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落とされ人  作者: カーブミラー


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112/129

【112.黒き群れ】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 春らしい快晴が続いた。

 そんなある朝。

 自室の前の庭園が騒がしい。

 ベッドから出ると、テオも起きだしていた。

「先生」

「なんだろうね?」

「さぁ」

 ふたりで、玄関ドアを開けて、外を見た。

 庭園には、黒いものが群がっていた。

 その中のひとつが、こちらに気付き、涼やかな声で鳴いた。

「おいおい」「レフティー?」

 そう、そこにいたのは、渡り竜の一団だった。

 全部で10羽だろうか?

 その中には、レフティーがいた。

 それからトールとエレナもいた。

 久しぶりの再会に、おたがいに歩み寄る。

 ほかの渡り竜たちは、遠巻きにこちらを見ている。

 レフティーがオレに飛びついてきた。

 オレは腕に抱いた。

「あはは、レフティー、久しぶりだね。来てくれたんだな」

 オレのホオに頬擦りするレフティー。

 その感触を味わう。

 オレは、無意識に念を送っていた。

(来てくれて、うれしいよ、レフティー)

 ハッとした彼女が、オレの目をじっと見つめた。

 “ああ、そうか、テレパシーを送ってしまっていたんだな”と自分で気付いた。

(直接、話ができるようになったんだよ、レフティー)

 彼女のマブタが、細くなった。

(本当に?)

(本当だよ、レフティー)

 元通りのガラス玉に戻った。

(うれしい)

 頬擦りを再開する彼女。

 トールとエレナは、楽しそうにテオとジャレついていた。


「陛下」

 評議会会議室に赴いた。

「パオロか。なんだ?」

 オレを見た陛下は、特に変わった表情をしなかった。

「陛下に御挨拶をしたい、とまいった者がおります」

「挨拶? その者は、どこだ?」と怪訝な表情をしながら、オレの背後を見る。

 オレは、胸元を開けた。

 陛下や評議会の全員の目が集中する。

 胸元からレフティーが顔を見せた。

 ピーッと甲高い鳴き声を上げる。

 そっと胸元から出して、抱えた。

「それは! 渡り竜か!」

「はい。以前、骨折をし、陛下の客人として、私が世話をしていたレフティーでございます」

「おお」と陛下はうれしそうな表情になった。「渡ってきたのか」

「はい。トールとエレナも一緒に。3羽は群れを連れてまいりました」

「なんと、群れをともなってか。それで何羽だ?」

「3羽を合わせて、11羽。ただいま、私の部屋の前の庭園で休んでおります」

「そうか。……パオロ、私の客人として、もてなすようにな」

 陛下は目を細めて、レフティーを見やる。

「かしこまりました、陛下」

「レフティーたちの帰還を国民に知らせようぞ」

 レフティーたちのようすが、テレビカメラで放送されることになった。

 ニュースもこれを伝えた。


 庭園の管理をしているドナルド・ヘーガンも喜んだ。

「今いる小魚では足りませんな。毎日、追加いたしましょう」とほくそえむ。

「そうしてやってください。こちらも多少のエサを用意しますが、人が与えるよりも自分たちで獲った方が良さそうですから」

 釣具屋が自分からやってきた。

「ニュースを聞きました。エサはわたくしどもで提供させていただきます」と笑み。

「ありがとう。以前と同じ量でかまいませんから」

「いえいえ。11羽もいるのでは大変な量に」

「そうなんですが、自分たちで小魚を獲っていましてね。エサは補助的でしかないのですよ」

「ああ、そういう話で。でしたらその小魚を――」

 話をさえぎる。「王室が養殖しているので、大丈夫ですよ」

「そう、でしたか。その小魚のエサは?」

「おそらく提携の業者が」

 釣具屋は、残念そうな顔をしている。

 城に物を提供して、商売につなげたいのだろう、と悟った。

「なんとも言えませんが、担当の者に訊いてみましょう。もしかしたら、ということになるかもしれませんから」

 釣具屋が途端に商売人の笑顔になった。

「そうしていただけると。王室に御協力できるなど、なかなかありませんので」

 約束をすると、釣具屋は帰っていった。


 実際にドナルドに訊く。

「確かに養殖している小魚の量が足りるか、心配ですな」

「でしょうね。陛下の“アイカ”にも与えねばならないのでしょう? 足りなくなるのは避けねばなりませんね」

 “アイカ”とは、淡水性の水棲動物だ。

 陛下が飼っておられる。

「はい。ですが、養殖の水槽を汚して、病気にするわけにもいきません。となれば、別の小魚を用意する方が得策かもしれませんね」

「では、そのようにいたしましょう。釣具屋が、どのくらい用意できるかにもよるでしょうが」


 釣具屋は、喜んだ。

「小魚は特別なものを?」

 レフティーに念を送って、訊いてみた。

「特別なものでなくても良さそうです」

「よかった。それでしたらこちらで漁師と相談して、届けます」

「活きのいい状態が望ましいので」

「わかっております。では」


 それから毎日配達されるようになった小魚は、大きさは違うし、種類も違う。

 だが、渡り竜たちは、気にせずに食べた。


 レフティーたちは、部屋には入ってこなかった。

(入ってもいいんだよ?)

(いいの。みんなと一緒の方が。それにみんな、怖がってるから、入りたがらないのよ)

(怖がる必要はないんだけどね)

(でも閉じ込められるのは嫌いだから)

(ああ、なるほど)


 毎日のようすを見ていると、(つがい)になっているのが、見分けられるようになった。

 レフティーにも伴侶がいた。

(彼? 若いけど、いい人よ)

(今後も一緒に)

(今後?)

(一生とか)

(ないない。季節を過ぎれば、離れるわ。ずっと一緒にいるなんて)と笑いの念を返す彼女。

(それは知らなかったな)

 そうしたことを記録しておく。

 いずれ、北方の隣国〈アーズ〉の研究者に送ってやろう。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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