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目を閉じれば  作者: さち
第3章 幾度となく訪れる暗闇へ
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31/33

過呼吸

あの人は決して

顔には手を出さなかった


そこはやっぱり頭がいいのか

身体的な暴力は背中を殴られたり、

物を投げつけられたりだった

言葉の暴力は目には見えない

だからこそ際限がない


同級生からも

「自分のこと可哀想って思ってんのかよ」

「何しても笑顔とか怖い」

「こんだけやってても、大丈夫ってなに

気持ち悪い」


何をされても笑顔でいようと

弱味を握られたくなかった


それが裏目に出た結果だったのだろうか


何をされても大丈夫って言ってたのは

お前たちに言ってたわけじゃない

自分に言い聞かせてたのだ

そうしないと本当に壊れてしまいそうで



毎日、幾度となく右手に握られるカッター

左の前腕から何本も出る赤い線

そこから感じる痛みは

今日も生きようと思える

唯一のもの


この問題を解き終わったら切ろう

周りから見たら痛々しい行為

けれど、それは自分を癒してくれる

唯一のもの


本当は壊れているのかもしれない

けれどそれを確かめる術はない


もう、止めてくれる人も

この腕の傷を見て

頑張ったねって頭を撫でてくれる人も

泣いたら涙を拭ってくれる人も

傍にはいない

そして、その人は

自分が知らない誰かの大事な人


もう決して、自分が頼っていい人ではなかった



現に、あの人から

背中を殴られ、暴言を浴びさせられ

そのうえ

ドラマで自分を傷つけるシーンを見た


そのせいで真っ暗な部屋で

過呼吸に陥った


土曜日の21:30


まだドッジボールの練習をしてるかもしれない

けれど、いつもは終わってる時刻のはずだ


過呼吸になってから相当時間が経っていたのか

自分が必死に助けを求めて

スマホへと伸ばしたその手は

酷く震えていた


ガタガタと上手く動かない手で打った

「たすけて」

と臣史くんに送った




その文字を送信してから

どれほど時間が経ったのだろうか


いつも、10分前後で返ってくるはずの返信が来ない

ただ自分が長く感じてるだけかもしれないと思って

時間を確認した

21:50



働かない頭で

テレビを見ると

自分を傷つけてた子は

友達と笑っていた



いいな…



けれど、あまりにも自分とは程遠い

どれだけ伸ばしても届かなかった

その願いが


今、ドラマだけど目の前にある


またどん底に突き落とされた気がした


これでもかと早くなる呼吸

かろうじて動いていた手さえ

痺れて動かない


そのまま意識を手放した








体に感じた僅かな振動

それで目を覚ました



23:45



それは臣史くんから

メッセージが届いた合図だった



「ごめん、デートだった」



たった一文、

けれどその一文が

この人は自分とは違う


疫病神の自分が関わっていい人じゃない




唯一、心を開いてた人にも

完全に心を閉ざした瞬間だった


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