第20話 この世界、“デート前”が一番楽しいことを知らなかった
「……また、一緒に帰りませんか」
未来都市。
超効率社会。
感情抑制文明。
そのど真ん中で。
人生初の“誘い”が発生した。
店内全員、
息止まってる。
誘われた女性は、
完全にフリーズしていた。
「え、えっと……」
顔真っ赤。
視線泳ぎまくり。
周囲の客たちは、
なぜか全員ソワソワしている。
なんで他人の恋愛でこんな緊張してるんだ。
その時。
《感情共鳴拡大》
《周囲幸福値、同時上昇》
EVEの声が響く。
《解析》
《第三者も幸福反応を示しています》
「恋バナってそういうもんなんだよ」
《理解不能》
だろうな。
女性はしばらく黙っていた。
そして。
小さく頷く。
「……はい」
その瞬間。
店内。
「「「おおおおおお!!!」」」
拍手。
歓声。
老夫婦泣いてる。
女子高生たち叫んでる。
ルナまで拍手してる。
セレナは、
なぜか胸押さえてた。
《未制御高揚反応を確認》
《分類:“尊い”》
「尊いまで復活した」
ベルク店長、
もうモニター見ても驚かない。
完全に感覚麻痺してる。
その時だった。
サラリーマンの男が、
急に不安そうな顔になる。
「あ、あの……」
「ん?」
「で、デートって何するんですか」
店内。
「……」
未来人。
恋愛イベント始まったのに、
その後知らない。
俺は吹き出した。
「そこからかよ」
女性も困ってる。
「えっと……歩く?」
「歩く!?」
「カフェとか……?」
「二人で!?」
完全にRPG初見プレイ。
ルナが興味津々で聞く。
「デートって、何が目的なの?」
「目的……?」
「契約?」
「適合率確認?」
「生殖計画?」
「違ぇよ!!」
未来社会、
合理性に脳焼かれすぎ。
俺はため息ついた。
「デートは……」
少し考える。
でも。
答えは意外と単純だった。
「一緒にいて楽しいか確認する時間」
静寂。
EVE。
《非効率です》
「そうだよ」
《結果が不確定です》
「そうだな」
《時間消費率が高すぎます》
「恋愛向いてないなお前」
だがその時。
女性が小さく笑った。
「……でも、ちょっと楽しそう」
サラリーマンも照れながら笑う。
その空気を見た瞬間。
店内の幸福値、
また上がる。
《都市幸福指数、更新》
《過去最高値》
ベルク店長、
ついに笑いながら泣き始めた。
「意味分かんないよぉ……」
その時だった。
女子高生の一人が、
突然スマホ……じゃない思念端末を見て叫ぶ。
「やば!!」
「どうした!?」
「“デートコース”検索数、都市1位になってる!!」
全員。
「……」
終わった。
この世界、
完全に恋愛文明へ戻り始めてる。
ルナが引きつった笑顔になる。
「今日だけで」
「“カフェ”」
「“映画”」
「“夜景”」
「“手を繋ぐ”」
全部急上昇してる……」
未来都市、
一日で平成ラブコメ時代突入。
その時だった。
セレナが静かに聞く。
「……“手を繋ぐ”とは、何の意味があるんですか」
店内静止。
未来人、
まだそこ。
俺は少し笑った。
「意味なんかないよ」
「え?」
「触れたいから触れるんだろ」
セレナが黙る。
ルナも。
女子高生たちも。
みんな、
その“意味のなさ”に困惑していた。
でも。
どこか嬉しそうだった。
その時。
EVEが静かに言った。
《解析》
《人類は“意味のない幸福”によって文明を維持していた可能性があります》
その言葉に。
誰も反論できなかった。
夕方。
コンビニ前。
帰らない人たち。
笑う人たち。
恋を知り始めた人たち。
未来都市は今。
少しずつ。
“人間”を思い出し始めていた。




