【127.新たなる接触】
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レフティーたちが編隊を組んで、帰っていった。
子どもたちも力強く羽ばたいて。
北方の国〈アーズ〉へと。
「そうですか。わざわざのお電話をありがとうございます」と先方。
相手は、渡り竜の研究者だ。
レフティーたちの旅立ちを報告していた。
それと今回、わかったことも。
「どうやって、お知りに?」
疑問に思われても仕方がない。
たいていは、テレパシーによって、レフティーから聞いたことなのだから。
「それらしいと感じただけです。そちらでも確認できるのではないかと思いますが」
「そうですね。そうしたことを調べていませんでしたから、助かります」
市場に買出しに出る。
季節は春から夏に変わろうとしているので、そうした初夏の食べ物が出まわりはじめた。
それらを購入して、いつものようにカフェに寄った。
まだ肌寒さを感じていたので、ホットワインとケーキを頼む。
テーブル席に陣取り、しばらく待つと、注文した品が運ばれてきた。
女性スタッフがテーブルから離れていくのを待っていたかのように、ひとりの男性が近づいてきた。
見覚えのある顔だった。
「君は確か、〈ラクロア王国〉の諜報員だね」
そう、サミュエルの部下。
マリーンを人質にしていた男だ。
「その節は、失礼いたしました、モーガン卿」と会釈する。
「まぁ、終わりよければ、と相成ったわけだ。それで今日は?」
「じつは、お話を聞いていただけたら、と」
「今度は、どんな話だね?」
オレの前の席に座る彼。
「あちらをごらんください」と奥まったテーブル席を指し示す。
そこには、10名ほどの男女。
みな、何も話さずに、こちらを見つめている。
「あちらのかたがたは?」
「各国の諜報員です」
「なんと、諜報員は接触しないものと思っていたが」
「ふつうならば。ですが、みな、自分たちの国から命令を受けたのです。それは共通の命令でした」
「私を誘拐するのかね?」
彼は、笑みを浮かべた。
「いいえ。モーガン卿を拉致すればどうなるか、先日のことでみな知っております。ですから今まで接触を避けてきたのです。しかし、新たな命令を実行するには、みなが争ってもおたがいに益はないと判断し、ああして集まったのです。それまではおたがいに顔を知っていましたが、接触はしていませんでした。それで彼らは、あなたと接触していた〈ラクロア王国〉諜報員である私に、調停役を頼んできたのです」
「なるほど。それでその命令とは?」
「“モーガン卿に接触し、〈スベルト王国〉との交渉を水面下で進めよ”というものです」
「なぜ、水面下で? 直接、王国と交渉すれば――」
「それが、どの国も〈スベルト〉とのイザコザを起こしており、白旗を揚げたとしても信じてもらえないのでは、と考えているらしく」
「〈エルゼンタール〉のように騙して、女王陛下を亡き者にするかもしれない、とこちらが考えるだろう、と?」
「はい。そこであなたに接触してとりなしていただこう、と考えたわけです」
「それでも騙す懸念が消えるわけではないな」
「もちろんです。そこでまずは、戦をいったん停止し、こちらの状況をお教えいたしますので、〈スベルト〉の諜報員に調べさせ、その上で〈スベルト〉の代表者との面会を希望してはどうか、と話がつきました」
「なるほど。戦の停止は早くして欲しいな」
「では、調停をお願いできますか?」
「わかった。ただし、戦の停止と各国の現状の情報提供が条件だ。それが満たされない場合は、調停役にはならない。それでいいかね?」
「はい」
「では、まずはどの国がそうするのかを教えてくれないか?」
城に戻り、そのことを陛下と評議会に報告した。
彼らは一様に驚いていた。
それから数日のうちに、すべての国が停戦、ほぼ同時に状況が私に上がってきた。
陛下や評議会にもそれを伝えた。
「会おう」と言ったのは、陛下だった。
「いけません、陛下」と評議会議長。「陛下の御命が」
「それだけの国が、ここまで足並みを揃え、一堂に会するのだぞ。相手が諜報員だろうが、関係ない」
陛下の決断は、覆らなかった。
評議会の面々が反対したにもかかわらず。
数日後。
諜報員たちは、城内に招き入れられ、着替えさせられ、各種検査を受けさせられた。
彼らには、面会する相手が誰であるかは伝えられていない。
会議室に集められた彼らは、一様に落ち着きがない。
その場で殺されるかもしれないからだ。
死ぬことはいとわない彼らだが、命令遂行の結果が自分たちの死で終わり、戦に負けてしまうのは、耐え難い。
