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この世界、文明は進化してるのに感情だけが退化していた 〜失われた感情を再び呼び起こす〜  作者: スアップ


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第7話 感情を消した世界で、“推し”が生まれた

《記録拒否》


その言葉が店内に落ちた瞬間。


空気が変わった。


ざわっ。


客たちが小さく動揺する。


ルナが俺の袖を引っ張った。


「……今の、かなり珍しい」


「そうなのか?」


「感情管理官って、全部ログ残すから」


なるほど。


この世界、

“感情すらデータ化”されてる。


なのにセレナは、

今の感情を保存しなかった。


つまり。


“自分でも残したくない何か”だった。


セレナはすぐ無表情に戻る。


「……業務を続けます」


でも耳が少し赤い。


分かりやす。


未来人なのにそこアナログなんだな。


その時。


店内モニターが突然切り替わった。


《SNS急上昇ワード》


1位:雑談

2位:人間味

3位:Life Support Terminal 7号店

4位:泣く子ども

5位:接客のお兄さん


最後絶対俺。


ルナが吹き出した。


「バズりすぎ」


「嫌なんだけど」


ベルクは逆に興奮している。


「すごいぞ!! 来店予約数が三倍だ!!」


「コンビニに来店予約あるの!?」


「最近は無駄外出減らすために事前最適化が基本だからね」


終わってる。


完全に終わってる。


買い物すら自由散歩じゃない。


その時だった。


店の外に人だかりができ始めた。


ざわざわ。


スマホ……じゃない、

思念端末みたいなものを向けられている。


「……なんだ?」


ルナが外を見る。


「見に来てる」


「何を?」


「“人間っぽい店員”を」


動物園かな?


ベルクが顔を輝かせる。


「これは革命だ!!」


「嫌な革命だな!?」


外から声が聞こえる。


「本当に雑談するの?」

「客の顔見るってマジ?」

「感情制御なし接客らしいぞ」


都市伝説扱いである。


その時。


女子高生っぽい二人組が店に入ってきた。


完全に観光テンション。


「きゃー! 本物だ!」


「ほんとに目合わせてくる!」


失礼すぎる。


一人が恐る恐る俺に話しかける。


「あ、あの……」


「ん?」


「おすすめの商品とか……ありますか?」


その聞き方が、

まるでレア生物への接触。


俺は少し考えた。


「甘いの好き?」


「え?」


「疲れてる時は甘いのいいぞ」


棚からプリンみたいなものを取る。


「これうまい」


女子高生たちは顔を見合わせた。


「うわ……」

「やば……」


「な、何」


「会話続いた……」


RPGのイベント扱いである。


するともう一人が小さく言った。


「なんか、“自分向け”に話されるの初めてかも」


その言葉に、

俺は少し黙った。


この世界。


AI最適化で、

全員に平等対応してる。


でも逆に。


“あなた自身”を見る文化が消えたのか。


女子高生たちはプリンを抱えながら帰っていく。


その時だった。


「……推せる」


「え?」


「この店員、推せる」


ぶっ。


ルナが吹き出した。


「推し認定された」


「なんで!?」


だがその言葉は、

周囲に伝染した。


「確かに」

「分かる」

「感情揺れる」

「また来たい」


店内モニター。


《新規感情ワードを検出》


《“推し”》


《意味解析中》


《解析不能》


ベルクが震え始める。


「未解析感情ワード……!!」


そんな大事件なの?


ルナが笑いながら説明する。


「この世界、“熱狂”を危険視して消してきたから」


「え?」


「アイドル文化とか、ファン文化とか、ほぼ絶滅してる」


俺は絶句した。


推し文化が存在しない世界。


そんなの。


かなり寂しくないか?


推し。


夢中。


応援。


熱狂。


確かに危険にもなる。


でも。


それって、

人生を動かすエネルギーでもあった。


その時だった。


セレナが突然モニターを見つめる。


《“推し”感情波》


《急速拡散中》


《社会安定指数に影響を確認》


警告表示が赤くなる。


ベルクが青ざめる。


「まずい……中央が動く」


「え?」


セレナは静かに呟いた。


「感情管理局は、“熱狂”を最も危険視しています」


「なんで」


彼女は少しだけ目を伏せた。


「昔、“推し”で世界が壊れたから」


「は?」


推しで世界が壊れた???


スケールがおかしい。


だがセレナの顔は本気だった。


その時。


店の外で悲鳴が上がる。


「きゃああああ!?」


全員が振り向く。


空。


巨大モニター。


そこに赤い文字。


《感情異常災害 発生》


《熱狂指数、危険域突入》


街の空気が変わる。


ざわざわ。


ざわざわ。


人々の感情が、

急に揺れ始める。


ルナが息を呑んだ。


「まさか……」


セレナが険しい顔で言う。


「誰かが、“感情制御”を壊してる」

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