第17話 この世界、“既読スルー”が存在しなかった
《“友達”》
《理由なく一緒にいたい相手》
都市中のモニターにその定義が流れた夜。
世界は静かにバグっていた。
翌日。
Life Support Terminal 7号店。
開店前。
俺はコンビニ前の椅子でコーヒーを飲んでいた。
すると。
「……眠い」
ルナが死んだ顔で現れる。
「どうした」
「昨日、三時間もメッセージ来てた」
「人気者じゃん」
「違う」
ルナは頭を抱える。
「みんな、“友達”になったあと何話せばいいか分からなくて混乱してる」
俺は吹き出した。
未来人、
コミュ障すぎる。
ルナが空中UIを見せる。
そこには大量のメッセージ。
『友達になった場合、次回接触頻度は?』
『雑談テンプレートを送ってください』
『沈黙時間は何秒まで許容されますか?』
『用事がないのに送信しても問題ありませんか?』
全部マニュアル探してる。
終わってる。
その時。
ルナが真顔で言った。
「あと、“既読スルー”問題が発生してる」
「は?」
「みんな返信速度最適化社会だったから」
なるほど。
この世界、
即レス文化しかない。
効率社会だから、
メッセージは“処理”。
だから。
返信しないって概念がない。
ルナが続ける。
「返事遅れるだけで、“嫌われた?”って感情暴走してる」
「面倒くさ!!!!」
でも分かる。
友達文化を失った世界だ。
距離感が分からない。
その時だった。
店の外から慌てた声。
「た、大変です!!」
女子高生の一人が駆け込んでくる。
「どうした!?」
「友達になった子から返信来なくて……!」
「何分?」
「十八分」
「短ぇよ!!」
未来社会、
メンタル弱すぎる。
女子高生は半泣き。
「嫌われたかも……」
するとEVEの声。
《解析》
《現在、“既読スルー不安”が都市全域で急増しています》
「なんだその地獄」
セレナまで頭抱えてる。
「感情制御社会では存在しなかった問題です……」
そりゃそうだ。
だって今まで、
“友達”がなかったんだから。
その時。
俺はふと思った。
「……この世界、既読ってどうなってる?」
ルナが答える。
「感情同期通信だから、相手が読んだ瞬間全部分かる」
「地獄だ!!!!」
逃げ場ゼロ。
既読無視、
精神ダメージ直撃仕様。
そりゃ病む。
その時だった。
女子高生の端末が光る。
返信。
『ごめん。返信内容考えてた』
女子高生、
固まる。
「……え?」
『友達との会話、初めてだから』
その瞬間。
女子高生の顔が真っ赤になる。
「うわぁぁぁ……」
ルナが小さく呟く。
「……なんか、可愛い」
《新感情を確認》
《“きゅん”》
《解析不能》
また未知ワード。
ベルク店長、
もう諦め顔で天を見てる。
「感情辞典が足りない……」
その時。
店の外に、
また人が集まり始めていた。
でも昨日と少し違う。
今日は。
みんな誰かと一緒だった。
「昨日の人!」
「また来た!」
「友達と来てみた」
その光景を見て、
俺は少し驚く。
たった一日で。
この世界に、
“待ち合わせ”が生まれてる。
セレナが静かに言った。
「……人類は昔、こうやって繋がっていたんですね」
その声は。
感情管理官じゃなく。
ただの一人の女性みたいだった。
その時だった。
EVEが静かに告げる。
《新たな問題を確認》
「今度は何だ」
数秒の沈黙。
そして。
《“友達と帰りたい”という感情が発生しています》
静まる。
女子高生たちが顔を見合わせる。
ルナがぽつり。
「……帰るタイミング、分かんなくなるやつだ」
俺は笑った。
「ああ。青春だな」
《“青春”の症状ですか?》
「症状じゃねぇよ」
だがその時。
都市全域で、
また新しい感情が生まれ始めていた。
“もう少し一緒にいたい”。
効率だけでは説明できない、
人間らしい願いが。




