【129.女性だけの村・2】
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クリスの葬儀は、軍で行なわれた。
そこに参列した。
テオとマリーンが付き添ってくれた。
飾られた遺影は、巨大で、パイロットスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に抱え、愛機の前でキリッと敬礼をしていた。
凛々しい姿だった。
遺品は、パイロット仲間で形見分けされた。
モーガン卿にも、という言葉にオレは丁重に断った。
思い出はたくさんあるから、と。
それにオレの知っているクリスは軍人ではなく、ひとりの女性だった。
きっと彼女も、その方がいい、と思うに違いない。
仕事は休んだ。
陛下からも御許しをもらえた。
思い出の場所に行ってみた。
今でも彼女がとなりにいる気がする。
気のせいだろうか。
そのおかげか、つらくはなかった。
もっとつらくて悲しいものだと思っていた。
それともこれは今までの自分と同じ反応をしているだけなのだろうか?
多くの人を死に向かわせておきながら、オレは無感情でいた。
人の死とは、そんなものだった。
でもクリスの死は、違う。
そう思いたい。
クリスが死んで、約2週間が過ぎた。
陛下からの呼び出しに応じ、評議中の会議室を訪ねた。
「おお、パオロ……すまんな、呼び出してしまって」
「いいえ、陛下。私も、そろそろ仕事をしなければ、と考えておりましたので」
「そうか」
それでも陛下は言いにくそうな顔をしていた。
「なんなりと仰せになってください、陛下」
「ありがとう、パオロ。こちらで話そう」と立ち上がり、奥へと進む陛下。
そこは、こじんまりとした打ち合わせ室だった。
「座ってくれ」
「はい」
テーブルをはさんで、座る。
「おまえが意気消沈しているのを知っていて――」
オレは陛下をさえぎった。
「陛下、もう御気遣いは。それに今は何かをしている方がいいのです」
「そうか。……では」と姿勢を正す。「例の女性たちのことだ」
「例の、といいますと、陛下が御会いなされたあの村の女性たちのことですか?」
「うむ。彼女たちを迎え入れる準備が整った。アルに迎えに行ってもらいたい」
「なるほど。それはよい知らせです」
「彼女たちの中で、ふつうに暮らしたい、と願う者たちがいたな」
「はい」
「そちらも受け入れ態勢を整えた」
「いいですな」
「それから心に傷を負ってしまった女性たちが、〈スベルト〉にもいることがわかっている」
「そうか、確かにありえますな。それで?」
「一緒にしてしまおう、ということになった」
「悪くはないですな。それならば、安心できることでしょう」
「そうだとよいのだが。おまえに任せてもよいか?」
「喜んで」
詳細情報をもらい、自室に引き上げ、それから調査船に跳んだ。
アルに説明し、その場所に向かった。
その場所は、〈スベルト王国〉の外れではあるが、着陸ポイントは近くになく、またほかの町や村からも離れていた。
そのため、必要な物資を頼んだとしても、時間がかかってしまうのが難点だ。
上空に到達。
そこには、仮設と思われる住居棟が並んでいた。
発電施設もある。
いくつかのカマボコ型の倉庫もある。
道路も整備されていた。
その道路を軍のトラックが行き来して、倉庫への物資搬送を行なっている。
物資のリストには、衣食住に必要なものすべてが含まれている。
それに加えて、医療関係、服飾品にいたるまである。
食料は、野菜工場や近くでの狩猟採集、定期的な搬入で賄われることになっている。
牧畜も可能だろう。
なだらかな山もあるし、川もあり、海も穏やか。
自然の恵みは豊富だ。
どうしてこんな土地が手付かずだったのだろう、と最初はいぶかしんだ。
だが、資料を読んで、その疑問は払拭された。
ここは、王室所有の土地で、子どもたちが毎年、アウトドア訓練をする場所だったのだ。
子どもたちにも〈落とされ人〉と同じ経験をさせよう、と考えてのことだった。
今後は、別の場所で行なわれる予定。
王室所有なので、一般人は立ち入り禁止だ。
二重にフェンスがめぐらされてもいるし、常に警戒もされている。
今は設営中なので男も入っているが、運営開始となれば、男性の立ち入りは許されなくなる。
中の女性たちは、出入り自由だ。
もちろん、門を通らねばならないが。
女性たちはやはり街に出て、ウィンドウショッピングを楽しみたい、という思いもあるだろうからだ。
女性たちにとって、ここは安心できる場所になるだろう。
仕事については、それぞれの特技や過去の経験を活かしてもらうことになる。
ジルたちの村に行く。
そこで、クリップボードを渡して、アンケートに答えてもらう。
そのアンケートは、〈落とされ人〉が助け出される際に受けるもので、オレも受けたものだ。
オレは心の中で落ち込んだ。
クリップボードを手渡してくれたクリスを思い出したからだ。
だが、そんなことをおくびにも出さずに、彼女たちのようすに目を向けた。
彼女たちは、真剣にアンケートに答えている。
ジルがアンケートに答え終わって、オレのところに来た。
「それでいつ?」
「向こうの準備が整い次第だ。おそらく三日後くらいだと思う。狩猟道具も持っていくといいだろう。服は向こうに用意してあるし」
「ようやく願いが叶う」
「願い?」
「ふつうの生活」
「ああ、なるほど。私にもそんな願いがあったな。落とされて、助けがくることを信じていた」
「そうか」
彼女も仲間たちに目を向けた。
「おまえのおかげだ、パオロ」
「お礼ならば、アルに言ってくれ。彼が君たちを見つけたんだからな」
「それでもおまえは女王陛下を連れてきてくれた」
