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落とされ人  作者: カーブミラー


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105/124

【105.マリーン・1】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 スエツグからの記憶の取り出しが終わった。

「これからどうしたらいいと思いますか?」

 スエツグは、困った顔をしている。

 取り出しが終わったあとのことを考えていなかったのだ。

「まだまだ仕事はある。取り出したイメージをOCRにかけるが、どうしても間違いが発生する。それを君が見て、訂正していくんだ」

「なるほど」

 もちろん、そんなことは、そんなに時間がかかるわけではない。

 だが、そのあいだに次のことを考えてもおける。


 彼には、日記をつけさせていた。

 〈マニ教国〉への報告は毎日しているが、まわりには“日記を提出することになっている”という話にしていたのだ。

「君が知ったこと、感じたことが素直につづられていればそれでいい」

 オレにそう言われても困惑顔だ。

「三日坊主でもいい。それをくりかえせば、立派な日記になる」

「気付いたときに書けばいい、と?」

「そういうことだね。だが、できるだけ、毎日、書くようにするんだ。それが日常になれば、考える必要はない。自然と筆が進むはずだよ」

「わかりました」

 実際、彼は、毎日をつづっていた。

 それは、〈マニ教国〉での生活で培ったものなのだろう。


 〈マニ教国〉からは、これといった連絡はない。

 オレ自身は、秘儀を使って、あちこちを覗いてはいたが。

 ある日、ふと思いたって、ひとりの女性を探してみた。

 顔を思い出し、見つけようと念を伸ばす。

 だが、念は届かない。

 声が聞こえた。

「先生」苦しそうな声。

 中断して、その声に意識を集中した。

 その声の主は、マリーン。

 胸を押さえて、うずくまっている。

 仕事の最中の休憩時間。

「どうしたね?」

「胸が……苦しくなって」

「診察室に行こう」

「いいえ。そこまででは……ただ、切なさに胸をつぶされているようで」

「切なさ? どういうことだね?」

「わかりません。こんなに苦しいだなんて」

「どちらにせよ、医師に診てもらおう」

 彼女を連れて、診察室へ。

 医師に診てもらう。

 彼女の身体のことは、医師も知っていた。

「ですが、さすがに機械の身体は、私にもわかりかねます」

「ああ、そうだった。では、誰に?」

「SXEの人間は〈スベルト〉にはいませんし」と困っている。

「ふむ」

「私はもう大丈夫です、先生」

 マリーンの顔色は、よくなっている。

 医師も手が出せないのでは仕方あるまい。

 仕事部屋に戻る。

 ふたたび、念を伸ばした。

「先生」とマリーンの声。

 ふたたび、中断して、彼女を見る。

 胸を押さえている。

「また?」

「はい」

「身体のどこかが故障しているのかな?」

「だとしたら調べようがありませんね」

「そうなるな」

 そこで秘儀を思い出した。

 透視の術を。

 だが、簡単な術ではない。

 それからミリ波透視装置を思い出した。

 そう、渡り竜レフティーや彼女の卵を透かし見た装置だ。

 自室から持ってきて、マリーンを寝かせて、その胸を見る。

 人間のような心臓が見える。

 しっかりと脈打っている。

「素人目には異常は見られないが、やはり技術者でないとわからんな」

「こんなこと、初めてです」

「そう」

 こうなったらSXEの人間を連れてくるしかない。


 その夜、オレは、テムジン大師父と念で話す。

(それは……おっしゃることはわかりますが)と困惑している。

(何か問題でも?)

(物送りの術で、惑星の外に送り出したことはないのです)

(何ひとつ?)

(はい)

(では、やってみましょう)

(ですが、見たこともない場所を指定することは)

(私の知っている場所に、物を送れば確かめられます)

 そこでまず〈マニ教国〉に跳んだ。

 術者に場所のイメージを念で見せ、念をこめたものを送り出した。

 念がこもっていれば、その周囲もわかる。

 送った場所は、オレが弁護を依頼してきた弁護士の事務所。

 テムジン大師父が送った物の周囲をイメージで見せてくれる。

 窓の外が白みだしている。

 早朝のようだ。

 弁護士が自分の机で突っ伏していた。

 どうやら徹夜で、次の弁護の調べ物をしていたらしい。

 テーブルの上にある新聞が目に留まる。

 それを送った物とともに送ってもらう。

 目の前に現れた。

「これで実験は成功しましたな」

「はい。術者も問題ないようです」

 術者は、雑作もない、といった顔。

「よろしい。問題は、どうやって、マリーンをSXEに診せるかだな」

 よくよく考えた末に、ひとつの部屋を指示して、まずは自分が跳ぶことにした。

 そこならSXEとの連絡が取れる。

 部屋に着くと、出ていった当時と変わらない。

 ただ、ホコリがうっすらと積もっていた。

 その部屋は、オレの隠れ家のひとつだった。

 各種インフラは、まだ通じていた。

 そこからSXEに映話申請する。

 受付が出てきたので、自分の名前とID番号を言う。

 ID番号を使う日が、また来るとは思わなかった。

 受付が確認する。

「ダニエル・ボーダー様、確認が取れました。今回はどのような?」

 “ダニエル・ボーダー”は、当時使っていた偽名だ。

「そちらのサービスに人間の脳髄を、ロボットの身体に組み込んだことがおありですね」受付が否定しようと口を開きかけたのをさえぎる。「いや、否定なされても結構ですが、すでに私の知人がそうした身体でいることを、確かめております。透視装置で胸部も見ました」

 受付は、困惑顔だ。

「それで、わたくしどもにどうしろと?」

「その知人が苦しんでおりましてね。心臓が痛むと」

「心臓が、痛む? 少々、お待ちを」

 受付は、手元のパネルを操作する。

 それから首を振った。

「そのかたが、おっしゃるような身体であるなら、そのようなことが起こるとは考えられませんが」

「ですが、実際に彼女は苦痛を訴えています」

「そのかたのお名前を」

「マリーン・ブルックス。確か、22歳だったかと」

 受付がまた操作をする。

「そのかた、通話に出していただくわけには?」

「ここにいません。面通しが必要、ですね。わかりました。後日、彼女と一緒に映話するとしましょう。それでよろしいですか?」

「はい」

 映話を終了した。

 テムジン大師父に、帰還要請の念を送る。

 彼女のもとに戻った。

「どうでしたか?」

「なんとか。まずは、マリーンを実際に確認してもらわないとなりません。彼女を連れて、ふたたび、向こうに飛びます。問題は、彼女にどうやって術をかけるかだが」

 ふたりで考える。

 テムジン大師父が顔を上げた。

「夢の中だ、と思わせては?」

「うん、よさそうだ。とすれば、彼女が眠ってからか」


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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