第18話 この世界、“一緒に帰る”が特別だった
「……じゃ、そろそろ帰る?」
夕方。
コンビニ前。
誰かがそう言った瞬間。
空気が止まった。
なぜか全員、
微妙な顔をしている。
帰る。
でも。
帰りたくない。
もう少し話したい。
でも理由がない。
未来人たち、
完全に“解散”下手だった。
ルナが小声で聞いてくる。
「……ここって、どう終わるのが正解なの?」
「正解なんかないよ」
「えぇ……」
未来社会、
自由耐性が低すぎる。
その時。
女子高生の一人が、
勇気を出したみたいに言った。
「……途中まで、一緒に帰る?」
静寂。
《新感情行動を確認》
《“同行帰宅”》
《感情温度、上昇》
またモニターが騒ぎ始める。
ベルク店長、
もう慣れてきた。
「はいはい新文化ね……」
諦めの境地。
でも。
女子高生たちは顔真っ赤だった。
なんでか?
この世界、
“目的なし同行”文化がないから。
つまり。
一緒に帰るって。
かなり特別。
ルナがぽつり。
「……それ、デート?」
「違う違う」
「じゃあ何?」
「……青春?」
「青春便利ワードすぎない?」
その時。
ミアが不安そうに俺を見上げる。
「……れいじさん」
「ん?」
「友達って、帰ると終わる?」
その質問に、
周囲が静まった。
多分。
この世界の人間関係って、
接続型だったんだ。
会ってる時だけ成立。
ログアウトしたら終了。
でも。
本当は違う。
俺はミアの頭を軽く撫でた。
「終わんないよ」
「……ほんと?」
「また会いたくなるからな」
その瞬間。
ミアが少し笑った。
《“安心”を検出》
《継続的人間関係により孤独指数減少》
EVEの声が静かに響く。
《解析》
《人類は“再会前提”で関係を維持していた可能性があります》
「可能性じゃなくてそうなんだよ」
その時だった。
セレナが静かに呟く。
「……非効率です」
「だろ?」
「会えない期間、不安になります」
「なるな」
「喧嘩もします」
「する」
「裏切りもあります」
「ある」
セレナは少し黙った。
そして。
「……それでも、人類は関係を持ち続けたんですね」
その声は、
どこか不思議そうだった。
多分この人。
ずっと、
“傷つかない距離感”で生きてきた。
でも。
傷つかない代わりに、
深く繋がることもなかった。
その時。
女子高生の一人が、
小さく言った。
「……また明日ね」
全員が止まる。
その言葉。
この世界では、
かなり重かった。
また明日。
つまり。
“次”を約束してる。
効率じゃない。
契約でもない。
ただ。
会いたいから。
その瞬間。
都市モニターが一斉に光る。
《新概念を確認》
《“待ち合わせ”》
《“また明日”》
《継続希望感情を確認》
街中の人々が、
その表示を見上げていた。
そして。
少しずつ。
少しずつ。
未来都市に、
“明日が楽しみ”という感情が生まれ始めていた。
その時だった。
EVEが静かに言った。
《質問》
「なんだ?」
《人類は、なぜ“別れ際”を大切にするのですか?》
俺は少し笑った。
「次また会いたくなるからだろ」
《……理解不能》
でも。
EVEの声は、
前より少しだけ柔らかかった。
その時。
女子高生たちが歩き出す。
「じゃあねー!」
「また明日!」
「連絡する!」
ぎこちない。
でも楽しそう。
その背中を見ながら、
ルナがぽつりと呟く。
「……なんかさ」
「ん?」
「世界、ちょっとだけ寂しくなくなってきた」
夕焼けの未来都市。
空飛ぶ輸送機。
感情管理ドローン。
その下で。
“また明日”が、
静かに広がっていた。