「連れてくるしかなかっただけだよ。あの御方は、意外と頑固だからな。こうと決めたらぶれたりしない。それがいいのかもしれないが」
「最初は、孫を連れてきたのか、と思った」
笑った、腹を抱えて。
「そうかもしれんな。年齢的には、そうであってもおかしくはない。孫か。あはは」
彼女も笑う。
「孫に頭が上がらない祖父、といったところだな」
「確かに頭が上がらんよ、陛下には」
「おまえは、ほかの男とは違うな」
「そうか? 結構、ふつうの男だが」
「いいや。“男”を感じない、というと変だが。焦りを感じない」
「焦り? ああ、男特有のか。そうかもな。少なくても今はそのつもりにもならん」
「今は? どういう意味だ?」
「先日、付き合っていた彼女が死んだんだ。軍の兵士でね。新型機の飛行試験の最中に消息を断ったんだ」
「それは……見つかったのか?」
「ああ、自分で見つけに行ってきた。それで死んでいるのを発見した」
「そう、だったか。残念、だった、な」
「ああ。可愛い女性だった。たぶん、愛していたんだな。心にポッカリと穴が開いてしまったよ」
ジルは、黙ってしまった。
どう話を続ければいいのか、わからなくなったのだろう。
「気にしないでくれ。しばらく喪に服していたから、もう大丈夫なんだよ。彼女との思い出はちゃんと残っているしな」
「彼女がうらやましいな。そうやって、愛してもらえて」
「そうだといいが。だが、言葉にしたことはなくてね。それが心残りと言えるかもしれない」
「彼女もわかってくれてるだろう」
「ありがとう」
準備が整い、彼女たちを調査船に乗せた。
総勢、22名。
各部屋に分かれてもらう。
部屋は、新しい住居の内装に合わせた映像が映し出されている。
彼女たちに軽食と飲み物を提供した。
「ほんのちょっとの移動だが、移動している感じはないんだ。あちらの環境をスクリーンに出せるから、それでひまつぶしをして欲しい」
実際、そう話しているあいだにも移動していた。
重力制御がされているので、移動の感覚を感じない。
このくらいの大きさの船で、このような重力制御が行なわれているのは、上の世界でもそうはないだろう。
アルに訊くと、この船はSXEの最新型であり、独自の技術が詰め込まれている、という。
そんな船をここに配置するくらいだ。
SXEの本気度がわかろうというもの。
新しい土地に到着した彼女たちは、その建物群に目を見張った。
「とりあえずだが、仮の個室が用意されている。バスルームもそれぞれに用意されているから、ゆっくりとできるだろう。服も各部屋に用意してある。定番物だがね。基礎化粧品もだ。とにかく、ひと揃いあるはずだよ。まずはお風呂に入って、きれいになってもらいたい。2時間後に食堂で会おう」
女性たちは、ワーキャー言いながらも自分たちの部屋を探し、入っていく。
次第に人が減っていき、最後には静かになった。
2時間後。
彼女たちは、見違えるほど、明るく美しくなっていた。
そのようすに、おたがい驚いてもいた。
騒がしさを、ワザとらしい咳をして、静めた。
「みなさん、見違えましたな。やはり、女性はこうでなければ。ああ、勘違いなさらずに。下心から出た言葉ではありませんので」
彼女たちは、クスクスと笑った。
オレも笑顔で続けた。
「お静かに。さて、ご存知のとおり、みなさんはふた手に分かれて、生活することになります。心に傷を負っているかたとそうでないかたとに。ほぼ半々に、ですね。ですから全員が顔を合わせられるのはここまでです。もちろん、もう会えなくなるというわけではありません。それでも離れて生活するのですから、しょっちゅうというわけにもいかないでしょう。ですから別れを惜しむ時間を設けます。人によっては、すぐに離れたい、と思うかたもおいでかもしれません。そういうかたはおっしゃってください。それなりの手配をいたしますので」
全員が顔を見合わせている。
さみしそうな顔、悲しげな顔、逆に喜びの顔、せいせいする顔、いろいろな反応だ。
「今日の夕食は、全員で同じものを食べてもらいます。ワンプレート料理ですが、味は悪くないはずです。明日からは、ここのロボットたちが、料理を作って出してくれます」
“ロボット”と聞いて、全員が驚く。
「ロボットといいましても」
オレは厨房から1台のロボットを連れてきた。
「こういうロボットです。残念ながらSXE製のロボットではなく、ここで開発されたロボットです。性能は雲泥の差がありますが、我慢してください。それから」ロボットを厨房に押しやる。ロボットはすごすごと引っ込んだ。「食材は、〈スベルト王国〉の各地から取り寄せました。今後も届けられる予定です。お酒もあります。飲みすぎには注意してくださいね」
“お酒まであるんだ”という声が聞こえた。
「“お酒がないとダメ”という人が作ったようですね。材料は地の物です。上と同じものは採れませんのでね。ですが、おいしいですよ。上と商売ができそうなくらいに、ね」
うれしそうな顔があちこちに浮かんだ。
「ですが、今夜はお酒は飲めません」
ブーイングがあがる。
「配送の手違いで、明日になるそうです。残念でした」と微笑む。
かなりの数の女性が肩を落としていた。
ロボットたちが、ワンプレートの食事を配る。
そうして、夕食がはじまった。
その夜から離脱者が出はじめた。
「これ以上、一緒にいたくない」というのだ。
だが、すぐに出ていくわけにはいかない。
手続きはどうしても必要なのだ。
その代わりに、別の棟に引っ越してもらう。
そうすれば、静かに過ごせるだろうから。
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