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落とされ人  作者: カーブミラー


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127/128

【127.新たなる接触】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 レフティーたちが編隊を組んで、帰っていった。

 子どもたちも力強く羽ばたいて。

 北方の国〈アーズ〉へと。

「そうですか。わざわざのお電話をありがとうございます」と先方。

 相手は、渡り竜の研究者だ。

 レフティーたちの旅立ちを報告していた。

 それと今回、わかったことも。

「どうやって、お知りに?」

 疑問に思われても仕方がない。

 たいていは、テレパシーによって、レフティーから聞いたことなのだから。

「それらしいと感じただけです。そちらでも確認できるのではないかと思いますが」

「そうですね。そうしたことを調べていませんでしたから、助かります」


 市場に買出しに出る。

 季節は春から夏に変わろうとしているので、そうした初夏の食べ物が出まわりはじめた。

 それらを購入して、いつものようにカフェに寄った。

 まだ肌寒さを感じていたので、ホットワインとケーキを頼む。

 テーブル席に陣取り、しばらく待つと、注文した品が運ばれてきた。

 女性スタッフがテーブルから離れていくのを待っていたかのように、ひとりの男性が近づいてきた。

 見覚えのある顔だった。

「君は確か、〈ラクロア王国〉の諜報員だね」

 そう、サミュエルの部下。

 マリーンを人質にしていた男だ。

「その節は、失礼いたしました、モーガン卿」と会釈する。

「まぁ、終わりよければ、と相成ったわけだ。それで今日は?」

「じつは、お話を聞いていただけたら、と」

「今度は、どんな話だね?」

 オレの前の席に座る彼。

「あちらをごらんください」と奥まったテーブル席を指し示す。

 そこには、10名ほどの男女。

 みな、何も話さずに、こちらを見つめている。

「あちらのかたがたは?」

「各国の諜報員です」

「なんと、諜報員は接触しないものと思っていたが」

「ふつうならば。ですが、みな、自分たちの国から命令を受けたのです。それは共通の命令でした」

「私を誘拐するのかね?」

 彼は、笑みを浮かべた。

「いいえ。モーガン卿を拉致すればどうなるか、先日のことでみな知っております。ですから今まで接触を避けてきたのです。しかし、新たな命令を実行するには、みなが争ってもおたがいに益はないと判断し、ああして集まったのです。それまではおたがいに顔を知っていましたが、接触はしていませんでした。それで彼らは、あなたと接触していた〈ラクロア王国〉諜報員である私に、調停役を頼んできたのです」

「なるほど。それでその命令とは?」

「“モーガン卿に接触し、〈スベルト王国〉との交渉を水面下で進めよ”というものです」

「なぜ、水面下で? 直接、王国と交渉すれば――」

「それが、どの国も〈スベルト〉とのイザコザを起こしており、白旗を揚げたとしても信じてもらえないのでは、と考えているらしく」

「〈エルゼンタール〉のように騙して、女王陛下を亡き者にするかもしれない、とこちらが考えるだろう、と?」

「はい。そこであなたに接触してとりなしていただこう、と考えたわけです」

「それでも騙す懸念が消えるわけではないな」

「もちろんです。そこでまずは、戦をいったん停止し、こちらの状況をお教えいたしますので、〈スベルト〉の諜報員に調べさせ、その上で〈スベルト〉の代表者との面会を希望してはどうか、と話がつきました」

「なるほど。戦の停止は早くして欲しいな」

「では、調停をお願いできますか?」

「わかった。ただし、戦の停止と各国の現状の情報提供が条件だ。それが満たされない場合は、調停役にはならない。それでいいかね?」

「はい」

「では、まずはどの国がそうするのかを教えてくれないか?」


 城に戻り、そのことを陛下と評議会に報告した。

 彼らは一様に驚いていた。

 それから数日のうちに、すべての国が停戦、ほぼ同時に状況が私に上がってきた。

 陛下や評議会にもそれを伝えた。

「会おう」と言ったのは、陛下だった。

「いけません、陛下」と評議会議長。「陛下の御命が」

「それだけの国が、ここまで足並みを揃え、一堂に会するのだぞ。相手が諜報員だろうが、関係ない」

 陛下の決断は、覆らなかった。

 評議会の面々が反対したにもかかわらず。


 数日後。

 諜報員たちは、城内に招き入れられ、着替えさせられ、各種検査を受けさせられた。

 彼らには、面会する相手が誰であるかは伝えられていない。

 会議室に集められた彼らは、一様に落ち着きがない。

 その場で殺されるかもしれないからだ。

 死ぬことはいとわない彼らだが、命令遂行の結果が自分たちの死で終わり、戦に負けてしまうのは、耐え難い。

 オレがその会議室に入っていくと、全員の目が向けられた。

 と同時に安堵のため息。

 菓子類も飲み物も提供されているが、誰も手をつけていない。

「緊張しているね。殺されることはないさ。心配しなさんな」

 そこには、〈ラクロア〉の諜報員もいた。

 彼も戦々恐々としていたひとりだ。

「そうは言われましても、モーガン卿。〈スベルト〉が、我々を始末する絶好のチャンスですから」

「まぁ、そうだろうね。すでに君たちが武器や爆弾を持っていないのは確認済みだし、体内にもそれらしいものは見つけられなかった。ただし、ひとりだけ、この場に重要人物が現れたら、暗殺しようとしている者がいた」

