【109.軍艦の寄港】
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スエツグのデータ修正が終わった。
そこで彼には、本来の仕事である〈スベルト〉の視察をさせることに。
最初、彼は、市場やスーパーマーケットを見てまわり、新たな食材や調味料を見つけては、味わった。
もちろん、それはミタニ師父の糧となり、新たな料理がテーブルに載ることにもなる。
***
〈ラクロア〉の王の船に付き添っていた軍艦が戻ってきた。
その動向は、無線通信で常に報告されていた。
行きよりも帰りの方が難航した、という。
途中で燃料がつきて帆走航行のみにせざるを得なくなった、と。
ここまでの遠洋航海は、今までに経験がなかったのだ。
だが、乗組員たちは、艦長の指示に従って、黙々と任務をこなした。
問題だったのは、食料だ。
水は海水から作れるからいいのだが。
結果は、港に辿り着くまでに最後の食料が底をついてから、残り4日を水だけで過ごしていた。
到着したとき、乗組員たちは、やせていた。
医師による診察の結果、健康には異常がないと判明。
その後、消化しやすいものから食べはじめ、すぐに豪勢な食事を楽しめるようになる。
軍艦は、ただ戻ってきたわけではなかった。
〈ラクロア王国〉からのさまざまな物資を積んできたのだ。
その中には、各種保存食料も含まれていたが、乗組員は一切、手をつけていなかった。
ノドから手が出るくらいに欲しかっただろうに。
それはともかく、積まれていた物資には、貴重な知識である書物も含まれていた。
王室図書館にそれらは運び込まれた。
王室図書館は、知識を集める場所でもある。
王室文化院の主要メンバーが、その書物のデータ化を受け持つことになった。
テオもそのひとりだ。
スキャンしたイメージをOCRするのが、彼の仕事なのだ。
残念ながらオレは参加メンバーではない。
オレとマリーンは、室長から自分たちの作業を優先するように言われていたのだ。
「仕方ないね」
マリーンに苦笑いして見せると、彼女は笑みを浮かべた。
「いつもどおりのことをするだけですよ、先生」
「まぁ、スキャンし終えたら見ることもできるようになるから、かまわんがね」
「〈ラクロア王国〉には、コンピューターがないんですよ」とテオ。
王室図書館から自室に帰ってくると、そう言った。
「それは知っていたよ。それで?」
「どうやって、船の設計をしたのか、わかりますか?」
「まさか、手作業ではあるまい」
「そのとおりです。〈スベルト王国〉でもコンピューターが開発される以前の時代がありました。そのころ、使われていたのが、スチーム計算機です」
「そうだってね。先日、その開発製造会社で本物を見せてもらったところだ」
「そうでしたか」
「向こうでもそれを使っていると?」
「はい。もちろん、〈ラクロア王国〉の技術者が作り上げたに違いないんですが」
テオがテーブルいっぱいに紙を広げた。
「その画像です」
ボイラーの姿はなく、製図台と入力デスクがあるだけだ。
製図面には、人間の腕部の骨のような黒いアームが伸びていて、その先端部は図面を押さえる板になっている。
入力デスクは意外と小さい。
「ボイラーは、管でつながっています。これのおもしろいところは、数値入力をするんではなく、図面のポイントを示して、必要な計算をさせるんです。あとは出てきた結果をペンで書き込むだけ」
「つまり図面どおりに計算させるわけかね?」
「そうです。フリーハンドで書かれていてもポイントを示せば、そのポイントにあった計算結果が現れるわけです」
「なるほど。なかなか考えられているね。その分、図面を正しく書くのが大変そうだが」
「それでもいちいち数値の入力をせずに済みます。もちろん、そうした数値入力もできるようになっていますがね」
「なるほど」
「ほかにもおもしろいマシンがありました」とまた紙を広げる。
そこには、頭のない人型マシンが映っていた。
脚はなく、太いタイヤが4輪ある。
「これは?」
「乗り込んで操縦するタイプのロボットです。パワードスーツですよ」
「パワードスーツというと、重いものを運んだりするための?」
「ええ。このロボット自体には、ボイラーが組み込まれていません。後ろにつながった車にボイラーを積んで、管で蒸気を送り込んでいるんです。行動範囲は限定されますが、おそらくそれで充分なんでしょう」
「なるほど。2足歩行させる必要もないだろうからね」
ほかにもいろいろと見せてくれた。
〈ラクロア王国〉の技術水準は、この惑星〈スータン〉では高い方だが、〈スベルト王国〉に比べたら1世紀は遅れているようだ。
だが、蒸気の力を利用する技術は、高いのかもしれない。
ボイラーだけを取ってみても、効率を最大限に得られる工夫が見てとれるからだ。
〈ラクロア王国〉との無線通信に、新しい情報がのせられることになった。
画像を送れるようになったのだ。
大昔、“ファクシミリ”と呼ばれた装置と仕組みは同じだ。
もちろん、解像度は低い。
カラーでもない。
それでも言葉にできないような事柄が送れるようになったことは意義深い。
映話しようにも無線では届くのにも距離があって時間がかかるし、〈ラクロア王国〉にコンピューターがなければ、それをスクリーンにも出せないのだ。
今後も工夫がされていくだろう。
コンピューター技術も導入されていくはずだ。
それから海底ケーブルも。
情報は一気に送受信される。
そうなれば、映話もできるようになる。
科学や技術は、格段の進歩を遂げるだろう。
物資搬送も船舶や飛行機で大量に運べるはずだ。
デメリットもあるだろうが、メリットの方が多いだろう。
そうなるのが、楽しみだ。
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