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落とされ人  作者: カーブミラー


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102/123

【102.“クマモドキ”】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 白銀が王都を覆いつくしている。

「今年は、降雪量が多いな」とオレより先に落とされた人たちが言っている。

 外出が制限されてしまっている。

 それでも王都の人々は、仕事も生活も変わりなくできていた。

 王都の地下はつながっていて、それで行き来ができるのだ。

 地上の店舗は、一時的に地下へと移動している。

 王都から出るのは、ひと苦労だが。


 〈エルゼンタール〉のようすは、酷いようだ。

 雪に閉ざされてしまい、身動きも取れない。

 まぁ、毎年のことなのだそうだが。

 それでも今年は動物を狙った猟もできそうにないという。

「男たちは、不満のはけ口を求めてるよ」

 老婆改め、ドクター・リビングストンは、そう言った。

 フェイスでの映話だ。

「ケンカも増えてきている。力仕事でもあればいいんだがね」

「こちらでも考えてみます」

「すまないね、そっちも忙しいだろう?」

「それほどでも。カマドの方はどうですか?」

「悪くないね。具材が増えたおかげで、料理のレパートリーも増えたし。(まき)の減る量も例年ほどじゃないようだ」

「よかった。では、食材の備蓄に関しては、不足はないと考えても?」

「そうだね。それでも新鮮な肉があればとは思うんだ」

「なるほど」

 もう少し話して、映話を終えた。

 仮設住宅に住むサリオスの方はと、調べてみる。

 仮設住宅では、何度も雪下ろしをしていた。

 積もったままにしておけば、住宅はつぶれてしまうだろう。

 地元の軍隊が出動しているようだ。

 何かあったのだろうか?

 こういうときに秘儀が使えればいいのに、と思った瞬間に気がついた。

 使えばいいのだ。

 オレは、意識をスコット・ベクスターに集中した。

 スコットは、〈エルゼンタール〉の守備隊の隊長だ。

 以前に調査旅行に行った際の護衛を務めてくれた。

 感覚共感の術を使って、スコットから情報を引き出す。

 感覚共感の術は、以心伝心の術の延長で、相手が感じていることを同じように感じる。

 これは、比較的会得しやすい。

 オレは、すでに身につけていた。

 今、スコットは、白銀の世界を歩いていた。

 短いスキー板を履いて。

 胸に自動小銃を抱えている。

 身体は寒さは感じているようだが、感覚を意識的に切り離しているようで、何も感じない。

 ただ、無念と怒り、それに不安が混在して感じられる。

 肩や背中が重い。

 重装備のようだ。

 耳には、背後からの小さな音。

 どうやら部下と一緒に行軍しているらしい。

 だが、何が起こったのかまではわからない。

 注意しつつ、話しかける。

(スコット)

 オレの声を聞いて、彼はハッと我に返り、あたりを見回す。

 彼は、頭を振って、(こんなところに彼がいるはずがない)と頭の中で呟いた。

(そうだよ。こんなところにいるはずがない)

(そうだよな。オレは頭がおかしくなったんだな)

(あはは。そうかもな。ところで、どうして行軍してるんだっけ?)

(おいおい、忘れるなよ。いや、忘れたいな。忘れて、宿舎の風呂でボーッとしていたいよな)

(そうだな。それで?)

(なんでかって? いくつもの小洞窟が襲われてる。襲撃者を捕まえなきゃならん。それでこうやって行軍しているんだ。そうだろう?)

(そうだったな。被害者はどうだった?)

 イメージが浮かんだ。

 洞窟内が荒らされ、そこに住んでいた家族は殺されていた。

(酷いもんさ。あそこまで惨殺しなくてもいいのに)

 彼からは無力感と嫌悪感が伝わってくる。

(そうだな。襲撃者の特徴は?)

(はっきりとはわかっていない。だが、人間じゃなさそうだ。鋭利な刃物で切りつけられているわけじゃなく、まるで太い丸太で殴られたかのようだった。獣だとしたら大型だ。そのくせ、人間を食うことはしていない。肉食じゃないってことだ。いや、干し肉や干し魚も食べてるから雑食か。果実も食われてたし)

(思い当たる獣は?)

 彼は、首を振った。

(そんな獣がいるなんて、聞いたことがない)

(そうだな。知ってたらオレにもわかるもんな)

(そういうことだ。……ところで、おまえは本当にオレなのか?)

(たぶんな。それとも彼が語りかけているとか? そんなこと、信じられるか?)

 彼が前方を警戒して見る。

(彼なら知ってるかもな、犯人を)

(そうかもな。さて、自分の仕事に集中するとしようや)

(そうだな)

