【112.黒き群れ】
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春らしい快晴が続いた。
そんなある朝。
自室の前の庭園が騒がしい。
ベッドから出ると、テオも起きだしていた。
「先生」
「なんだろうね?」
「さぁ」
ふたりで、玄関ドアを開けて、外を見た。
庭園には、黒いものが群がっていた。
その中のひとつが、こちらに気付き、涼やかな声で鳴いた。
「おいおい」「レフティー?」
そう、そこにいたのは、渡り竜の一団だった。
全部で10羽だろうか?
その中には、レフティーがいた。
それからトールとエレナもいた。
久しぶりの再会に、おたがいに歩み寄る。
ほかの渡り竜たちは、遠巻きにこちらを見ている。
レフティーがオレに飛びついてきた。
オレは腕に抱いた。
「あはは、レフティー、久しぶりだね。来てくれたんだな」
オレのホオに頬擦りするレフティー。
その感触を味わう。
オレは、無意識に念を送っていた。
(来てくれて、うれしいよ、レフティー)
ハッとした彼女が、オレの目をじっと見つめた。
“ああ、そうか、テレパシーを送ってしまっていたんだな”と自分で気付いた。
(直接、話ができるようになったんだよ、レフティー)
彼女のマブタが、細くなった。
(本当に?)
(本当だよ、レフティー)
元通りのガラス玉に戻った。
(うれしい)
頬擦りを再開する彼女。
トールとエレナは、楽しそうにテオとジャレついていた。
「陛下」
評議会会議室に赴いた。
「パオロか。なんだ?」
オレを見た陛下は、特に変わった表情をしなかった。
「陛下に御挨拶をしたい、とまいった者がおります」
「挨拶? その者は、どこだ?」と怪訝な表情をしながら、オレの背後を見る。
オレは、胸元を開けた。
陛下や評議会の全員の目が集中する。
胸元からレフティーが顔を見せた。
ピーッと甲高い鳴き声を上げる。
そっと胸元から出して、抱えた。
「それは! 渡り竜か!」
「はい。以前、骨折をし、陛下の客人として、私が世話をしていたレフティーでございます」
「おお」と陛下はうれしそうな表情になった。「渡ってきたのか」
「はい。トールとエレナも一緒に。3羽は群れを連れてまいりました」
「なんと、群れをともなってか。それで何羽だ?」
「3羽を合わせて、11羽。ただいま、私の部屋の前の庭園で休んでおります」
「そうか。……パオロ、私の客人として、もてなすようにな」
陛下は目を細めて、レフティーを見やる。
「かしこまりました、陛下」
「レフティーたちの帰還を国民に知らせようぞ」
レフティーたちのようすが、テレビカメラで放送されることになった。
ニュースもこれを伝えた。
庭園の管理をしているドナルド・ヘーガンも喜んだ。
「今いる小魚では足りませんな。毎日、追加いたしましょう」とほくそえむ。
「そうしてやってください。こちらも多少のエサを用意しますが、人が与えるよりも自分たちで獲った方が良さそうですから」
釣具屋が自分からやってきた。
「ニュースを聞きました。エサはわたくしどもで提供させていただきます」と笑み。
「ありがとう。以前と同じ量でかまいませんから」
「いえいえ。11羽もいるのでは大変な量に」
「そうなんですが、自分たちで小魚を獲っていましてね。エサは補助的でしかないのですよ」
「ああ、そういう話で。でしたらその小魚を――」
話をさえぎる。「王室が養殖しているので、大丈夫ですよ」
「そう、でしたか。その小魚のエサは?」
「おそらく提携の業者が」
釣具屋は、残念そうな顔をしている。
城に物を提供して、商売につなげたいのだろう、と悟った。
「なんとも言えませんが、担当の者に訊いてみましょう。もしかしたら、ということになるかもしれませんから」
釣具屋が途端に商売人の笑顔になった。
「そうしていただけると。王室に御協力できるなど、なかなかありませんので」
約束をすると、釣具屋は帰っていった。
実際にドナルドに訊く。
「確かに養殖している小魚の量が足りるか、心配ですな」
「でしょうね。陛下の“アイカ”にも与えねばならないのでしょう? 足りなくなるのは避けねばなりませんね」
“アイカ”とは、淡水性の水棲動物だ。
陛下が飼っておられる。
「はい。ですが、養殖の水槽を汚して、病気にするわけにもいきません。となれば、別の小魚を用意する方が得策かもしれませんね」
「では、そのようにいたしましょう。釣具屋が、どのくらい用意できるかにもよるでしょうが」
釣具屋は、喜んだ。
「小魚は特別なものを?」
レフティーに念を送って、訊いてみた。
「特別なものでなくても良さそうです」
「よかった。それでしたらこちらで漁師と相談して、届けます」
「活きのいい状態が望ましいので」
「わかっております。では」
それから毎日配達されるようになった小魚は、大きさは違うし、種類も違う。
だが、渡り竜たちは、気にせずに食べた。
レフティーたちは、部屋には入ってこなかった。
(入ってもいいんだよ?)
(いいの。みんなと一緒の方が。それにみんな、怖がってるから、入りたがらないのよ)
(怖がる必要はないんだけどね)
(でも閉じ込められるのは嫌いだから)
(ああ、なるほど)
毎日のようすを見ていると、番になっているのが、見分けられるようになった。
レフティーにも伴侶がいた。
(彼? 若いけど、いい人よ)
(今後も一緒に)
(今後?)
(一生とか)
(ないない。季節を過ぎれば、離れるわ。ずっと一緒にいるなんて)と笑いの念を返す彼女。
(それは知らなかったな)
そうしたことを記録しておく。
いずれ、北方の隣国〈アーズ〉の研究者に送ってやろう。
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