【104.手業(てわざ)】
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術の使用には、誘惑がつきものだった。
その便利さが思っていた以上なのだ。
もちろん、適切な使用を心掛ければ、今回のような事件の解決も行なえる。
そうしたことは、文献にも書かれていた。
そう言えば、記憶した文献の中に、予言について書かれたものがないことに気付いた。
そのことをテムジン大師父に訊く。
(予言の書は)と語るテムジン大師父。(秘儀とは別に管理されています。誰にも見られることがないようなところに。それは予言の書を見た者が、悪用するのを防ぐためです)
(なるほど。いや、それならそれで結構です。記憶するのを忘れたのかと思っただけですので。考えてみれば、そのとおりですね。未来がわかっていたら、それを活用したくなる)
(はい。我々の中でも予言の書が存在することを知る者は、大師父に限られています。書のありどころも)
しかし、術によって、新たな知識の取り出しができるかもしれない。
他人の記憶からだ。
だが、意識を集中してもらわなければ、特定の記憶を抽出するのは難しい。
そうした点を考えると、あまり使えない、と思った。
それにオレが術が使えることは今のところ、誰にも内緒にしている。
言ったところで、信じてはもらえない。
テオにもマリーンにも「できたらどうかな?」と訊いてみたが、ふたりとも「できたらいいですね」と笑うばかりだ。
超能力は、一般には手品師が客を騙すための術だと思われている。
だから科学者も本気で調べようとしない。
そうした文献もオレの書庫には少ない。
もともとが少ないのだが。
手品か。
あれも詐欺といってもいいだろう。
だが、もともとそういうものだから、みんな積極的にお金を出す。
自分から騙されに行くのだ。
サーカス巡業を見るのと一緒だ。
だから犯罪とは言えない。
たまたま、陛下がつまらなそうに窓の外を見ているのを御見掛けした。
「陛下、どうされましたか?」
こちらを見る陛下。
「おお、パオロか。なんでもない。ただな、白一色でつまらん景色だと思ってな」とまた外を見る。
「確かに。春はまだまだですな」
「うむ。何か気分転換になるようなことでもないか?」
「気分転換ですか……では」
オレは財布から一枚のコインを取り出した。
「まずは、準備体操を」
コインを右手の指の背中で左右に躍らせる。
陛下の目がそれを見て、身体ごと引き寄せられた。
それから左手でも同じことをした。
「では、陛下。どちらの手の中にコインがあるか、当ててください」
うなずく陛下。
コインを弾くと、ピンッと音を立てて空中に飛び上がった。
落ちてくるコインを右手で受け、左手で覆う。
その上下の手を揉み手にして、中に空間を作り、シャッフルするように中でコインを転がした。
それからパッと両手を離し、陛下の前に両のこぶしを突き出した。
「さぁ、どちらに入っているでしょう」
「こちら」と指差す陛下。
そちらを開いて見せる。
コインはない。
反対側を開く。
「そちらであったか」
「続けましょうか」
ふたたび、同じことをして、陛下に突き出す。
陛下が指差す。
そちらを開くが、コインはない。
それを何度もくりかえすうちに、陛下はムキになってきた。
全然、当たらないからだ。
「なぜだ!」と終いには怒り出す始末。
「あはは」と笑うオレ。「何度やろうと同じですよ、陛下。私はズルをしているのですから」
「ズルをしていただと?」とオレの顔を怒りの表情で見た。
「はい。手品ですよ、陛下」
それを聞いて、陛下の表情が変わった。
怒りから驚きに。
「おまえはそんなことまでやるのか」
「たいした手品はできませんが、話のネタくらいには役立ちます」
陛下は笑顔になって、オレの手を取ると、引っ張りだした。
「陛下、どちらへ?」
「みなの前で、やって見せてくれ」
「道具の準備もありません。できることなど、たかが知れています」
「かまわん。多少なりともみなの目を楽しませてくれ」
連れていかれたのは、王室評議会の部屋だ。
みな、仕事に疲れている顔。
それでも仕事に集中しようとしている。
「みなのもの! 仕事の手を休めよ!」と命令する陛下。
評議会の面々が顔を上げる。
反応はのろい。
疲れているせいだ。
「パオロがおもしろいことをしてくれるぞ」
オレに視線が集まる。
いやはや、まいったな。
オレは、その場にある使えるものを集めた。
コップやペンやその他諸々。
陛下は、御自分の席についた。
「ではでは、紳士、淑女の皆様方。わたくし、パオロ・モーガンがつたないながら、ごらんに入れましょう。あなたがたは、決して騙されないと思いますが」
それからオレは手品をはじめた。
みんなの目が次第に引き込まれていく。
絶対に騙されないぞ、という目つきをして。
そんな彼らを煙に巻く。
比較的簡単な手品だ。
コツさえ覚えれば、誰でもできるような。
だが、彼らには目新しかったようだ。
「これにて、パオロ・モーガンの興行を終わらせていただきます」と一礼。
「ちょっと待ってください!」と評議員のひとり。「私のペンは?」
「もうお返しいたしましたよ。ほら、胸ポケットに」と指差す。
そこには、彼から借りたペンが納まっていた。
彼がそれを見て、「いつのまに」と驚く。
みんなから拍手が沸き起こった。
陛下も喜んでおられる。
「パオロ、よい余興であった。ありがとう」と陛下。