 オレは、彼から離れた。

 さて、地元の軍隊が動いている理由がわかった。

 だが、襲撃者の正体がわからない。

 フェイスで、ドクター・リビングストンに電話する。

 しばらく待った。

 彼女が出た。

「どうかした?」

「すみません、ドクター。忙しいですか?」

「いいえ。ちょっと子どもを診ていただけよ。もう終わったわ。それで?」

「ご存知かどうか……そちらの獣で大型の雑食動物を知りませんか?」

「大型の雑食動物? また、妙なことを知りたがるわね」

「ええ、まぁ。それでどうでしょう?」

「ちょっと待って。男たちに訊いてみるわ」

 フェイスが塞がれる音がガサガサとする。

 しばらく待つ。

 また、ガサガサと音がした。

「もしもし?」

「はい」

「“クマモドキ”というのがいるそうよ。大型だけど、この時期は冬眠しているらしいわ」

 ふむ、それが出てきているのか。

「見たことのある人を出してもらえますか?」

「ええ。ピーター」

 フェイスがピーターと呼ばれた男に手渡された。

「もしもし、ピーターといいます」

「パオロ・モーガンといいます。その“クマモドキ”の特徴を教えてください」

「特徴ですか。えっと」

 オレは、ドクター・リビングストンに入り込んだ。

 彼女の目は、電話しているピーターを見つめていた。

 彼が説明している。

 ドクターからピーターに移る。

 ピーターは、自分の見た“クマモドキ”を思い浮かべていた。

 遠めに見えたそれを彼は拡大していた。

 “クマモドキ”は、確かに大型だった。

 熊に似てはいる。

 だが、頭が小さく、アゴがしっかりしている。

 耳が大きい。

 大きい身体は、茶色い毛皮に包まれている。

 その四肢は太く、スコットが言っていたような丸太のような前肢だ。

 後肢は短く、しっかりとしている。

 その身体は、まるでゴリラのようだ。

 立ち上がれば、2m近いかもしれない。

 その姿を記憶にとどめ、オレはフェイスに意識を集中した。

 自然に術が解ける。

「……という感じなのですが」

「その“クマモドキ”は、凶暴なのですか?」

「縄張りに入っても人間を見たら逃げていきます。人間を襲ったという話はありません」

「食べているのは?」

「見た限りでは、果実や木の実。川辺で魚を食べていた、という者もいます」

「なるほど」

 スコットの話と合う。

「わかった。ありがとう」

「いえ。ドクターに代わります」

「もしもし?」とドクター。

「どうやら探している動物のようです」

「そう。その“クマモドキ”がどうかしたの?」

 ここで本当のことを話すべきだろうか、と考える。

 いや、やめておこう。

「そちらでそれらしい動物を見た人がいましてね。その人が連絡をくれたんです。初めて見たから、もしかしたら希少種ではないかと」

「ああ、なるほど」

「こちらでは誰も知らないというので、それでそちらに訊いてみたわけです」

「希少種だったら?」

「保護対象にするでしょうね。まだなんとも言えませんが」

「そう」

「では、これで。何かあったらいつでもどうぞ」

「ありがとう。またね」

 電話を切る。

 寝室から出ると、朝食とテオが待っていた。

「電話ですか? ずいぶんと長かったですが」

「ああ」


 事務室の作業部屋にマリーンとともに入る。

「先に違うイメージを取り出すからね」

「違うイメージ?」と首を傾げる。

「動物だよ」

 彼女が微笑む。

「楽しみです」

「可愛いわけじゃないがね」

 さっそく“クマモドキ”のイメージを思い描いて、画面に出す。

 それをコンピューターに記録した。

 マリーンが「本当ですね、可愛い感じじゃないわ」とホオをふくらます。

「だろう。さて」

 これをどうすればいいだろうか?

 スコットにただ送ったのでは、術のことがバレてしまう。

 そこでフェイスで電話した。

「どうしました? 先生」

 かさついた声。

 空気が乾燥しているのだろう。

「ふと、君のことを思い出したんだ。そういうときは、何かあるもんでね。それで電話を入れたんだ」

「すごいな。さっき先生のことを思い出してたんですよ」

「以心伝心だね」

「先生がご存知だといいんですが……この惑星の動物については詳しいですか?」

「一部だね。見たことはないが、話を聞いた程度のものもいる。動物を探しているのかね?」

「ええ」

 そこで彼が特徴を話しはじめる。

 それを適当に相槌を入れて聞く。

「それならたぶん、“クマモドキ”だろう」

「“クマモドキ”?」

「うん。鮮明ではないが、画像がある。送ろうか?」

「助かります」

 コンピューターから彼のフェイスに送った。

「人間を襲ったことはないという話だった。だが、この時期は冬眠していて、姿を現すことはないそうだ」

「そうですか。わかりました。ありがとうございます」

「いいさ。そっちに行くことがあったら、また頼むよ」

「了解です」

 電話を切る。

「これでよし、と」

「相手が必要としていたのをわかってて、イメージを?」とマリーン。

 イメージを取り出したあとで、そんな電話のやり取りをしていたのを見れば、そう勘繰ったとしても不思議はない。

「まぁね。さて、仕事仕事」

 彼女は納得できなさそうではあったが、本来の仕事に集中しだした。


 数日後。

 スコットからの電話。

「おかげで助かりました」

「それで?」

「ええ。やはり、“クマモドキ”でした。じつは」とことの次第を話すスコット。「というわけでして」

「なるほど。“クマモドキ”は?」

「撃ち殺しました。強暴だったもので」

「どうしてか、わかるかね?」

「おそらくですが、冬眠に入る前に充分な食料を蓄えられなかったんだと思われます。周辺の人々が新しく知った食料を、めいいっぱい採ってしまったので」

 そういうことか。

 つまり、オレが地元民に教えたのは、“クマモドキ”の冬ごもりの食料だったわけだ。

「“クマモドキ”には、悪いことをしてしまったな」

「今後は、多少は残すように、周辺住民に勧告するつもりです」

「そうだね」

「では」

 切れた。

 “クマモドキ”か。

 もしかしたらこうやって、動物たちが追いやられていくのかもしれないな、人間に。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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