第19話 この世界、“好きな人と話すだけ”で眠れなくなった
翌朝。
都市全域が軽く寝不足だった。
《中央睡眠管理局 緊急報告》
《昨夜、“就寝前感情高揚”が過去最大値を記録》
《原因調査中》
ベルク店長がニュース見ながら笑ってた。
「終わりだこの世界」
「毎回言ってるなそれ」
店の外では、
朝なのに人がざわざわしている。
「昨日“また明日”って言われて眠れなかった……」
「返信文、三時間考えた」
「“おやすみ”送る文化、難易度高すぎる」
未来人たち、
恋愛耐性ゼロ。
ルナは目の下にクマ作っていた。
「……夜中二時まで相談乗ってた」
「何を」
「“友達との会話、どこで終わればいい?”って」
「あー……」
分かる。
でもこの世界の人たち、
今まで距離感AI任せだった。
だから。
“会話終わらせたくない感情”
に慣れてない。
その時だった。
女子高生たちが店に飛び込んでくる。
「やばい!!」
「どうした」
「“好きな人”できたかもしれない!!」
店内静止。
ルナが固まる。
ベルク店長が天を仰ぐ。
「ついに来たか……」
「ラスボスみたいに言うな」
女子高生は混乱していた。
「でも分かんない!!」
「話すと心拍数上がるし」
「返信待っちゃうし」
「会いたいし」
「でも怖いし」
《未制御感情群を確認》
《分類候補:“恋”》
店内モニター、
ついに禁断ワード出した。
ベルク、
椅子から落ちる。
「恋まで復活したぁぁぁ!!」
その時。
セレナが静かに呟く。
「……これが、恋」
その顔は。
少し羨ましそうだった。
俺は女子高生たちを見る。
完全に混乱してる。
でも。
どこか楽しそうだった。
俺は苦笑する。
「まあ、好きな人できると大変だからな」
「どう大変なの!?」
「寝れない」
「もう寝れてない!!」
「相手の言葉ずっと考える」
「考えてる!!」
「会えないと寂しい」
「それ!!!!」
店内で悲鳴みたいな共感起きた。
未来都市。
ついに“恋バグ”発生。
その時。
EVEが静かに問いかける。
《質問》
「はいはいなんだ」
《“会いたい”とは、なぜ発生するのですか?》
難しいなそれ。
でも。
俺は少し考えてから答えた。
「一緒にいると、世界がちょっと楽しくなるからじゃないか」
静寂。
女子高生たちが真っ赤になる。
ルナも黙る。
セレナは目を伏せていた。
EVEは数秒沈黙したあと、
静かに言った。
《解析》
《特定人物との接触により、幸福値が上昇》
《しかし依存リスクも増加》
「まあな」
《非合理です》
「恋愛なんて大体そうだろ」
その時だった。
ミアが小さく聞いた。
「……れいじさん」
「ん?」
「好きな人と話すと、なんでドキドキするの?」
店内。
全員こっち見てる。
なんなんだこの公開恋愛講座。
俺は少し困って、
頭を掻いた。
「……特別だからじゃないか」
「特別?」
「他の人と違うってこと」
その瞬間。
店内モニター。
《新感情カテゴリ》
《“特別”》
《危険度:極高》
「極高なんだ」
でも。
その表示を見ても、
もう誰も怯えなかった。
むしろ。
少し嬉しそうだった。
その時。
店の外から歓声。
見ると、
昨日のサラリーマンが、
花を持って立っていた。
「……え?」
彼は真っ赤な顔で、
入口付近にいる女性を見る。
震えながら。
「き、昨日さ」
女性も真っ赤。
店内全員、
息を止める。
サラリーマンは、
人生で初めて告白する人みたいな顔で言った。
「……また、一緒に帰りませんか」
静寂。
次の瞬間。
店内モニターが真っ赤に染まる。
《重大感情イベント発生》
《“デート”形成を確認》
《都市幸福値、急上昇》
ベルク店長、
もう笑うしかなくなってた。
「……誰だよ感情消した方が幸せとか言ったやつ」