 彼らが驚き、それぞれを見渡した。

「いったい誰が?」

 オレはその人物に指を突きつけた。

 次の瞬間、その人物の口から何か白いものが吹き出され、オレの顔めがけて、飛んできた。

 だが、オレの手前の見えない壁にぶつかって、床に落ちた。

 床に落ちたのは、奥歯だった。

 奥歯は、次の瞬間、その場で爆発した。

 誰もが自分の腕で顔を守る。

 爆発のあと、彼らがゆっくりとまわりの状況を確認する。

 爆弾の破片も爆風もオレには届かなかった。

 そのことに唖然とする一同。

 その中でひとりだけ、イスを押し倒して、走り出し、オレにつかみかかろうとしてきた。

 自分の手で殺すために。

 だが、オレの前で、彼は踊るように回転した。

 オレの後ろから撃たれたのだ。

 その発砲音とともに、警備がふたり入ってきて、彼を捕縛し、連行していった。

 会議室の面々に目を向けた。

「これでいい」

「〈スベルト〉には、個人用バリアが?」と諜報員のひとり。

「そうです。だが、つかみかかられたら自分で身を守るしかなかった。そういうバリアだからね」

 今のできごとに、彼らは頭がまわっていない。

 だから、どうして彼が暗殺を計画しているのを知っていたのか、と問うこともしてこない。

 そのことについて、オレは彼らに説明する気はなかった。

 彼らの心の中を見て、何を考えていたのか、調べたのだ。

 それを説明しても信じてはもらえまい。

 説明するだけ無駄だ。

「さて、諸君!」と声を張り上げた。

 彼らが我に返り、オレに目を向けた。

「場所を変えよう。女王陛下が謁見してくださる」

「えっ?」「女王陛下自らが?」

 オレは、それに答えずに、歩きはじめた。

 彼らは、オドオドしながら、オレのあとをついてくる。

 謁見の間に到着。

 彼らを整列させ、片ヒザをつかせた。

 オレは、玉座に続く階段の右下に立った。

「すぐに陛下がまいります。そのまま、お待ちください」

 彼らは、不安げにいったん左右を見てから頭を垂れた。

 警護の人間たちとともに、玉座の後ろから陛下が現れた。

 陛下は何も言わず、玉座に座る。

 それから言った。「頭を上げよ」

 諜報員たちは、一瞬ためらい、次いで頭を上げた。

「余が、〈スベルト王国〉女王、ノーラである」一拍おき、「ひとりは残念であった。すべての国が同じ気持ちであって欲しかったのだが」

 ためらいながらも声を発したのは、〈ラクロア王国〉の諜報員だった。

「ノーラ女王陛下が謁見を許してくださるとは、思いもよりませんでした。あの者については、我々も陛下同様に残念に思っております。ですが、我々は国を代表して、ここにまいっております。これは間違いございません」

「もちろんだ。それはもう疑ってはおらぬ。心配いたすな」

「ありがとうございます、陛下」

「すでに停戦し、みなの国の状況も確認してある。パオロが提示した条件は満たされていた」

「はい、それが前提条件でしたので。とにかく、戦をやめ、本来の生活を、いえ、生活の向上をすべての民が望んでおります。そこのところを御察しいただければと」

「無論だ。〈スベルト〉との友好関係を築いてくれさえすれば、早急に手を打つことができる。戦などしなくても、な」

「仰せのとおりでございます」

「うむ。では、詳細については、評議会と相談してくれ」

「かしこまりました」

「大儀であった」

「これにて、謁見は終了いたします」

 諜報員たちは、ふたたび頭を垂れ、陛下が出ていくのを待った。


 その後、すべての国の代表が〈スベルト王国〉に集まり、友好国ではなく、併合を目標にすることで話がまとまった。

 暗殺が未遂に終わった諜報員の国には、制裁として、指導者は〈スベルト〉の諜報員により暗殺された。

 新たな指導者がないままに、その国の軍は崩壊し、〈スベルト王国〉に併合されることとなった。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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