蜍倬&縺�サ「逕溯�の憤懣
このパートには差別的な言葉が含まれますが、本作品に他者の心身への暴力を肯定・推奨する意図はありません。
イライラする。
イライラするイライラする。
イライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラするイライラする!!!!!
なんなのよこの修道院! なんっにもない山の中だしジジイとオッサンとオバサンと乞食と障害者しかいないし! 寒いしお菓子もアクセサリーもないし服はダサいしロクな娯楽もない! なんであたしがこんな刑務所みたいな所にぶち込まれないといけないのよ! せっかくピュアスノー・マリアージュのセイラになったってのに……。
「うっ」
キレてたら、血圧が上がったせいか刺されたあたりがうずいた。傷跡っぽいのは残ってないしもう大丈夫だって言われてるけど、ホントかわかんない。セイラは別ゲーでいう聖女じゃないし、戦闘するわけでもないからか弱いのよ。本来もっと栄養のあるもの食べて天蓋付きのベッドで休んで、お見舞いにきたイケメンたちからプレゼントをいっぱいもらうべきなのよ。風邪ひきイベントみたいに。
「あのクソ男……あんなカス男ルートあったっけ?」
ベッドの上でお腹をさすりながら、デズモンドのことを考える。顔も声もタイプだったけど、あんなヒス起こして刺してくるんだったらないわ。ケヴィンとかとキスしたぐらいで何よ。それだけで不潔扱いされるとかマジない。ま、あんなヒドイことしたんだから多分逮捕されて一生出てこれないよね。ざまぁ。
「セイラ・ラザフォード、いますか。夕の祈りの時間です、早くおいでなさい」
司祭のオッサンの不愛想な声が聞こえたので、しぶしぶ起き上がった。この修道院、マジで何もないから家事とお祈りしかすることがない。つまんねー説教と長いお祈りを毎日やらされて、退屈で頭がおかしくなりそう。だけど行かないとそれはそれで説教されて食事が一品減らされる。しょーもない木苺がちょっとだけ入った安っぽいパイすら食べられなくなる。
怪我が治ったらすぐ学園に戻れると思ったのに、何日待っても迎えは来ない。いつまでこんなクソみたいな場所にいなきゃいけないの?
誰に聞いても、キチガイを見るような顔をされてムカつくだけだった。
「我らが神と共に、犯した過ちを見つめましょう。同じ過ちを繰り返さぬよう、これから歩く道を見つめましょう」
昨日と同じようなつまんねーお祈りを済ませ、肉も魚もない貧乏くさい夕食を食べて、あたしは部屋に戻った。窓の外はどんどん暗くなっていく。今日も日が暮れていく。
「なんでこんなことに……」
何十回も繰り返した台詞を呟く。
ピュアマリにはもちろんこんな味気ない修道院なんか出てこない。攻略に失敗したら誰ともくっつかないエンドになるけど、急にキレられて挙句刺されるようなエンドはなかったはず。こんなのおかしい。
「なんで……」
いつの間にか眠りに落ちて、夢を見た。
どこかの豪華な部屋。ふかふかの椅子に悪役令嬢ベルリアンヌが座っている。ティーカップを手に、笑っている。
「――ええ。謹んでお受けいたしますわ。卒業生代表として恥ずかしくない挨拶をいたしましょう」
部屋には誰かいるみたいだけど見えないし声も聞こえない。あの悪女の声だけが耳に届く。
「――いえそんな。確かに縁談はたくさん舞い込んできますが……。まだ結婚について考えられない、というのが正直な気持ちですの。アルバート殿下とは……ああなってしまいましたし」
は? あいつアルバートと別れたの? アルバートのルートでこっち殺そうとするぐらい執着してたのに?
「――父の後を継いで公爵として生きるのも一つの可能性だと考えております。ふふ、きっと忙しいでしょうけれど、同時に楽しそうだと思いませんか?」
本当に楽しそうに、満足そうに笑っているベルリアンヌ。あたしがこんなに苦しんでいるのに、幸せそうな悪役令嬢。
「ふざけんなよ!」
怒鳴った瞬間目が覚めた。夢の中とは全然違う、真っ暗でろくな家具もない部屋。でもあの綺麗な顔と赤い目ははっきり目と脳に焼き付いていた。
「悪役令嬢のくせに破滅もしないで何? アルバートを捨ててゲームと違うことやって、なんであいつが幸せになってるの?」
そう言った瞬間閃いた。
「あいつも転生者なんだ! 自分が破滅したくないからってヒロインのあたしをハメて、自分を断罪する攻略対象たちにも復讐してんだ!」
そしてきっと今頃、公爵令嬢としてチヤホヤされながらあたしたちのことを嘲笑ってるに違いない。頭から爪先まで熱くなった。
「最低! 自己中! ピュアマリは悪役令嬢モノじゃねーし! 主人公気取って好き勝手しやがって!」
あいつのこと殴りたい。顔が潰れるまで殴りたい。鼻を潰して頬骨を折って、全部ぐちゃぐちゃにしてやりたい。許さない、許さない。
その時、ガタンと音がして窓が開いた。強風のせいで開いたらしく、ぶわっと冷たい風が部屋に入ってくる。
閉めようと近づくと、眩しい朝の光が目に入った。ちょうど夜が明けようとしている時だった。眩しい光の中に、何かの塔みたいなものが見えた。一番近い町はあっちにあるって聞いた。そこの教会かもしれない。
今抜け出してあっちの方向に走って森に入れば、もしかしたら町まで行けるかもしれない。誰か冴えない男を捕まえて金を出させたら、学園の近くまで行けるかもしれない。
あの女に復讐出来るかもしれない。
そう思った瞬間、あたしは窓から飛び降りていた。降ったばっかりの柔らかい雪の中に落ち、それを掻き分けて歩きだす。太陽がまぶしい。テンションが上がる。そうよ、あたしはヒロイン、ヒロインがそんな簡単に諦めちゃダメなのよ。
魔法のように体が動いて、あたしは修道院の奴らに捕まることなく町にたどり着くことが出来た。




