【111.地図】
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仕事が終わり、部屋に帰ってきた。
あとからテオが戻ってきた。
彼は、まだ〈ラクロア王国〉からの書物に関する仕事を続けていた。
「先生、今日は地図が出てきました」とそれをテーブルに広げる。
すでに〈マニ教国〉のテムジン大師父から、南大陸の地図はもらって記憶に入れてある。
だが、そのことは誰にも言っていない。
そこで興味深そうにして、その地図に見入った。
ほとんどの地図がそうなのだが、自国を中心とした配置になっている。
ここでいけば、〈ラクロア王国〉がそれだ。
それを見ていて、ふと気付いた。
「テオ、この地図は、〈スベルト王国〉の地図とかみ合わないな」
「えっ? そうですか?」と地図を見つめる彼。
「確かだ。ここにある岬は、〈スベルト王国〉の地図にはない。ほかにもいくつか見受けられる」とその点を指し示した。
「確認してみます」
地図を持って、自室のコンピューターで彼は調べはじめた。
しばらくして、出てきた彼は、うなずいた。
「確かに食い違っています。どういうことですかね?」
「さぁ。ここまで書かれているのだから、自国以外の存在も知っていたはずだ。ならば、船舶で行き来したに違いない。そうするならば、こうした地理的条件を正確に書き記すはずだ」
「ちょっと待ってください、先生。それだと〈スベルト王国〉も〈ラクロア王国〉も同じ船舶技術を持っていて、同じ地図を参照していたことになりませんか?」
「そうなる。だが、それもおかしな話だ。どちらの国も〈落とされ人〉なのだからそうした技術があれば、とっくの昔に交易を行なっているはずだ。それなのにしていない。船舶技術がそこまで達していないからだ。それなのに同じ地図から派生した感があるのは意味が通らない」
「調べます」
ふたたび、自室に引っ込むテオ。
「わかりましたよ」
だいぶかかってから彼が出てきた。
「それで?」
「はい。最初の地図があったんです」
「最初の?」
「この惑星〈スータン〉は監獄惑星ですが、以前は資源開発惑星でした」
「そうだったね」
「最初の地図は、そのときに作られたものだったんです」
「ああ、なるほど」
「現在では、そのときの地図は残っていません。それで模写し続けていくうちに細部がぼやけていったんでしょう。それで食い違っていった」
「そういうことか」
「ええ。残っている〈スベルト〉の地図を時代別に並べていくと、確かに南大陸の細部が〈ラクロア〉の地図と適応しているのがわかります」
「ふむ。惑星が放棄され、両大陸に残った地図が、その後の〈落とされ人〉たちによって修正され続けていったわけか」
「ええ。第1世代が持っていたんですね。確か、資源開発は北大陸だけだったはずです。第1世代がなんらかの移動手段を使って南にも渡っていった。そう考えれば、この地図の食い違いは納得できますね」
「両方の大陸で、模写が続けられ、自分たちの大陸以外は興味が薄くて……いや、移動手段がなくて、かもしれないな。とにかく、それで細部がぼやけていった。なるほど」
「その移動手段って、なんだったんでしょうね? 飛行機? 船?」
「どちらにしろ、その後のことを考えると、北にあった移動手段すべてを使ったと見るべきだろう。そして、南に到着したが、燃料がつきた」
「つまり、使えなくなった、と」
「そうだろうな。あるいは、それで〈スータン〉を脱出しようとしたのかもしれない。そのときには、もう封鎖処置が取られていたとしたら」
「撃ち落とされる」
「うん。どちらにしろ、その移動手段は使えなくなり、放棄され、忘れ去られた」
「あとに残った人々は、その場で生きることを余儀なくされた」
「大筋は、そんなところだろう。その後は、我々も知ってのとおり、〈落とされ人〉が落とされてくるわけだ」
「なるほど。この話、誰かに話しますか?」
「明日、室長に話すよ」
室長は、この話に興味を持った。
当然だろう、我々の歴史がそこに隠されていたのだから。
「その移動手段、見つけたいわね」
「しかし、どこにあるのかは、誰も知らないと思いますが」
「どこにも記録はないのかしら?」
「おそらく。当時の彼らにしてみれば、すぐ手に入る貴重な資源だったはずです。何も手をつけずにいたはずはないでしょう。いまだに手付かずに残っているとは思えません」
「それもそうね。それでどうするつもり?」
「移動手段については、どうしようもないと考えて、地図の方に着目したいと」
「地図に?」
「ええ。正確な地図を作成すべきです。今ある地図は、模写され続けてきて、詳細に関していえば、正確ではなくなってきています。自分たちの大陸でさえもね」
「そうなの? 今まで気にしてこなかったけど。誰もそうは言ってこなかったし」
「そうでしょうね。それほど、必要でもありませんでしたから。ですが、これからは必要性がでてきます。各国への働きかけも正確な地図があれば、それを交渉ネタに使えるかもしれませんからね」
「なるほど。それで地図の作成方法は? おそらく測量が必要でしょう?」
「ええ。衛星があればいいのですが。ですが、〈スベルト王国〉とその周辺国だけであれば、バルーンから収集できると思います。ほかの地域は、航空機で。高度が高ければ、攻撃も受けないでしょうから。バルーン用のセンサーを用意すれば、とりあえずの地図作成にはいけるはずです。コンピューターもありますから各種解析も行なえるでしょう。必要な知識もあります」
「そう。とりあえず、評議会に持ちかけてみましょう」
それは実行に移された。
まず、バルーンから得られた情報を収集して、〈スベルト王国〉と周辺国の地図を作成。
今までの地図と比較すると、大きな違いが現れた。
それは、開発を続けてきた〈スベルト王国〉の本来の規模だった。
それ自体に驚く評議会メンバーたち。
さらに近場はジェット機、遠場は飛行船を使って、測量を続けた。
北大陸の地図が完成していく。
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