「道具があれば、もっといろいろといたしたのですが」
「では、道具を集めておけ。のちほど、披露してもらう」
「どちらで?」
「王子や王女たちの前でだ」
目の前には、さまざまな年齢の子どもたちがいた。
人数はさだかではないが、150人くらいだろうか。
肌の色、髪の色、目の色、年齢、すべてがまちまちだ。
だが、仲よさそうではある。
陛下も彼らに交じっている。
うれしそうだ。
大人といえるのは、オレと陛下の秘書だけ。
これだけの王子・王女がいるとは思わなかった。
10代後半の姿はない。
確か、それぞれの能力に合わせた教育を行なっているはずだ。
だから、それを合わせれば、かなりの数の子どもがいることになる。
それはさておき、さっそくはじめる。
「では、手元にタネも仕掛けもないことを、お見せするために袖をまくっておきましょう。本当は寒いので、嫌なのですが」
オレは、両袖をめくり上げ、彼らにしっかりと見せる。
「まずは、準備体操」
陛下に見せたのと同じ、コインの移動を見せる。
それだけでも食いついてきた。
「ここからが本番」
簡単な手品からはじめる。
子どもたちは初めて見るのだろう、すぐに興味深げに見入り、いつのまにかオレのまわりに陣取っていた。
みな、真剣だ。
「ではでは、誰かに手伝ってもらいましょうかね」
ほとんど全員が手を挙げる。はい、はい、と。
「みんなに笑われてもかまわない人がいいんだが?」
“ええ?”と手が引っ込んでいく。
何人か残った。
その中からひとりの男の子を選んだ。
出てきてもらって、イスに座ってもらう。
「君には、紙のボールが、どちらの手に入っているかを当ててもらいます。簡単だろう?」
彼がうなずく。
紙を手に取り、丸めた。
みんなの方を見て、「何が起こってもみなさんはお静かに。いいですね?」
はぁい、と楽しそうな返事が返ってくる。
「では、はじめましょう」
彼の目の前で、紙のボールを左右の手に軽く持ち替える。
それをじっと目で追う彼。
そのあいだにまわりから“えっ?”という驚き。
だが、誰も声を発しない。
パッと彼の前に両のこぶしを突き出した。
「さぁ、どっちにあるかな?」
クスクス笑いが、まわりから広がる。
彼が、左を選んだ。
オレは、左の手のひらを開いて見せた。
「残念。ならこちらにあるのかな?」と右側も開いて見せた。
「あれ? ない」
そう、手のひらは、両方とも何も持っていない。
手のひらを裏返して見せる。
彼は首を傾げている。
「では、もう一度。今度は当ててくれよ」
「はい」と呆気に取られながら、彼は答えた。
同じことを繰り返す。
さっき驚いたところで、今度は笑いが起きた。
彼にこぶしを突き出す。
「さぁ、どっちだ?」
「こっち」
今度も左側。
「いいのかな?」
彼がうなずく。
「では」
オレが左側を開いて見せる。
ない。
右側も開くが、ない。
「ええ?」
それを何度もくりかえすが、彼は正解に辿り着かない。
まわりでは、笑い声が上がるばかり。
あんまりやるとみんなが飽きてしまうので、適度なところで種明かし。
「じつは、こうやってたんだよ」
オレは、彼にわかりやすいようにスローモーションで実演して見せた。
ところが、彼は気がつかない。
そこでまた笑いが起こる。
「なんで気がつかないんだよ」という声が上がる。
その声に答えた。「意外と見えていないんだよ」
もう一度、やった。
今度も彼はわからない。
「あはは。後ろを見てごらん」
「後ろ?」
彼は自分の身体をひねって見た。
彼の後ろには、たくさんの紙のボールが床一面に転がっていた。
「ええ? じゃぁ、ずっと放り投げてたの?」
「そういうことだね」
彼の身体から力が抜けた。
みんなから大きな笑いが起こる。
「ご苦労様。彼に盛大な拍手を」
みんなから拍手が沸き起こる。
その中を彼が自分の席に戻っていく。
「これにて、わたくしの興行を終わらせていただきます」と丁寧に一礼した。
拍手はさらに大きくなった。
その場を辞そうとすると、手品に興味を持った子どもたちが、オレのまわりを取り囲む。
“あれはどうやったの?””教えて!”という声。
その声にひとつずつ答えていく。
教えても害はない。
興行を終えて、興行主と部屋を出る。
「ありがとう、パオロ」と陛下。
「どういたしまして。陛下の御采配には感服いたしました」
「みな、城内での勉強だけに飽き飽きしてたのだ」
「陛下も?」
うなずく。
「今年の雪は、おまえも知ってのとおり、大雪だ。外に出たくても出られん。みな、いろいろと鬱積している」
「そうですね。私の手品で喜んでいただけるなら、うれしい限りです」
「手品師がこんな身近にいるとは思わなかった」
「あはは」
「だが、なぜ、手品を?」
「話のネタに。ビジネスをしていると目新しいものがなくなってしまい、気がつけば、言い争いになってしまうものです。その気がなくても」
「なるほど。だが、あそこまで手品を覚える必要はないのではないか?」
「ええ、まぁ。本当は、もっと本格的な手品を覚えようとしたんですが、タネがわからなかったり、私の手では難しかったりしたもので。要するにハマっていたんですよ」
「ああ、なるほどな」
実際、手品師をやってみようかとも思っていたのだ。
だが、アマチュアレベルでは、たいしたこともできない。
だから諦めた。
ただそれだけなのだ。
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