オレがその会議室に入っていくと、全員の目が向けられた。
と同時に安堵のため息。
菓子類も飲み物も提供されているが、誰も手をつけていない。
「緊張しているね。殺されることはないさ。心配しなさんな」
そこには、〈ラクロア〉の諜報員もいた。
彼も戦々恐々としていたひとりだ。
「そうは言われましても、モーガン卿。〈スベルト〉が、我々を始末する絶好のチャンスですから」
「まぁ、そうだろうね。すでに君たちが武器や爆弾を持っていないのは確認済みだし、体内にもそれらしいものは見つけられなかった。ただし、ひとりだけ、この場に重要人物が現れたら、暗殺しようとしている者がいた」
彼らが驚き、それぞれを見渡した。
「いったい誰が?」
オレはその人物に指を突きつけた。
次の瞬間、その人物の口から何か白いものが吹き出され、オレの顔めがけて、飛んできた。
だが、オレの手前の見えない壁にぶつかって、床に落ちた。
床に落ちたのは、奥歯だった。
奥歯は、次の瞬間、その場で爆発した。
誰もが自分の腕で顔を守る。
爆発のあと、彼らがゆっくりとまわりの状況を確認する。
爆弾の破片も爆風もオレには届かなかった。
そのことに唖然とする一同。
その中でひとりだけ、イスを押し倒して、走り出し、オレにつかみかかろうとしてきた。
自分の手で殺すために。
だが、オレの前で、彼は踊るように回転した。
オレの後ろから撃たれたのだ。
その発砲音とともに、警備がふたり入ってきて、彼を捕縛し、連行していった。
会議室の面々に目を向けた。
「これでいい」
「〈スベルト〉には、個人用バリアが?」と諜報員のひとり。
「そうです。だが、つかみかかられたら自分で身を守るしかなかった。そういうバリアだからね」
今のできごとに、彼らは頭がまわっていない。
だから、どうして彼が暗殺を計画しているのを知っていたのか、と問うこともしてこない。
そのことについて、オレは彼らに説明する気はなかった。
彼らの心の中を見て、何を考えていたのか、調べたのだ。
それを説明しても信じてはもらえまい。
説明するだけ無駄だ。
「さて、諸君!」と声を張り上げた。
彼らが我に返り、オレに目を向けた。
「場所を変えよう。女王陛下が謁見してくださる」
「えっ?」「女王陛下自らが?」
オレは、それに答えずに、歩きはじめた。
彼らは、オドオドしながら、オレのあとをついてくる。
謁見の間に到着。
彼らを整列させ、片ヒザをつかせた。
オレは、玉座に続く階段の右下に立った。
「すぐに陛下がまいります。そのまま、お待ちください」
彼らは、不安げにいったん左右を見てから頭を垂れた。
警護の人間たちとともに、玉座の後ろから陛下が現れた。
陛下は何も言わず、玉座に座る。
それから言った。「頭を上げよ」
諜報員たちは、一瞬ためらい、次いで頭を上げた。
「余が、〈スベルト王国〉女王、ノーラである」一拍おき、「ひとりは残念であった。すべての国が同じ気持ちであって欲しかったのだが」
ためらいながらも声を発したのは、〈ラクロア王国〉の諜報員だった。
「ノーラ女王陛下が謁見を許してくださるとは、思いもよりませんでした。あの者については、我々も陛下同様に残念に思っております。ですが、我々は国を代表して、ここにまいっております。これは間違いございません」
「もちろんだ。それはもう疑ってはおらぬ。心配いたすな」
「ありがとうございます、陛下」
「すでに停戦し、みなの国の状況も確認してある。パオロが提示した条件は満たされていた」
「はい、それが前提条件でしたので。とにかく、戦をやめ、本来の生活を、いえ、生活の向上をすべての民が望んでおります。そこのところを御察しいただければと」
「無論だ。〈スベルト〉との友好関係を築いてくれさえすれば、早急に手を打つことができる。戦などしなくても、な」
「仰せのとおりでございます」
「うむ。では、詳細については、評議会と相談してくれ」
「かしこまりました」
「大儀であった」
「これにて、謁見は終了いたします」
諜報員たちは、ふたたび頭を垂れ、陛下が出ていくのを待った。
その後、すべての国の代表が〈スベルト王国〉に集まり、友好国ではなく、併合を目標にすることで話がまとまった。
暗殺が未遂に終わった諜報員の国には、制裁として、指導者は〈スベルト〉の諜報員により暗殺された。
新たな指導者がないままに、その国の軍は崩壊し、〈スベルト王国〉に併合されることとなった。
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