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落とされ人  作者: カーブミラー


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104/124

【104.手業(てわざ)】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 術の使用には、誘惑がつきものだった。

 その便利さが思っていた以上なのだ。

 もちろん、適切な使用を心掛ければ、今回のような事件の解決も行なえる。

 そうしたことは、文献にも書かれていた。


 そう言えば、記憶した文献の中に、予言について書かれたものがないことに気付いた。

 そのことをテムジン大師父に訊く。

(予言の書は)と語るテムジン大師父。(秘儀とは別に管理されています。誰にも見られることがないようなところに。それは予言の書を見た者が、悪用するのを防ぐためです)

(なるほど。いや、それならそれで結構です。記憶するのを忘れたのかと思っただけですので。考えてみれば、そのとおりですね。未来がわかっていたら、それを活用したくなる)

(はい。我々の中でも予言の書が存在することを知る者は、大師父に限られています。書のありどころも)


 しかし、術によって、新たな知識の取り出しができるかもしれない。

 他人の記憶からだ。

 だが、意識を集中してもらわなければ、特定の記憶を抽出するのは難しい。

 そうした点を考えると、あまり使えない、と思った。

 それにオレが術が使えることは今のところ、誰にも内緒にしている。

 言ったところで、信じてはもらえない。

 テオにもマリーンにも「できたらどうかな?」と訊いてみたが、ふたりとも「できたらいいですね」と笑うばかりだ。

 超能力は、一般には手品師が客を騙すための術だと思われている。

 だから科学者も本気で調べようとしない。

 そうした文献もオレの書庫には少ない。

 もともとが少ないのだが。


 手品か。

 あれも詐欺といってもいいだろう。

 だが、もともとそういうものだから、みんな積極的にお金を出す。

 自分から騙されに行くのだ。

 サーカス巡業を見るのと一緒だ。

 だから犯罪とは言えない。


 たまたま、陛下がつまらなそうに窓の外を見ているのを御見掛けした。

「陛下、どうされましたか?」

 こちらを見る陛下。

「おお、パオロか。なんでもない。ただな、白一色でつまらん景色だと思ってな」とまた外を見る。

「確かに。春はまだまだですな」

「うむ。何か気分転換になるようなことでもないか?」

「気分転換ですか……では」

 オレは財布から一枚のコインを取り出した。

「まずは、準備体操を」

 コインを右手の指の背中で左右に躍らせる。

 陛下の目がそれを見て、身体ごと引き寄せられた。

 それから左手でも同じことをした。

「では、陛下。どちらの手の中にコインがあるか、当ててください」

 うなずく陛下。

 コインを弾くと、ピンッと音を立てて空中に飛び上がった。

 落ちてくるコインを右手で受け、左手で覆う。

 その上下の手を揉み手にして、中に空間を作り、シャッフルするように中でコインを転がした。

 それからパッと両手を離し、陛下の前に両のこぶしを突き出した。

「さぁ、どちらに入っているでしょう」

「こちら」と指差す陛下。

 そちらを開いて見せる。

 コインはない。

 反対側を開く。

「そちらであったか」

「続けましょうか」

 ふたたび、同じことをして、陛下に突き出す。

 陛下が指差す。

 そちらを開くが、コインはない。

 それを何度もくりかえすうちに、陛下はムキになってきた。

 全然、当たらないからだ。

「なぜだ!」と終いには怒り出す始末。

「あはは」と笑うオレ。「何度やろうと同じですよ、陛下。私はズルをしているのですから」

「ズルをしていただと?」とオレの顔を怒りの表情で見た。

「はい。手品ですよ、陛下」

 それを聞いて、陛下の表情が変わった。

 怒りから驚きに。

「おまえはそんなことまでやるのか」

「たいした手品はできませんが、話のネタくらいには役立ちます」

 陛下は笑顔になって、オレの手を取ると、引っ張りだした。

「陛下、どちらへ?」

「みなの前で、やって見せてくれ」

「道具の準備もありません。できることなど、たかが知れています」

「かまわん。多少なりともみなの目を楽しませてくれ」

 連れていかれたのは、王室評議会の部屋だ。

 みな、仕事に疲れている顔。

 それでも仕事に集中しようとしている。

「みなのもの! 仕事の手を休めよ!」と命令する陛下。

 評議会の面々が顔を上げる。

 反応はのろい。

 疲れているせいだ。

「パオロがおもしろいことをしてくれるぞ」

 オレに視線が集まる。

 いやはや、まいったな。

 オレは、その場にある使えるものを集めた。

 コップやペンやその他諸々。

 陛下は、御自分の席についた。

「ではでは、紳士、淑女の皆様方。わたくし、パオロ・モーガンがつたないながら、ごらんに入れましょう。あなたがたは、決して騙されないと思いますが」

 それからオレは手品をはじめた。

 みんなの目が次第に引き込まれていく。

 絶対に騙されないぞ、という目つきをして。

 そんな彼らを煙に巻く。

 比較的簡単な手品だ。

 コツさえ覚えれば、誰でもできるような。

 だが、彼らには目新しかったようだ。

「これにて、パオロ・モーガンの興行を終わらせていただきます」と一礼。

「ちょっと待ってください!」と評議員のひとり。「私のペンは?」

「もうお返しいたしましたよ。ほら、胸ポケットに」と指差す。

 そこには、彼から借りたペンが納まっていた。

 彼がそれを見て、「いつのまに」と驚く。

 みんなから拍手が沸き起こった。

 陛下も喜んでおられる。

