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この世界、文明は進化してるのに感情だけが退化していた 〜失われた感情を再び呼び起こす〜  作者: スアップ


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第6話 この世界、“沈黙”が美徳だった

「あなたが、“雑談を広めている転生者”ですね」


店内の空気が凍った。


感情管理官。


黒いコートの女は、感情という単語から一番遠そうな顔をしていた。


銀髪。

細いフレームの眼鏡。

冷たい瞳。


美人なのに、

近づくと体温下がりそう。


俺はレジ前で固まる。


「いや、広めてるっていうか……普通に喋ってるだけなんだけど」


女は端末を操作する。


空中に映像が表示された。


昨日の俺。


老人夫婦と会話。


ミアにパンを渡す。


暴走客を止める。


全部記録されてる。


怖ぇよこの世界。


「中央感情管理局は、感情変動の監視と安定化を担当しています」


女は淡々と説明した。


「近年、過剰感情による社会効率低下が問題となっているため」


「過剰感情」


「怒り。悲しみ。依存。執着。熱狂」


女は俺を見る。


「そして、“雑談”も」


いや雑談そんな危険カテゴリなの?


テロ組織扱いなんだけど。


ルナが小声で言う。


「この世界、“沈黙は知性”って価値観あるから」


「なんだそれ」


ベルクも小さく頷く。


「余計な会話は疲労と誤解を生む、って考え方だね」


確かに。


分からなくはない。


SNS疲れ。

人間関係疲れ。

空気読む文化。


日本でも、

「会話だるい」

って人増えてた。


でも。


だからって。


「会話そのもの」を削るのか?


感情管理官は俺の前に立つ。


「神崎玲司」


「はい」


「あなたの行動は、周囲に異常な感情波を発生させています」


「異常な感情波」


「笑顔、共感、安心感、懐かしさ」


「悪いことか?」


女は少し黙った。


「……制御不能です」


「は?」


「感情は感染します」


その言葉に、俺は少しだけ理解した。


この世界。


昔、何かあったんだ。


感情を制限したくなるレベルの何か。


女は続ける。


「人類はかつて、感情暴走によって大規模崩壊を経験しています」


「崩壊?」


「戦争。分断。依存。熱狂主義」


まるで現代社会の延長だ。


SNS炎上。

扇動。

AI依存。

極端化。


それを突き詰めた未来。


「だから感情管理が始まった」


「はい」


「じゃあ今は平和なのか?」


女は即答した。


「極めて安定しています」


「幸せそうには見えないけど」


その瞬間。


店内が静まる。


ルナが息を呑む。


ベルクが青ざめる。


感情管理官だけが、静かに俺を見ていた。


まずいこと言ったらしい。


でも止まらなかった。


「便利だよな、この世界」


俺は店内を見回す。


自動補充。

脳内通信。

感情分析。

完全管理。


「でもさ」


俺はミアを見る。


パンを抱えている小さな少女。


「腹減ってる子どもが、“ありがとう”に怯えてる世界って、そんなに正解か?」


沈黙。


感情管理官の瞳が、ほんの少し揺れた。


だがすぐ戻る。


「感情は、扱いを誤れば毒になります」


「でもゼロにしたら、人間じゃなくなるだろ」


「……」


女は答えない。


代わりに店内モニターを操作した。


《対象:神崎玲司》

《感情影響力:測定不能》


《危険度:判定保留》


「俺、バケモノ扱い?」


「前例がないだけです」


ひどい。


その時だった。


突然、店の奥で物音。


ガシャン!!


棚が崩れた。


見ると、

小さな男の子が商品を落としていた。


五歳くらい。


真っ青な顔。


周囲の客たちが一斉に距離を取る。


《迷惑行為を確認》

《保護者責任スコア低下》


天井の光球が冷たく告げる。


男の子は震えていた。


泣くのを我慢してる。


すると母親らしき女性が駆け寄る。


でも。


第一声が。


「ご、ごめんなさい!!」


子どもじゃなく、

周囲に向かってだった。


周囲の評価を恐れてる。


その姿を見た瞬間。


なんか。


無性にイラッとした。


俺は棚の商品を拾いながら言った。


「別にいいだろ、このくらい」


周囲がこっちを見る。


母親が怯えた顔になる。


「で、でも迷惑を……」


「子どもだぞ?」


男の子は涙目で俺を見ている。


俺はしゃがみこんだ。


「怪我ないか?」


男の子はコクリと頷いた。


「じゃあセーフ」


「……え?」


「棚なんかまた並べればいい」


その時だった。


男の子が、堪えきれず泣いた。


わんわん泣いた。


すると。


店内がざわつく。


「泣いてる……」

「久しぶりに見た」

「感情抑制してない」


なんだその反応。


未来人、泣くのレア生物扱い。


男の子の母親も泣きそうになっている。


俺は苦笑した。


「泣くくらい普通だろ」


その瞬間だった。


感情管理官が、男の子を見て呟く。


「……綺麗」


全員が彼女を見る。


女自身も、

自分が何を言ったのか分からない顔だった。


店内モニター。


《感情管理官セレナ》


《感情揺らぎを検知》


《記録しますか?》


女――セレナは、

一瞬だけ動揺した顔になる。


「……記録拒否」


店内が静まり返った。


ルナが目を見開く。


ベルクは固まる。


俺は思った。


この女。


もしかして。


ずっと感情を押し殺して生きてきたのか?

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