいて見入る。
惚れ惚れとしているのが、その表情からわかる。
「美しい」
「はい、陛下」
「パオロ……これをほかの人にも見せられないだろうか?」
「特別なかたでも?」
「王子や王女たちに見せてやりたい」
御優しい。
だが……
「残念ですが。特別な理由がない限り、ほかのかたがたをこの船にお乗せすることはできません。また、アルがさきほど申したとおり、ここでしか映し出すことができません。映し出すための装置を作るわけにもまいりません。その仕組み自体が〈スータン〉では生み出されていませんので。ですから、ほかの人にお見せすることはできません」
「そうだろうな。だが、見せてやりたいのだ」
陛下の目は、ずっと〈スータン〉に注がれている。
アルが耳打ちしてきた。「惑星儀をお作りになっては?」
「惑星儀?」
その声に陛下が振り向かれた。
オレがふつうの声で、その言葉を言ってしまったからだ。
「惑星儀とは、なんだ?」
「はぁ……陛下の見ているのは映像です。そうではなく、球体の表面にその画像を貼りつけたようなものでして、ふつうに持ち運びができます」
アルが、〈スータン〉の映像に支持台を取り付けて見せた。
大気の層がなくなる。
美しさが薄れてしまった。
陛下がそれを見て、うなずいた。
「これでもかまわぬ。作れるのか?」
「作れますが」とアル。
「では作れ」
オレは慌てて、意見した。
「御待ちください、陛下。ここまでのものを御作りするわけにはまいりません」
「なぜだ?」
「それは〈スータン〉の外から見た姿です。つまり、宇宙から、という意味です。そのデータはこの〈スータン〉のどこにもあってはならぬもの。御分かりですか?」
陛下は黙って、オレをにらんだ。
それから言った。
「どうにもできぬのか?」低い声。御怒りだ。
「いいえ。アル、私が持ってきた両大陸の地図を惑星儀に貼りつけてくれ」
陛下の前の惑星儀が地図に示された姿になる。
「これでは見せる意味がないぞ」
「御待ちを。アル、バルーンからの画像を――」
言葉の途中で、惑星儀にそれが貼りつけられた。
カラーになったのは、〈スベルト王国〉と周辺国だけだ。
「多少、マシになったな。南大陸は、諜報員から送られてきている画像データがあったはずだ」
それも重ねられた。
「どうしてこの画像がここにあるのだ?」と驚く陛下。
「〈スベルト王国〉のネットにつながっております、陛下」とアル。
「そうか。しかし、画像が少ないな。もっとあると思っていたのだが」
「仕方ありますまい」とオレ。「諜報員の数も限定されておりますし、惑星儀を作るために画像を撮っているわけではないのですから」
「うむ。かといって、〈ラクロア〉に撮影を頼むとしても、向こうには画像を撮るカメラがない。今、コンピューターとともに船で送ってはいるが、それでもこちらに届くまでに時間がかかる。ううむ、何かよい手はないのか?」
「〈ラクロア王国〉にもカメラはございます。古い形のものですが。それで画像をファックスで送っていただきましょう」
「ファックス?」
「通信で画像を送る仕組みでございます。すでにその装置は送られております。実際に送受信も行なわれておりますし」
「だが、あれは白黒だぞ。それに粗い画像になってしまう」
「そこはコンピューターで色をつけ、補正すれば、それなりの画像になります。アル、どのくらいの画像を撮ればいい?」
「カメラの数が充分にあればいいのですが、それは期待できないでしょう。そうなると〈ラクロア王国〉を中心にしただけでも大変な枚数が必要になってしまいます」
「補正をかけても?」
「ええ。それに船で運んでいるカメラの台数も5台だけですし、それを使ったとしてもかなりの時間が必要になります」
「どちらにせよ、だな。ポイントを指定して、撮ってもらったとして、〈ラクロア王国〉の外縁部までのデータが揃うのは?」
「彼らのカメラが、20台だとして……それでも1年はかかります。途中で、こちらのカメラに変更したとしても、短期間だけの縮小に留まるでしょう」
「それは」と陛下。「追々、ということにしてもいいが?」
「では、今あるだけのデータ、つまり、そちらの映像の状態で作りますか」
「パオロ」とアル。「〈スベルト〉の開発済みの技術には、球体にプリントできるものはありません」
「ない? そうだったか。だが、平面に印刷は可能だな」
惑星儀が展開して、縦に細い先細りの楕円が複数連なった地図になった。
「分割数は?」
「10度ずつの36です」
「球体に貼りつけられそうかな?」
「貼りつけたらシワが寄ってしまいますね」とほくそえむアル。
「もっと細かくするか、球体を削ることになるか」
削った球に地図が貼りつけられ、惑星儀となって、映し出される。
シワは寄っていない。
「陛下、とりあえずできるのは、ここまでです」
それを見て、陛下は、唸った。
「満足はできんな。だが、仕方があるまい。これは作れるのだな?」
「〈スベルト王国〉の技術力があれば、充分に」
「では、おまえに任せるとしよう」
「確か、文化院に天文部がございましたな。あちらに御依頼されてみては?」
「私の考えだと思わせない方がいい。どこからこのような考えを持ち出したのか、問題になるかもしれん」
「ああ、なるほど。では、私から天文部に依頼してみましょう」
「そうしてくれ。アル、外から見た〈スータン〉を」
惑星儀が、もとの映像に戻った。
陛下の表情が、柔和になった。
「やはり、これが望ましい。この美しさを見せられまいか」
「バルーンからの映像……だけでは不充分か」
念のため、いくつもの画像が現れた。
そこには、バルーンからの画像が映し出されている。
「大気層の青さがない。ダメだな」
「特別なバルーンをあげれば、撮影できるはずです」とアル。
「特別な?」
「バルーンが破裂するくらいまでの上空に。およそ3万5000mですね」
「シミュレートできるかね? その位置からの眺めを」
「こちらです」
画像が、ひとつだけになり、青い大気層のある〈スータン〉の姿に。
「おお」と陛下が喜んだ。「これだこれだ。これならば、なんとかできるのか?」
「はい、陛下」とアル。「このバルーンを必要数だけ揚げ、それを惑星儀に反映するとこうなります」
〈スータン〉の球体が地図と画像を組み合わせた惑星儀となり、そこに特別製のバルーンから撮影された画像が組み込まれた。
バルーンからの映像だけと違い、外洋と南大陸の一部までが、映し出されている。
これには、オレも驚いた。
「ここまでの距離が撮影できるのか」
「ええ、パオロ。ただし、ガイドロープを張ることはできなくなります。その分の重みが邪魔となり、ここまでの高空まで達することができないからです」
「なるほど。だが、どうやって、回収するんだね? まぁ、バルーンが破裂してしまうのだから、落下してどこに落ちるかわからなくなるから使い捨てか」
「ビーコンを発信させればいいでしょう。データ送信機の代わりにメモリー上に記憶させておくだけにして」
「つまり、回収するまで、映像が撮れているかはわからないわけか」
「ええ。ですが、必ず回収できるようにしておけば、いいわけです。こちらでも追跡しておきますし」
「なるほど」
「この方がいい!」
陛下の叫び声に、オレとアルが驚いてしまう。
「ああ、すまぬ。この惑星儀の方がいいと思うのだが」
「わかりました、陛下。まずは、特別製バルーンを揚げ、そのデータをもとに惑星儀を作成いたしましょう」
「頼む」
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