「パオロ、よい余興であった。ありがとう」と陛下。

「道具があれば、もっといろいろといたしたのですが」

「では、道具を集めておけ。のちほど、披露してもらう」

「どちらで?」

「王子や王女たちの前でだ」


 目の前には、さまざまな年齢の子どもたちがいた。

 人数はさだかではないが、150人くらいだろうか。

 肌の色、髪の色、目の色、年齢、すべてがまちまちだ。

 だが、仲よさそうではある。

 陛下も彼らに交じっている。

 うれしそうだ。

 大人といえるのは、オレと陛下の秘書だけ。

 これだけの王子・王女がいるとは思わなかった。

 10代後半の姿はない。

 確か、それぞれの能力に合わせた教育を行なっているはずだ。

 だから、それを合わせれば、かなりの数の子どもがいることになる。

 それはさておき、さっそくはじめる。

「では、手元にタネも仕掛けもないことを、お見せするために袖をまくっておきましょう。本当は寒いので、嫌なのですが」

 オレは、両袖をめくり上げ、彼らにしっかりと見せる。

「まずは、準備体操」

 陛下に見せたのと同じ、コインの移動を見せる。

 それだけでも食いついてきた。

「ここからが本番」

 簡単な手品からはじめる。

 子どもたちは初めて見るのだろう、すぐに興味深げに見入り、いつのまにかオレのまわりに陣取っていた。

 みな、真剣だ。

「ではでは、誰かに手伝ってもらいましょうかね」

 ほとんど全員が手を挙げる。はい、はい、と。

「みんなに笑われてもかまわない人がいいんだが?」

 “ええ?”と手が引っ込んでいく。

 何人か残った。

 その中からひとりの男の子を選んだ。

 出てきてもらって、イスに座ってもらう。

「君には、紙のボールが、どちらの手に入っているかを当ててもらいます。簡単だろう?」

 彼がうなずく。

 紙を手に取り、丸めた。

 みんなの方を見て、「何が起こってもみなさんはお静かに。いいですね?」

 はぁい、と楽しそうな返事が返ってくる。

「では、はじめましょう」

 彼の目の前で、紙のボールを左右の手に軽く持ち替える。

 それをじっと目で追う彼。

 そのあいだにまわりから“えっ?”という驚き。

 だが、誰も声を発しない。

 パッと彼の前に両のこぶしを突き出した。

「さぁ、どっちにあるかな?」

 クスクス笑いが、まわりから広がる。

 彼が、左を選んだ。

 オレは、左の手のひらを開いて見せた。

「残念。ならこちらにあるのかな?」と右側も開いて見せた。

「あれ? ない」

 そう、手のひらは、両方とも何も持っていない。

 手のひらを裏返して見せる。

 彼は首を傾げている。

「では、もう一度。今度は当ててくれよ」

「はい」と呆気に取られながら、彼は答えた。

 同じことを繰り返す。

 さっき驚いたところで、今度は笑いが起きた。

 彼にこぶしを突き出す。

「さぁ、どっちだ?」

「こっち」

 今度も左側。

「いいのかな?」

 彼がうなずく。

「では」

 オレが左側を開いて見せる。

 ない。

 右側も開くが、ない。

「ええ?」

 それを何度もくりかえすが、彼は正解に辿り着かない。

 まわりでは、笑い声が上がるばかり。

 あんまりやるとみんなが飽きてしまうので、適度なところで種明かし。

「じつは、こうやってたんだよ」

 オレは、彼にわかりやすいようにスローモーションで実演して見せた。

 ところが、彼は気がつかない。

 そこでまた笑いが起こる。

「なんで気がつかないんだよ」という声が上がる。

 その声に答えた。「意外と見えていないんだよ」

 もう一度、やった。

 今度も彼はわからない。

「あはは。後ろを見てごらん」

「後ろ?」

 彼は自分の身体をひねって見た。

 彼の後ろには、たくさんの紙のボールが床一面に転がっていた。

「ええ? じゃぁ、ずっと放り投げてたの?」

「そういうことだね」

 彼の身体から力が抜けた。

 みんなから大きな笑いが起こる。

「ご苦労様。彼に盛大な拍手を」

 みんなから拍手が沸き起こる。

 その中を彼が自分の席に戻っていく。

「これにて、わたくしの興行を終わらせていただきます」と丁寧に一礼した。

 拍手はさらに大きくなった。

 その場を辞そうとすると、手品に興味を持った子どもたちが、オレのまわりを取り囲む。

 “あれはどうやったの?””教えて!”という声。

 その声にひとつずつ答えていく。

 教えても害はない。


 興行を終えて、興行主と部屋を出る。

「ありがとう、パオロ」と陛下。

「どういたしまして。陛下の御采配には感服いたしました」

「みな、城内での勉強だけに飽き飽きしてたのだ」

「陛下も?」

 うなずく。

「今年の雪は、おまえも知ってのとおり、大雪だ。外に出たくても出られん。みな、いろいろと鬱積(うっせき)している」

「そうですね。私の手品で喜んでいただけるなら、うれしい限りです」

「手品師がこんな身近にいるとは思わなかった」

「あはは」

「だが、なぜ、手品を?」

「話のネタに。ビジネスをしていると目新しいものがなくなってしまい、気がつけば、言い争いになってしまうものです。その気がなくても」

「なるほど。だが、あそこまで手品を覚える必要はないのではないか?」

「ええ、まぁ。本当は、もっと本格的な手品を覚えようとしたんですが、タネがわからなかったり、私の手では難しかったりしたもので。要するにハマっていたんですよ」

「ああ、なるほどな」

 実際、手品師をやってみようかとも思っていたのだ。

 だが、アマチュアレベルでは、たいしたこともできない。

 だから諦めた。

 ただそれだけなのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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