【114.もうひとつの商品】
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モーガン・チーズの売り上げが爆発的だったのを、オレ自身はほとんど気にしていなかった。
なぜなら、モーガン・チーズのことは、もう人に任せて、文化院の仕事と渡り竜たちの世話に戻っていたからだ。
池のほとりで、渡り竜たちは毎日、小魚をついばんでいた。
その小魚は、釣具屋の知人の漁師が獲ってきたもので、大量の水を入れた容器に収まって納入されている。
水の中には、小魚だけではなく、水草と微生物が漂っているのがわかる。
釣具屋に尋ねると、漁師が小魚を獲った方法を教えてくれた。
そのやり方は、浅瀬に容器を置き、その中に水草とエサを入れて、一晩放っておく。
翌日に容器にフタをして、水から引き上げた、ただそれだけなのだそうだ。
それなら小魚の鮮度を保ったまま、運ばれる。
小魚はたいした損耗もなく、渡り竜たちに提供できるわけだ。
釣具屋が別に用意したエサの方は、メスたちがこぞって食べた。
日中、オスたちは、城をあとに出掛けていき、多くの枝葉を持ってくる。
メスたちは、その枝葉で、巣を造る。
卵を産み、ヒナを育てる場所だ。
騒がしい毎日が訪れそうだ。
自室のピラミッドボードを別の食料に使ってみていた。
ピラミッドボードには、食品を腐らせない作用がある。
そこで食品をその上にのせておいたのだ。
だが、水分の多い果実は、どんどんとその水分が抜けていく。
しなびた果実を恐る恐る手に取り、食してみた。
テオとスエツグも一緒だ。
「これって、ドライフルーツですよね」とテオ。
「そうだね」
「なんです? ドライフルーツって」と言いながら、スエツグはその食感を不思議そうに楽しんでいる。
「その名のとおりさ」とテオが説明する。「果実を乾燥させて、作ったものだよ」
「ああ、保存食の一種ですね」
「そうだね。でもそれ自体でもひとつの食材だよ」
「確かに」
ほかにも試していたものがある。
肉だ。
「肉は、干し肉ですね。ああ、そう言えば、“腐肉食い”にやられませんね」
「そうだな。特別なことはしてないから、ピラミッドボードの効果なんだろうな」
「すごいですね。“腐肉食い”を寄せつけないなんて」
「ああ。“腐肉食い”を防ぐためには、燻製にするか塩で覆うしかないかと思っていたんだが。これなら手間がほとんどいらないから、普及させてもいいかもしれんな」
「ピラミッドボードを売り出すんですか?」
「調理道具としてね。だがまぁ、売り出す前にあちこちに配って、いろいろと試してもらおうか」
ミタニ師父のもとにも送って、試してもらった。
彼の指示で、食材の多くが試された。
南大陸の食材がどんな風になるのか、興味があり、その結果が待ち遠しい。
動物の肉は、そのほとんどが干し肉になった。
果実もドライフルーツに。
そして、やはり、チーズは喜ばれた。
ミタニ師父もその食感や味覚を楽しんでいた。
さまざまな食材が試され、それぞれの知識が集められ、一冊の本にまとめられる。
それとコンパスを付録として、ピラミッドボードを売り出した。
その名も“モーガン・ピラミッド”。
最初、売れ行きは、たいしたことはなかった。
だが、それがモーガン・チーズを作り出したと知られるや否や、売り上げが急上昇した。
モーガン・チーズの売り上げが落ちるかと懸念されていたが、心配したほどではなかった。
モーガン・ピラミッドをモーガン・チーズの自家製造に使った人は、ほんの一部に過ぎなかったのだ。
それはやはり、製造日数が関わっていた。
乳をチーズ化するには、それなりの期間が必要だったからだ。
たとえ、置きっぱなしでいいとはいえ、それを待つのはじれったいのだろう。
中には、東西南北を合わせない人たちもいた。
当然、ピラミッドのエネルギーは放射されずに、食材はただ腐っていくだけだった。
ちゃんと注意書きを記したというのに。
彼らは、販売元に文句を言ってきたが、追い返された。
じつは、ピラミッドボードの記事が載せられていた文献には、ピラミッドボードの底部に磁石を取り付けたものもあった。
それならば、東西南北にあわせる必要もなく、エネルギーは放射される。
オレはそうしようとは思わなかった。
磁石をつけるということは、電子機器に近づけた際に、影響を与えることになる。
フェイスもなんらかの影響を受ける。
そうした科学技術がもたらしたテクノロジーは、磁場に弱いことが多い。
だから磁石をつけずに販売したのだ。
こちらを立てれば、あちらが立たず、ってわけだ。
ちなみに、オレのふところは、思った以上にふくらんでいた。
一部は、物にして、協力してくれた人々に贈った。
残りは、まだ考えていない。
いずれは、何かを誰かに提供することにするだろう。
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